第380話 「討つか討たれるか?レディムの陰謀。シフォンの決意」(ストーリー)
ルゼリオ王国、中央都市グランドルから北東の地に東へ向かう大軍勢があった。
私兵、傭兵団、上級冒険者。総数は約七万人。
その混成大部隊の中央、幾重もの警備兵に囲まれながら豪華な馬車が東進する。
馬車の中にいるのは、この大部隊の長、『真なる統治者』と呼ばれるレディム・ルーグストンだ。
「まもなく中央都市の真北に差し掛かりますなレディム殿。姫様は動きますかな?」
馬車と平行する馬上から南を望みながら、中年の男の上級冒険者『奴隷の王スペルカイン』は下卑た笑顔で機嫌を伺うように車内のレディムに尋ねる。
「もちろん、動かないわけがない。この大部隊の理由の無い進行を許したとあっては、王家の威光は地に落ちる。出ざるをえないさ。うっふふふ」
手に持った宝石をしげしげと眺めながら、小窓越しにレディムは答えた。
◆
特級冒険者レディム・ルーグストンは、ルゼリオ王国内で個人にして最も多くの資産を有する。
その額は国家予算の約半分となる。
レディムの豊かな財力を支えるのは、商才と人脈にある。
『才能に投資』という言葉を掲げ、新規事業の発足やそこから得た資金を元に様々な分野への協力を惜しまない姿勢が商人たちを引き付け、国内外から鋭気と才覚が溢れる人物が集まってきた。
それを望む者同士で引き合わせ、人と人とを繋ぐ。これを繰り返すことで商業を発展させ、レディムは特級冒険者の地位と莫大な財産を手に入れたのだ。
しかし才能あるものは野心もまた持ち合わせるもの。
揺るぎ無い立場を手に入れたレディムは、その欲の手を次第に王座へと伸ばすようになり、反乱分子へと参入。来る日のために兵力の増強をはじめた。
そして、国内の動乱する今を機として行動を起こしたのだ。
◆
レディムの馬車に一騎の騎馬が駆け寄ってきた。スペルカインの反対側にぴったりと平行すると子窓越しに声をかける。
「レディム様、中央都市に動きがありました。兵が出動、北上を開始したと」
報告を行ったのは、側近兼秘書を務める女騎士の『ルルララ・ミミ』だ。
「そうか。戦力は?」
「現在のところ姫を筆頭に六姫聖、四凶の三人、ウォルフジェンドとリリー・コールド、特務部隊が確認されています。戦力の一部は城に残してあるようです」
「うふふ、姫自ら出るか。しかもこれまた随分な面子だね、主力ばかり。わざわざ人質を見せびらかすために行軍した甲斐があるってものだ」
姫側の動向を知るや、レディムはニタリと笑って隊列の南側を歩くハーヴェの村の住人の列を見る。ここであることに気づいた。
「ちょっと待て、ルルララあのサイガとかいうやつはいないのか?本命はあいつだぞ、人質もその為なんだからな」
「それが、今のところ姿が・・・」
「王都の連中が一番危険視してるのはヤツだ。だからこそ、オレは情報網を駆使してサイガってヤツの足取りを調べさせたんだぞ。くっ・・・ハーヴェの連中を囮に使えば釣り出せると思ったのに・・・ルルララ、斥候を出せ。なんとしてもサイガを見つけて仕留めろ」
「はっ!」
命を受けるとルルララは馬車から離れていった。
◆
半日前。
レディムの軍に対抗して中央都市での動きも慌ただしくなる。
六姫聖の中でも指揮能力が著しく低いメイ、ナル、リン、ミコの四人は単独行動を命じられた。
チェイスが指揮。
シャノンが後方支援に就く。
そして中央都市有する三万の兵は、一万を残し出撃することとなった。総大将を務めるのは姫であるシフォンだ。
四凶の三人も個人での活動を得意とするため、個々で動く。
特級冒険者のウォルフジェンド、リリーも同様だ。
異界人特務部隊から参じたシュドー、クジャク、ホウエンも準備に余念がない。
「サイガ頼んだよ。絶対、村のみんなを助けて」
すがるような表情と声で、ハーヴェの村出身のセナはサイガに希望を託す。
「ああ、任せておけ。ドクターウィルの作戦が成功すれば、一気に形勢逆転が望める。そこに乗じて全員を救いだしてみせる。安心しろセナ」
まっすぐに北、レディムの軍勢の方角を見て、サイガはセナに視線を移す。
「絶対にお前を悲しませるようなことはさせない!」
「うん。信じてるよ」
目に涙を浮かせて、セナは頷いた。
◆
兵士たちが出立の準備に動き回る中、主力となる六姫聖や四凶らに、ドクターウィルから人質救出のための計画が伝えられていた。
「調査の結果、この国の精密に整備された街道網は、地下に存在する次元干渉装置の機能を効果的に発揮するための機構だということがわかった」
ドクターウィルの言葉を集められた面々は理解できずにいる。
「まぁ、そりゃそうだな。聞かせるより見せた方が早いじゃろ。おい小僧共」
ウィルが命じると、六体のホムンクルスの少年たちが巨大な紙を広げ壁に張りつけた。
セイカはそれを少し離れたところで微笑んで見ている。頑張る子供らからしか得られない成分を接種しているのだ。
「これは・・・地図ですね。引かれている線は街道ですね」
紙を見て気付いた点を口にするチェイス。情報の伝播、共有のためだ。
「そうじゃ。次元干渉装置は、この街道によって区切られた国土をブロックごとに移動、置換することができる!先日のカルカリのクレーターの出現はそれが原因じゃ」
ウィルの発表に、理解出来た者は驚きの声を上げ、出来なかった者は周囲の顔を見回す。
「そんな超常的なことが可能だなんて・・・信じられない・・・しかし、ということは・・・」
ウィルの話の内容を理解し驚嘆の声を漏らすチェイス。だが同時に、その活用法と、この集会の意図を察した。
「まさか、その次元干渉装置を使って、人質を奪還するつもりですか?」
「おう、理解が早いの。そんなら、何をすればええかも考えつくじゃろ?」
「考えつく?ということは詳細なことは・・・決まってないのですか?」
「うむ、ワシは戦術は専門外じゃ。技術の解析と応用なら完璧じゃがな。そこは適材適所でいこうじゃないか、のぅ?」
冗談のような物言いと共に、ウィルは軽くウインクをして見せた。
チェイスはやれやれと眉間を押さえる。
「その次元干渉装置とやら、信じてよろしいのですか?」
そこにいる全ての者を代表するかのようにサイガが尋ねた。
「おう、すでに何度か実験を行い、転送、置換の再現性は確保されとる」
「ボクたちが装置の中に入ってサポートするから大丈夫だよー」
ウィルの返答に加え、ホムンクルスの一体、犬耳のシーシンが元気一杯に手を上げて答えた。
愛する子の頑張る姿にセイカがニヤける。
「そうか・・・なら、我らのやることは、ただ一つ!」
サイガが発した。
「人質を救出し、逆賊レディムを討つ!」
サイガが続き、皆が同意の声を上げた。
数時間後、準備が整ったシフォン麾下の軍勢は、天を突く程高い士気で城を出た。
◯特級冒険者レディム・ルーグストン
◯レディムの秘書ルルララ・ミミ
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