第385話 「発動!新魔法剣。悪質冒険者の哀れな末路」(バトル)
サイガが交易都市クロストで購入して以降、愛用していた魔法剣だが、タタンギィルとの戦いで魔法珠に封じられたメイの炎を利用しようとしてその炎に耐えきれずに損失した。
中央都市に戻った際、その事をドクターウィルに伝えると、ウィルは「任せておけ」と自信満々に新たな魔法剣の開発に乗り出してくれた。
そして今、サイガの手には新たな魔法剣が握られている。
刃は柔軟性に富んだ金属を採用し、メイの超高温、ナルの絶対零度、そのどちらにも瞬時に切り替えが可能。
魔力の伝導性にも優れ、高い純度で魔法を再現する。
柄の構造は大幅に改善され、従来は一つだけだった魔法珠を嵌め込む穴が四つ。付け替えが不要となり、応用力が高まった。
さらには発動可能な魔法は、属性のみならず補助もその範囲に入る。
「試作品じゃから、これ一本しかないが、思う存分使ってデータを集めてくれ。期待しとるぞ」
そう言ってドクターウィルは新たな魔法剣をサイガに託した。
「ではまずは、メイの炎を使わせてもらうとするか」
サイガが柄に嵌められた魔法珠の一つに触れると、強く赤い光を発する。メイの炎魔法だ。
炎に熱され、魔法剣の刃が発光を始めた。白色が高熱を示す。
「し、白だと?」
刃の色を見たサイガは思わずたじろぐ。
金属が白色で発光するのが二千度以上。ほんの一動作でそれを実現させるウィルの技術とメイの魔力にあらためて脅威を感じたからだ。
「主人そっくりのジャジャ馬か。ふっ・・・面白い、だったら乗りこなして見せる!行くぞ!」
サイガが気合いを込めると、刃が輝きを増した。
「はぁっ!」
左、逆手に構えた魔法剣を一振りすると、爆炎が迸り、五十人が炭となって声も出せずに消し飛んだ。
「な・・・なんて威力・・・メイのやつ、普段からこんな魔力を制御しているのか・・・本当は優秀なのか?」
その炎の一端を扱うことで、サイガはメイの魔力を実感し、魔力以外は低く評していた認識を改めた。
「あ、熱いぃぃぃ!」
「ホ、ホルン先生、助けてくださいぃぃぃ、か、身体が燃えるぅぅ・・・」
魔法剣から放たれたメイの魔法の威力は、本人の手を離れながらも遜色なく敵を焼いた。
そのショックと熱によって、スキル『心酔』の効果はかき消され、正気となった兵たちの叫びでホルンの周辺は阿鼻叫喚の光景となった。
ある者はその場でのたうち回り、ある者は炎に包まれながら逃げ出す。
今や、サイガとホルンを隔てるものは無く、互いに全身像を視認できるほどだった。
「魔法一発で解ける洗脳か、呆気ないものだな。さて、こんなところで時間をかけてられんな・・・終わらせる!」
サイガが決着のために魔法剣を振り上げた。その時。
「だめだめぇ、皆さんなにやってるんですかぁ?すぐに戻って先生をお守りしてぇ~」
戦場に似つかわしくない緊張感の欠ける女の声が轟いた。迫力はホルンに劣るが、よく通る聞き取りやすい声だ。
声が発されると同時に、逃げる兵たちが足を止めた。
直後、踵を返し二ヶ所に密集する。一つはホルンの前。もう一ヶ所は派手な化粧の女の前。渦嵐刃から生き延びた二人だった。
「はぁい、皆さん、良くできましたぁ!それじゃあ次は間に立って炎を防ぎましょう。自己犠牲と敬愛の精神が上級冒険者への道ですよぉ」
女が呼び掛けると、怪我の状態の良し悪しにかかわらず兵たちが密集して人間の壁を作り上げた。
サイガはそこに、ホルンのスキル『心酔』と同じ印象を受けた。
「これもスキルか?だが、二人揃って似たような効果では合点がいかないな・・・正体はわからんが、スキルの掛け合わせか?」
兵たちに起こった現象からサイガは推察した。そしてそれは的を射る。
◆
女の名は上級冒険者『つぼみ食らいミョンティ』。
ホルンと同じく異界人で、有するスキルは『伝播』。自身が受けた魔法やアイテムなどの効果を同質のまま拡散する能力だ。
ミョンティはこの伝播で、最大で数十名程度だったホルンの心酔の効果を数千名にまで拡大させることが出来る。
『心酔』と『伝播』。この二つのスキルの効果の掛け合わせは、他者を操るのに最上の成果を発揮した。
ホルンの心酔をミョンティの伝播が拡散し、多数の人間を同時に従属させる。
これによって、二人はこれまで多くの冒険者たちを踏み台として扱い、まんまと上級冒険者へと登り詰めた。
いつしか二人は周囲の冒険者たちから『ルーキー殺しホルン』『つぼみ食らいミョンティ』と呼ばれ嫌遠されるようになっていった。
◆
「催眠状態なのかもしれんが、敵として立ちはだかるからには容赦はせん。関わった仲間と、おれが敵だという不幸を呪って散るがいい。はぁっ!」
魔力爆発。魔法剣から炎が噴き上がった。刃を下に向け、地面に突き立てる。
「まとめて燃え尽きろ『獄炎焦土』!」
サイガを中心として炎が放射状に広がった。色は橙、温度は千度近くに及ぶ。
広がった炎は兵たちの足の隙間を抜けるように進むことで、満遍なく広がり敵を範囲に納めた。
「『昇炎』!」
一斉に炎が天を突く。その勢いの強さに、兵たちの身体は宙に浮かび、肉と鉄の焼ける匂いと煤が場を支配した。
わずか数秒で炎は天に上りきって姿を消した。後には人間、鎧、衣服だった黒い物体だけが残った。
目の前で起こった圧倒的出来事に、ホルンとミョンティは腰を抜かしてへたりこんだ。
サイガはホルンに歩み寄り忍者刀の切っ先を突きつける。
「少々厄介なスキルだったが、他人を操って動かす程度しか出来ないなら、上級止まりが精一杯というところだろうな」
手厳しい言葉だが、サイガに悪意はない率直な感想だった。
へたりこんだまま、ホルンは動けない。心酔のスキルを多用してきた結果、己の鍛練を怠り戦闘力は上級でも下の方なのだ。
そのため、サイガに気圧されて縮み上がっているのだ。
無言のまま対峙するサイガの後ろで、ミョンティが気取られないようにゆっくりと立ち上がった。逆手にナイフを握っている。
足音を消したままミョンティは忍び寄り、ナイフを掲げて首を狙う。
「もっと忍べ、未熟者」
当然だが、半端な隠行は忍であるサイガには全く通じなかった。
振り向きもせずに右手に握った忍者刀を軽く振ると、ミョンティの右腕を切り落とし、首を裂き、心臓を突いて絶命させた。
やはりスキルに溺れ技の鍛練を怠っていたのだ。
血を撒き散らし崩れ落ちるミョンティを目の当たりにし、ホルンは恐怖で声を震わせながら必死に命乞いをする。
「た、助けて。命だけは・・・うっ」
「・・・」
ホルンの言葉を聞き終わる前に、サイガは忍者刀で喉を突いて終わらせた。
眉一つ動かすこと無く、更に無言のままだった。
◯上級冒険者 ルーキー殺しのホルン
◯上級冒険者 つぼみ食らいミョンティ
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