第382話 「frantic」(バトル)
レディムの軍から矢が山なりに放たれ、炎、氷といった属性魔法が降り注ぐ。
しかしシャノンとチェイスによって発動された複合強化魔法『双美爽・千藍』の効果で動体視力と身体機能が強化された兵たちはそれを容易にしのぐ。
剣、槍盾、魔法を駆使し、全ての攻撃が無効化されていく。
「すごい、飛んでくる矢が止まって見える。簡単に剣で落とせるぞ!」
術のよって実力以上の身体能力となった兵士たちは換気の声を上げながら防衛に徹する。
この戦闘の目的は人質を突出させ街道を跨がせること。そのために敵に遠距離攻撃が無駄であることを知らしめる必要があるからだ。
だが、なにも防御だけが策ではない。
陣に籠れば狙いを暴かれかねない。そのため、適度に攻撃の意思を示す。
そしてその役目を担ったのは、特級冒険者のリリー・コールドだった。
「だぁらぁあああ!『シールド・ガーツ』!」
具現の加護によって両足に出現させたキャタピラの最大速度で、リリーは敵陣に突っ込んだ。右腕には小型の掘削用シールドマシンを装備し、敵の守りに深々と潜る。
リリーの突進力とシールドマシンの破壊力が相乗し、突入と同時にレディムの雑兵が二十人、肉塊となって飛び散った。一瞬だった。
「よっしゃあああ!一番乗りいただきぃ!」
返り血を顔に浴びながら、リリーは歓喜の声を上げた。
シールドマシンの熱に焼かれた肉の匂いが陣中に立ち込める。
「そぅらぁ!まだいくぞぉ!『ソー・ダンパ』!」
リリーが左腕の円盤ノコギリを全力で振り抜いた。その勢いは振るだけにとどまらず、身体が一回転する。
凶刃の螺旋が周囲の兵を切り裂いた。二十人ほどの胴が上下に切断され、再び血が飛び散る。
「おいおい柔いなぁ!ちっとは耐えてみろぉ!」
一歩踏み込む毎に円盤ノコギリを振ると、その度に水面に一滴の油が落ちたように円形に陣が斬り開かれる。
リリーが十歩ほど踏み込んだところで、レディム軍の被害は三百人を越えた。
その間、勇敢な兵士が数人反撃に打って出たが、全て猛獣のようなリリーの勢いに気圧されたところをノコギリで一掃されていた。
「調子に乗るなよ、リリー・コールド!」
敵陣邁進するリリーの頭上から怒りの声が投げつけられた。
上方から、巨大な金砕棒を振りかぶった大柄な壮年の男が襲撃してきた。
リリーは急停止し、キャタピラを逆回転させると、後退。振り下ろされた金砕棒を避ける。
「小癪!ふんぬ!」
壮年の男は腕に力を込めると、空振った金砕棒を止め、地面を叩く前に引き戻し肩に担ぐ。
金属の塊を自在に振り回す人外の腕力。上級冒険者『涙知らずのシュテッカ』だ。
◆
シュテッカは剛腕を活かした乱雑な戦法を得意とする、所謂バーサーカーだ。
その暴力は、魔物や冒険者のみならず一般人を戦闘に巻き込むことに一切躊躇がない。
非戦闘員、女、子供、老人。弱い身で場に居合わせた不幸を呪えと言わんばかりに、構うこと無く武器を振り回す。
故に、戦果は上げるがそれを上回る被害を出すことから、戦闘力は条件を満たすが被害の重大さで決して特級には届かないと言われる。
◆
「おうおう、シュテッカのオッサンじゃねぇか。アタシに挑んで来るってことは命が要らねぇってことだな」
距離をとり、両手の加護の武装を解いたリリーが腰に手を当てながら茶化すように声をかける。
「うぬぼれるなよ小娘!たまたま加護に恵まれただけの貴様に遅れはとらん。この金砕棒で叩き潰して俺が特級になってやるぞ!」
「はぁ?てめぇみたいな暴れるだけの雑魚がのぼせるなよ。アタシを殺りてぇんなら、命震わせてみろや!」
「やかましい!死ね!」
シュテッカが飛び出した。
金砕棒を大きく振りかぶって、力任せに払った。悪評どおり味方の兵を数人巻き込んだ攻撃だった。
「ばっかじゃねぇの?味方巻き込んで遅くなってんだろうが!三流がぁ!『ステーク・トンク』!」
シュテッカの攻撃を、リリーは加護で出現させ地面に打ち込んだ鉄杭で受け止めた。金砕棒が弾き返される。
「ぬぐぅ、まだだぁ!」
返された金砕棒を、シュテッカは力で強引に引き戻し再攻撃を狙う。
「遅っせぇよ、『ネイル・ケルツ』!」
力んだところの顔面に、リリーは右手に具現化させた五本の五寸釘を撃ち込んだ。
五本の釘が顔面右半分を埋める。
「ぐぁああ!くそぉおおお!小娘ぇぇえええ!」
右目を潰され、口を貫かれても、シュテッカは動きを止めない。それどころかさらに全身に力を漲らせ、鉄杭を殴り付けた。
「特級相手にこの程度で止まると思うかぁ!ぬぁあああああああ!」
口から血を飛び散らせながらシュテッカは叫び、踏み込み、金砕棒を振り抜いた。
鉄杭が曲がり、地面から引き抜かれた。
「やるなぁ、アタシの加護を力で破るかぁ!」
シュテッカの力任せの戦闘方法はリリーと近似する。そのため加護を突破されようが、顔には余裕の色が強い。戦略に意外性がないのだ。
「!!な、なんだ・・・身体が・・・動かん!?」
ステーク・トンクを破ったところで、シュテッカの動きが止まった。視線を下に向けると灰色の物体が全身を包んでいた。
「『コンクリート・ジンガラ』。相手をガチガチに固めちまう技さ。筋肉と関節に張り付いてるから、自慢の力任せが出来ねぇだろ?片目が潰れてんのに、下手に近づくから仕込みに気づかねぇんだ、三流よ」
「ぐぅうううう・・・おのれ、おのれ、小娘がぁ!」
首から下を包み込んだコンクリートは、シュテッカの動きを完全に封じた。
鼻息荒く踠くシュテッカだが、そこは完全に成立した特級冒険者の技、上級では微動だにしない。
圧倒的優位を決定づけたリリーが、シュテッカの正面に立った。両手には加護によって出現させた大型チェーンソーが握られている。
「さぁて、つまんねえから終わりにしようや。一発ぐらいキメてくれるかと思ってたが、正直、期待外れだったぜ」
リリーはチェーンソーの刃をシュテッカの股にあてがった。
「な!ま、まさか・・・」
リリーの意図を察したシュテッカの血の気が一瞬で引いた。
「そのまさかだよ!あばよ!『チェーンソー・ギルン』!」
駆動の紐を全力で引くと、刃が高速回転を始めた。激しい音を立と振動をたてて、コンクリートを刻む。
「ひ、ひぃいいいいい・・・」
「おらぁ、情けねぇ声出すんじゃねぇ!冒険者やってんだろ!?いつ死んでも良い覚悟ぐらい決めとけや!最後ぐらい命を感じさせてみろぉ!」
叫びつつ、リリーはチェーンソーを昇らせる。
刃がシュテッカの胸まで到達したが、そこは上級冒険者、不幸にも常人なら絶命するような状態でも辛うじて命を繋いでいる。
「あ、あご・・・ごげごごごごご」
しかし言葉にならない声。もはや絶命していないだけで、シュテッカの生命は終了していた。
「っらぁああああ!」
首まで来たところで、リリーは一気にチェーンソーを振り上げた。血と脳漿が弧を描いて飛び散る。
その光景を、周囲の兵たちは見ていることしか出来なかった。
圧倒的戦闘力のリリーは戦う姿だけで敵を威圧していたのだ。
「終わりぃ!さぁ、次は誰だぁ!?誰が死にてぇ?」
激しく振動を続けるチェーンソーを掲げながら、リリーは更なる戦いを求めた。
◯涙知らずのシュテッカ
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