第381話 「戦え!舞え!希望の戦士たちよ」(ストーリー)
中央都市グランドルから真北へ約五キロの地点。
スレオ丘陵地帯。整備された街道以外は緩やかな凹凸や剥き出しの岩が顔をみせる軽度の荒れ地だ。
王女シフォンと特級冒険者レディム・ルーグストンの両軍はこの地で一キロの間を空けて対峙することとなった。
南方に布陣するシフォン軍本営の横に組まれた物見櫓の上、六姫聖・百眼鬼のチェイス・ハーディンは、北方のレディムの陣を、眼球を飛ばして遠方を望む魔法『天通目』(てんつうもく)を使い観察していた。
数個の空飛ぶ眼球が陣営を覗き見る。
「最前列は人質三十人・・・セナの話によれば村人全員か」
チェイス軍の最前列では、十字架に縛り付けられた村人たちが横一列に並べられ、弾除けの盾のように配置されていた。
そしてその後ろに上級冒険者率いる兵士群。中には大型、中型の魔物の姿が散見される。
「ジョンブルジョンの報告では、鉄装騎兵団はカルカリの戦いでほぼ壊滅したらしいから、あれは別口の魔物だな。一体どこから仕入れたのか知らないが、さすが国内外に太い通商網を持つだけある・・・!?」
不意に隊中の上級冒険者の一人が動いた。天通目の眼球と目を合わせると、手をかざす。
「!!」
次の瞬間、チェイスの視界が黒く染まった。全ての天通目が破壊されたのだ。
「眼を潰されたか・・・しかも同時に全て。クイックシューター・レイガンマだな。見事な腕だ」
瞬時に偵察の眼を撃墜する技術にチェイスは感心する。
「偵察が知られたからには陣容は変更されるかもしれないが、村人を盾にすることは変わらんだろう・・・よし、方針は決まったな」
チェイスは櫓から飛び降りシフォンの幕舎に入ると、作戦伝達のために集合を呼び掛けた。
作戦会議のための大型幕舎に、出動した主戦力の戦士たちが集められた。
シフォン。
六姫聖。
サイガ。
リュウカン。
四凶の三人。
リリー。
ウォルフジェンド。
エィカ。
リシャク
シュドー。
クジャク。
ギネーヴ。
それ以外は万一の防衛のために城に残った。
「敵は予想通り人質を最前線に突き出すかたちで配備しています。攻撃はこの背後からの遠距離攻撃が主となるでしょう。この陣を保たせたまま誘い出せれば、ドクターウィルの策を狙える可能性は高いです」
チェイスが卓上に地図を広げた。スレオ丘陵地帯に街道網を重ねると全員の視線が集まる。
「人質の現在の位置は、転送最小ブロックの南端。このまま装置による転送を行えば敵兵を巻き込む恐れがあります。ですので、前進南下させて人質が次のブロック侵入したところで転送を発動させます」
地図を指すチェイスの指が上から下へ線を描く。
「遠距離を主体で戦う連中を、前衛を保ったまま引っ張り出せってのか?無茶が過ぎるぜ」
ウォルフジェンドが口を開いた。と皆が思ったが、実際はリリーだった。口の悪さがよく似ている。
「なに言ってやがる、敵が引っ込んでるってんなら、オレの出番だろうがよ」
似たような乱暴な口調でウォルフジェンドが自身を親指で指す。
「オレが引きこもり共を狙撃して引っ張り出してやるぜ。出てこねぇと全滅しちまうって思うぐらい徹底的に撃ち抜いてな、ガハハハハ!」
言いながら、ウォルフジェンドは豪快に笑った。
「その点に関しては特級冒険者を信頼していますので、お任せします」
チェイスが一任することを告げるとウォルフジェンドは満足気に「おうよ」と返す。
「では皆さん、伝達を速やかにするために通信用の魔法珠を携帯してください。これで時間差無く作戦を実行できます」
チェイスから各員に魔法珠が配られると、一人ずつそれを手にして配置先へと散っていった。
◆
昼過ぎ。機を見てシフォンの軍が動き出した。
横一列でレディム軍と相対するように展開し、徐々にその距離を詰める。
最前列の兵たちに眼には、人質の村人の後ろから長弓を構える敵兵が映っていた。
「ちっ、やっぱ動かねぇか・・・」
最前列より十メートルほど先、中央で突出した位置でウォルフジェンドはぼやいた。
じりじりと北上した隊列は、すでに両軍の距離を五百メートルへと縮めている。やろうと思えば急襲が可能な距離だ。
「人質がいる間は圧倒的有利だ。無理に出る必要はねぇからな」
隣で同じ様にぼやくのはリリー・コールドだ。リリーは一番手柄をウォルフジェンドに譲りたくないと言って最前線を志願し、シフォンがそれを承諾したのだ。
これは、激戦において真価を発揮するリリーの性格を踏まえた采配だった。
「!ババア、来るぞ!」
リリーが警告を発すると、敵陣で動きが起こった。
敵陣先鋒、将と思われる二騎の騎馬から小さな発光。直後、ウォルフジェンドとリリーの前に飛来物が一瞬で迫った。
「うぜぇ!」
ウォルフジェンドはベアリングの弾を指弾で射ち眼前で撃墜。
「『シャッター・ダキン』!」
リリーは加護で出現させたシャッターで防いだ。
共に一瞬の反応劇だった。
「動きに無駄が多いな、ガキ」
「うっせぇよ、アンタの五十分の一しか生きてねぇヤツにイキってんじゃねぇ!」
余裕で憎まれ口を叩き合うが、目線は前に向けたまま離さない。油断は一切無い。
「今の、風の術弾と気弾だったな。『風切りのフォーラー』と『クイックシューター・レイガンマ』か、良い腕してやがるぜ」
「感心してる場合かよ、ババア。追撃来るぞ、気ぃ入れろ!」
敵陣全体が動き出した。兵たちが弓と杖を構えると矢と魔法が一斉に放たれる。
「なめんじゃねぇぞ、遠くからチマチマ仕掛けてアタシが殺れるかよぉ!」
リリーは工具の加護を爆発的に発動させると、闘気を具現化させた。
右腕、小型のトンネル掘削用シールドマシン。
左腕、円盤形ノコギリ。
両足、キャタピラ。
背、大型重機用のディーゼルエンジン。
破壊のためだけに施された武装で突進を開始した。
◆
「チェイス様、敵陣から魔法と矢が多数接近中です!」
通信用の魔法珠から伝令の声が響く。
それを聞き、六姫聖のチェイス・ハーディンとシャノン・ブルーは揃って立ち上がり、揃って前に出る。
二人は手を繋いでいた。手の平を合わせた、いわゆる恋人繋ぎだ。
「始まったね。それじゃあ、私たちも始めようか」
「ええ。素敵な時間にしましょう」
チェイスが優しく声をかけると、シャノンは微笑んで応えた。
二人は向かい合い、両手を合わせる。まるで恋人のように艶やかな仕草だ。
「さぁ・・・」
「舞いましょう!」
チェイスが囁き、シャノンが応える。
二人は同時に前、敵陣を向いた。さらに同時に踏み出す。
そして二人は舞った。互いの身体に魔力を纏わせ、チェイスはシャノンを、シャノンはチェイスを補助するように支え合う輪舞を。
舞によって二人の魔力が重なりあい、波紋となって陣中に広がった。
チェイスの索敵、識別魔法によって、シャノンの身体強化魔法を必要な人数に適切に割り振る。その際、魔力の消費は最小限に抑えられ、さらにチェイスの観察眼も付与される。
二人の舞によって発動した複合強化魔法『双美爽・千藍』(そうびそう・せんらん)。
その効果によってシフォン軍の兵士たちの能力は飛躍的に上昇し、士気は大いに高まる。
「す、すごい、身体がまるで自分のものじゃないみたいだ!」
「よぉし、やってやる。矢も魔法も全部叩き落としてやるぞ!」
兵士たちの雄叫びがスレオ丘陵地帯に響き渡った。
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