第383話 「次元干渉装置発動!人質を救い出せ!」(バトル)
単騎突入を敢行した特級冒険者リリー・コールドの活躍で、前衛の一部を担っていた上級冒険者の『涙知らずのシュテッカ』が討たれた。
これによって、レディムの軍は大きな動きを見せる。
シュテッカの穴を埋めるためとリリーの首級をあげるために、二人の上級冒険者が迫ってきた。
奴隷出身の『鎖使いナムナン』と女術師『風切りのフォーラー』だ。
「ナムナン、動きを封じろ!」
フォーラーが指示を出すと、ナムナンが蛇のように自在に動き回る鎖を投じてリリーの足を狙う。
「おおっと、食らうかよ!」
軽快に跳び、リリーは鎖を避けるが、そこをフォーラーの操る風魔法が上から押さえつけた。
リリーは地上に戻された。一瞬動きが止まると、あらためて投じられた鎖が左足に絡みついた。
「げ!マジかよ?さすがに上手ぇ、こいつは厄介だな・・・いっちょ気合い入れっかぁ!」
同じ上級だがシュテッカとは違う息の合った戦法に、リリーは戦意を一段階高めた。
◆
戦いを繰り広げる三人を、馬上から気だるげな目で見る男が一人、上級冒険者の『クイックシューター・レイガンマ』だ。
レイガンマはその名のとおり、速射を得意とする。
短身の銃で魔法弾を撃ち、その速度は一秒に十発とも言われる。
「二人ならなんとか凌げるみたいだけど・・・三人になったら、果たしてどうかな?」
銃口をリリーに定めると、レイガンマは引き金に力を込める。
十連速射での決着。そう確信したレイガンマだったが、急速飛来した矢が銃身の側面を叩き銃撃を遮った。
「痛ってぇ・・・くそっ、ウォルフジェンドか?」
怨敵の名を呼びながら矢が飛んできた方向、右側を睨む。正確な銃身への狙撃。死射手を疑うのは当然だった。
しかしそこには、腕組みをしたままヘラヘラと笑う死射手ウォルフジェンドがいた。
レイガンマと目が合うと、後方を親指で指し「あいつだよ」と知らせる。
「な・・・ウォルフジェンドじゃないのか・・・?じゃあ、一体誰が・・・」
ウォルフジェンドの示す先、シフォン軍の前衛。そこにいたのはウォルフジェンドの一番弟子、弓の名手エィカだった。
「エルフの女?何者だ?」
レイガンマはエィカの顔を知らない。そのため、その弓の腕が師を超えるものであることも。
エィカの弓がしなり、矢が放たれた。
「ヤバい!」
神速の矢を察したレイガンマが三連射を放つと、眼前で矢を撃墜した。
射かけられたことでレイガンマは激昂し、狙いをエィカへと切り替えた。銃を短身から長身へ持ち替え、自慢の速射をエィカへと浴びせる。
「おおおおお、死ねええええ!!」
最大数の十連発。
即座にエィカはそれに応じる。
矢と銃弾がほぼ中央、ウォルフジェンドの周囲でぶつかり、落ちていく。
「はっはっはっはぁ、いいぞ、やってやれやってやれ!」
衝突の火花を皮膚に浴びながら、ウォルフジェンドは笑っていた。
しかしその目では冷静に戦況を捉える。
速射が得意なレイガンマに対し、一矢に高い集中を必要とするエィカはどうしても速度で劣り、徐々に劣性となっていた。
ウォルフジェンドの眼前で行われていた衝突が、ジリジリと真横にまで押されて来ていた。
「つ、強い・・・これが、上級冒険者・・・」
弦を引く指への負担と、押し負けるという現実が、エィカの顔を苦痛に歪ませる。
「・・・やぁれやれ、ちったぁ成長したと思ってたが、上手いのは弓だけか。ま、上級の上と少しでも渡り合ったんだ、良しとしとくか」
エィカの苦境に師が動いた。
右手の人差し指をピンと立てると、横を通りすぎようとした矢に指を引っかける。
「そらよ!」
矢に合わせて指を軽く振り抜くと、矢は一気に加速した。音を越えた速度だった。
ウォルフジェンドがなにやら小細工をした。レイガンマはそう理解した。だが、理解した瞬間にはレイガンマは加速した矢に眉間を貫かれて、大きくのけぞって絶命、落馬した。
「あ、ありがとうございます・・・先生」
「三十点、精進が足りねぇな。帰ったら稽古のやり直しだ。しっかり指治しとけ」
「は、はい・・・」
未熟さに、エィカは己を恥ながらも次の敵に向けて気を引き締めた。
◆
開戦直後、特級冒険者二人の働きによって、上級冒険者二人が落ちた。これは、レディムの軍に動揺を走らせた。
この事態に、レディムの秘書であり統括を任されていたルルララ・ミミは嘆きの声をあげる。
「ああ、大枚はたいて雇ったというのに、あんなにあっさり上級冒険者が倒されるなんて。こんなことなら隊を任せたりしないで私が指揮を執ればよかった!」
頭を掻きながら唸るルルララ。計算能力や政務能力は高いのだが、戦闘指揮や人間を見る目がいささか頼りない。
戦が始まってからは、準備の段階からこういった後悔の連続で気苦労が絶えないのだ。
「いけない・・・私ったらまた慌ててる。ちょっと落ち着かなきゃ・・・がんばりなさい、私」
胸に手を当て呼吸を整える。ルルララはこうして、乱れやすい自分を自己暗示のように落ち着けるのだ。
「ふぅ・・・」
呼吸を整えると、自軍の様子を確認する。
陣中のリリーはフォーラーとナムナンが動きを止めている。
正面にはウォルフジェンドが一人。
人質は健在。
兵力差は五万対二万。数の優位に揺るぎはない。
「こうなったら、人質を有効活用して数で併呑する!『前衛、隊列を保ったまま前進しろ。決して人質の前に出るな!』」
意を決したルルララが、剣をかざして命を下すと、全軍が前に向かって進み出した。
前衛部隊は二千人規模の一団が五隊横並びとなって、人質を盾にしたかたちだ。
ルルララはこの陣形のまま、ジリジリと数で蹂躙するつもりなのだ。
「フォーラー、ナムナン、私たちが出ている間、その女をそこで足止めしておけ!なんなら殺しても構わん!」
気を持ち直し、凛々しい顔つきとなったルルララが指示を残し前進した。
◆
「う、うぉっ、や、やべぇ。流石のオレでもこの数はどうしようもねぇ。こいつぁ退散だひぇぇぇ~」
情けない悲鳴をあげてウォルフジェンドが後退した。
当然、これはドクターウィルの指定した位置まで人質を進めさせるための芝居なのだが、普段との落差と棒読みの具合で周りの肝を冷やさせる。
「せ、先生、ワザとすぎます。もうちょっとお芝居してください」
「んなこと言ってもよ、オレは逃げ方なんて解んねぇんだよ」
無理を強いているとはいえ、師の大根役者ぶりにエィカは顔が赤くなった。
◆
「やった!特級が逃げたぞ。この数に戦いたか。よし、攻めるぞぉ!」
滑稽とも思えるウォルフジェンドの芝居ぶりを、戦素人のルルララは看破できなかった。戦場で昂った精神が目を曇らせたのだ。
そして、進行したレディム軍の最前衛が不用意に歩を進め、ついに街道をまたいだ。
◆
レディム軍の最前衛を、上空から眼球が覗く。六姫聖チェイス・ハーディンの望遠魔法・天通目だ。
上空から戦況を観察している。
「よし、よし。そうだ、そのまま進め!」
ルルララと違う意味でチェイスは興奮していた。思惑通り策が進む喜びが鼻息を荒くさせる。
「リン!ミコ!位置に付け」
「任せなさい!」
「にゃ!」
二人が共に陣の右側へ走った。
「ドクターウィルもよろしいですか!?」
興奮を声色に残して、チェイスはドクターウィルに尋ねた。
通信用の魔法珠を握る手にも力が入る。
◆
「安心せい、お前さんの術で状況はハッキリ見えとる。ラグも抜かりも無しじゃ。準備は万端じゃい。のう、お前ら!」
南方、中央都市地下のドクターウィルが応答すると、セイカとホムンクルスの子供たちも元気に返事をする。
発動の時が迫る。
◆
全ての人質が街道を越えて別区画に踏み込んだ。
「今だ!発動!」
チェイスが叫ぶと、人質の居る区画が白い光に包まれ消えた。
そして入れ替わりにそこに現れたのは、サイガをはじめとした重武装の兵団という戦闘に特化した一団だった。
「策が成った!全員討って出ろ!」
サイガの号令とともに、兵団が突撃を開始した。
◯上級冒険者鎖使いナムナン
◯上級冒険者風切りのフォーラー
◯上級冒険者クイックシューター・レイガンマ
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




