第384話 「暗躍する上級冒険者。悪名だらけの大合戦」(バトル)
「は、はぁぁぁぁぁ!?ひ、人質が消えて・・・敵が出たぁあああああ!」
次元干渉装置によって、ハーヴェの村人による人質たちは、サイガ率いる重装備の軍団と入れ替わった。
そのあまりの出来事に、丘の上からレディム軍を指揮するルルララ・ミミは起こったことをありのままに口にした。
「指揮官殿、落ち着きなされ。数での有利は変わりませぬ故、押し潰してしまいましょうぞ」
錯乱一歩手前のルルララに『人道魔王ズィィム』が声をかけ、意識を平静に導く。
「そ、そうですね。すいません、思いもしないことで取り乱しました・・・コホン!」
「ほほほほ・・・慣れぬ重責、お苦しいでしょう。一人で無理をせず、私らにもお任せください」
ズィィムはニコリと笑った。安堵を招く口調だった。
◆
人道魔王ズィィムは戦闘能力が中級の中程度だが、人心掌握に長ける。
思慮深さと穏やかな物言いで相手の心に潜り込み、時には上級冒険者すらも言われるがままに従う。
そうしてズィィムは軍団を作り上げ、現在では数十人規模の上に立つことで上級冒険者の地位を手に入れた。
ルルララを落ち着かせたのはその片鱗であり、ズィィムはレディムに似た特性を持っているのだ。
◆
「ズィィム殿、私は現状の把握と全体の指揮のため離れます。レディム様の護衛はお任せします」
「うむ、安心なされい」
場をズィィムに託すと、ルルララは走り去った。
陣中に消え行く背を見送るズィィムの隣に、上質な生地の羽織をまとった男が近づき立った。軍の主レディムだ。
次元干渉装置によって現れたシフォン軍を見る。
「さっきのあの光、術かな?」
顎をさすりながら問うレディム。
ズィィムは前を向いたまま答える。
「いや、魔力の流れを感じませぬ。おそらく大掛かりな仕掛けでしょう。あちらには考古学者で古代文明に長けたセイカ・ゴマや科学を持ち込んだドクターウィルがおります。魔法以外の手段も揃えていてもおかしくない」
「そうだな。それで、貴殿は何が起こったと考える?」
「置換・・・でしょうな。そして対象範囲は個ではなく域と見ます。小さく分けられている区画が怪しいですな。なんにせよ未知の現象ゆえ、士気と戦況には大きく響きましょう。警戒なされよ・・・」
「でしょうね。さて・・・ルルララはどう判断するかな?うふふふ頑張ってくれよぉ・・・」
口角を上げ、再び顎をさすりながら、レディムは陣全体を高みから見る。
◆
次元干渉装置の置換によって、レディム軍の最前線に突如現れたサイガ。
そしてそれを目の当たりしたレディム軍の兵士たち。
距離は一メートル。両者の目が合った。
一番前の兵士の首が飛んだ。我に返る前にサイガが動いたのだ。
「突撃!」
斬首を皮切りに、重装備のシフォン軍がスピアを前に突き出し前進した。
統率された動きのシフォン軍に対し、レディム軍は混乱していた。その被害をもっとも被ったのがサイガたちと向かい合った前線の兵たちだ。
区画の置換という通常の戦略では発想すらない事態に、状況は味方に伝わらず後衛は前進を続ける。
前衛の兵は、前から重装兵の攻撃を受け、後ろからは味方に押され、進退極まってしまっていたのだ。
サイガの忍者刀が右から左へ走る度、兵士の首から血飛沫が舞う。一刀一殺。洗練された太刀筋だった。
横一閃。さらに刃が首をはねた。
直後、首を失った兵の身体が前に飛び出し、サイガに抱きついた。
「なんだと?まだ動くか」
首無しの身体はサイガにしつこくしがみつき、動きを封じようとしてくる。事切れる様子が全くなかった。
首を失った肉体が動くということの事例がないわけではない。だが、サイガの知る限りここまで生きているように振る舞われたのは初めてだった。
直感だが確信した。上級冒険者のスキルだ、と。
しかし、肝心のスキルの使い手の姿が見当たらない。巧みに兵の中に紛れているのだ。
「しつこいぞ!破!」
しがみつく首無しをサイガは強引に振りほどき蹴り飛ばすと、忍者刀を構える。
「本体を探っている暇はないのでな、一気に片付ける!『渦嵐刃』(からんじん)!」
忍者刀を振ると、技の名の如く刃の嵐が巻き起こった。
無差別な殺意が、取り巻く五十人の兵を一瞬で人体から部位へと分解した。肉片と血の池が広がる。
散らばる兵士たちの残骸。
しかしそこに、無傷の者が二人。足元には多くの肉片が転がっている。
肉片は人数にして五人分はあるだろう、兵を盾にして己の身を守っていたのだ。
「これはすごい。斬撃が全く見えませんでした。これが噂に名高い最強戦力ですか。恐いですねぇ~」
散らばる肉片を見渡しながら、軽妙な口調で語るのは派手な色のスーツ姿の男だ。
「・・・・・・」
およそ戦場に似つかわしくない身なりの男に、サイガは怪訝な顔で無言になる。
「・・・さっきの、首無しで動く兵と人間の盾はスキルによるものだな」
「そのとぉぉりっ!素晴らしい戦闘の腕だけじゃなく、優れた観察眼をお持ちだ。流石、一番の実力者。一番の大金星!あなたを倒すことが最高のサクセス!」
男が甲高い声を上げた。丁寧な口調だが、オペラのように耳に残る。サイガの不信感は一層深まる。
「ねぇそうでしょう、皆さん!?」
「はい!先生!」
周囲によく響く声で男が問いかけると、兵たち数百人が一斉に元気な声で返事をして武器を構えた。
「!?なんだ、こいつら・・・正気じゃないな」
返事をした兵たちを一瞥すると、サイガはその様子に違和感を覚えた。
全ての兵が目を剥くように大きく開き、呼吸荒くサイガを一点凝視している。
それは飢えたケダモノが一週間ぶりに獲物を見つけたような、貪りの目だった。
「彼、サイガを討ち取れば、武名が上がります。夢、栄光の上級冒険者への道ですよ!」
「おおおおおおおお!」
男が焚き付けるように声を発し、大きく手を振ると、兵たちが雄叫びと共に一斉にサイガに向かって詰め寄せた。
しかしその動きは凡庸なものだったため、サイガは斬撃打撃の一撃一殺で近づく者から順次沈めていく。
一人は顔を潰し、一人は首を斬り飛ばし、一人は心臓を貫く。
「簡単に死んではいけませんよ、皆さん!死んだら終わり。夢の上級生活がなくなっちゃいます!下級や中級、ただの兵卒で終わりたくありませんよね?さぁ、攻めるんです!」
男が声を張り上げる。再び兵たちが鼓舞され更に戦意が高まった。
「いったいどう言うスキルだ?あいつが声をかける度に兵が奮い立っている・・・ん?」
たった一人で数百人を迎え撃つサイガの目に例の光景が映る。
一撃で葬ったはずの兵士の死体が起き上がり、武器を手に襲いかかってきたのだ。
「な、生き返った?いや、死んでいる・・・死してなお戦うのか・・・」
「そうです!死んでる場合ではありませんよ。この私、ホルンの声は魂、肉体に響き渡り、ひたすらに突き動かすのです!これぞ私のスキル『心酔』!さぁみなさん、私の声に酔いしれなさい!そして掴め、夢の上級生活を!」
「はい、先生!」
一斉に元気よく返事する兵たち。ホルンのスキルによって突き動かされていた。
スキル心酔は、その細胞の一つ一つまで従えるのだ。
そしてそこでは、斬り落とされた腕や足が、独立して動き始めていた。
「心酔という割には、心の有無は問わないか・・・これは手間になりそうだ・・・」
サイガは忍者刀と抜き放った魔法剣を構えた。
「ドクターウィル特製の最新式だ。メイの炎にも耐える性能らしいが、試し切りには丁度良いな」
二つの刃は殺意の光を宿した。
◯上級冒険者 人道魔王ズィィム
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