第378話 「解かれる謎。ルゼリオ王国の真実」(ストーリー)
姫宮フェンクの地下。古代の文明によって設置された遺構、次元干渉装置を、考古学者にして特級冒険者のセイカ・ゴマが睨みつけていた。
「ねぇシーシン?」
「なぁにママ?」
セイカが優しい口調で語りかけたのは、その腕の中で一緒になって装置を見ていた、ホムンクルスの一体、犬耳を生やしたシーシンだった。
「この装置って、あなたたちが造られた時代のものなんでしょ?動かし方は解らないの?」
「うん、わかんない。だってこの装置、ぼくたちが造られたのより百年以上後のものだもん。構造と起動方法以外はさっぱりだよ」
次元干渉装置『あっちこっちくん三号』。
古代文明の遺物であるこの装置が起動し反乱勢力を転送してから数日、稼働はしつつも装置は沈黙を保っていた。
「・・・てことは・・・系体はあの子たちがいた遺跡と同じ・・・」
セイカが意識を集中、没入させる。
脳がこれまでの知識、見識を反芻して次元干渉装置との共通点を探る。
「・・・」
抱えられていたシーシンが無言で腕からすり抜けた。この状態に入ったセイカは極端に視野が狭くなり外界と遮断されることを知っているからだ。
抜け出たシーシンを見て、黒髪のフィンクと金髪ポニーテールのウラエが手招きをする。
「ママ、いつもみたいに集中しちゃったね」
「うん。だからその間に、僕たちで出来ることをやろう。絶対なにか解るはずだよ」
六体のホムンクルスの中で長男役を務めるウラエが意気込みを口にすると、フィンクとシーシンは「うん」と頷く。
「そんなら、それまでワシに協力してもらおうかの」
地下室の入り口からしわがれた声が聞こえた。
三体が振り向くと、そこにはドクターウィルがいる。
「ウィルのじいちゃんだ。どうしたの?」
尻尾を振るシーシンを先頭に、三体が歩み寄ってきた。
「ワシなりの推論が固まったんで、お前らの母ちゃんと話をしようと思ったんじゃが・・・ありゃ無理そうじゃな」
セイカの、研究や創作に携わる人間特有の没入した様子を見て、ウィルは意思の疎通を諦めた。
「よろしければ僕が話をうかがいます。兄弟たちの中で一番賢いのは僕ですし、後でママの中に戻れば記憶を共有できますから」
不遜なもの言い。ウィルはそう思ったが、フィンクとシーシンは反論しない。揺るぎない事実だからだ。
ホムンクルスたちは己の特性と役目を理解しており、互いの領域を侵すような真似はしないのだ。
「よし、ほんじゃあ話を続けるとするか」
ドクターウィルは大きな紙を床に広げた。そこには見慣れた形のもの、ルゼリオ王国が描かれている。
「地図、ですか?」
「うむ。当然これだけでは意味が解らんじゃろうから、ここに国内の街道図を重ねる」
透明なフィルムに、全街道を投影した大中小の正方形が並び描かれたものが重ねられる。
ルゼリオ王国は、中央都市を交差するかたちで国土を縦横断する大街道。
大街道から等間隔で派生する中街道。さらにそこから派生する小街道で構成される、一大街道網が敷かれている。
透明なフィルムにはその街道網が最小単位まで描かれていた。
「きれいな街道ですね。全ての線が完全な直線・・・水準が高いとはのとはまた違う、明らかな意図がある・・・」
「気づいたか?そこでほれ、先日カルカリのクレーターが現れた北東部を見てみぃ」
ウラエが指示された箇所を見ると、そこには中規模の正方形がある。
「例のクレーター、この一辺一キロの中規模の区画の中にスッポリ収まる、装置はそれを転移させてきた」
「ということは・・・国土が街道によって区切られているのは・・・まさか、この装置を効果的に運用するために?」
「あくまで推論、仮説じゃがな。検証するためには装置を動かさんことにはなんとも言えん」
そう言ってウィルは次元干渉装置装置を見た。
装置では、いまだにセイカが試行錯誤に唸りながら装置に触れている。
次元干渉装置は、教卓の上に巨大な三枚の花弁のつぼみ状のものが乗るオブジェのような形をしている。
花弁にあたる箇所からは所々光が漏れており、起動の様子を伺わせているが、ほとんど沈黙の状態だった。
「あっちこっち君、転送!」
『ヴ、ヴ、ヴヴヴ・・・』
声をかけると一瞬反応がある。だがすぐに沈黙。
「反応するってことは認識は生きてる。じゃあ違うのはキーワード?・・・展開。表示。始動。処理開始」
思い付く限り操作の言葉を口にするが反応が無い。
「・・・何?何が正解なのよ・・・」
再びセイカは没入しそうになった。
「ママ、この装置、多分エネルギー切れじゃない?」
身体の中から聞こえた声が意識を引き戻す。六体のホムンクルスの一体、回復術を得意とするヌェスの声だった。
「この前、連続して転送したのとバグってるせいで、正常にエネルギー運用できてないんだよ、きっと」
「そうなの?でも供給元なんて解らないしどうすれば・・・」
「大丈夫だよ、僕が中に入って動力源からエネルギーを引っ張ってくるよ。せーの・・・えいっ!」
セイカの胸の中央から飛び出したヌェスが、次元干渉装置へと入る。
数秒の沈黙の後、一瞬装置が振動した。
これまでより何倍も強い光がつぼみの隙間から漏れ出る。
「この装置とあの子たちの出所が同じなのと、あの子たちを宿す私がここにいるのは何かの導きなのかしら・・・」
その身に宿す子供たちの力によって紡がれ、開かれていく道筋に、セイカは深い感慨に浸った。
次元干渉装置からさらに強い光が発せられ、つぼみが開き始めた。
円を描くように開かれると、三つの花弁は正三角を作る。左右の花弁には掌大の水晶球、上方の花弁には古代文字で地名や数字が描き出された。
そして中央にはルゼリオ王国の地図が表示され、中心地である中央都市グランドル箇所が点滅で示されている。
「こ、これは・・・」
「コンソールじゃ。古代文明はどちらかと言うとワシら側の世界に近いようじゃな」
次元干渉装置の見慣れない機構にセイカが戸惑っていると、ドクターウィルが声をかけた。
「中央の画面に矢印が出とるじゃろ。それを左の球で動かして、右の球で実行などの指示を出す。どれ、貸してみぃ」
セイカと入れ替わりに装置の前に立つと、ドクターウィルは左右の水晶球に手を置いた。
「使い方が解るのですか?」
「詳しくは解らん。が、概要はワシらの世界のものと大差はない」
画面を見ながら、ウィルはセイカの質問に答える。
矢印が地図の中央を指す。上方の画面に座標が示され、そこには古代文字で数字は〇(ゼロ)、〇(ゼロ)と表示されていた。
「『基準点』?『置換』?『転移』?ま、まさか、この装置で国土を操作できるの!?」
画面上に並ぶ古代文字を読み上げたセイカが目を見張り声をあげる。
「ママ。大丈夫、僕が教えてあげるから」
動揺するセイカの胸に、ウィルから推論を聞き概要を理解したウラエが飛び込む。身体の中に消えた。記憶が共有され、ウィルの推論が認識される。
「そういうこと・・・だからそういう表記なのね。ということは・・・ドクターウィル、替わってください」
再度入れ替わり、装置の前に立つとセイカは左右の水晶球に触れる。
手を動かすと、カーソルは右に動き画面右端にメニューを出す。古代文字で『表示』『操作』『画面』『設定』などの詳細が並ぶ。
「これで個別にカスタマイズできそうね。使いやすいように切り替えてみましょう」
セイカは、装置の操作方法をこれまで研究してきた古代文明と照らし合わせ、即座に使いこなして見せた。
「ほぅ、未知の技術をもうモノにしとる。これが考古学に愛され特級冒険者になった実力か」
ウィルはセイカの適応と学習能力の高さに感心を示す。
「よし、ワシも加勢するぞ。こいつはまだバグ・・・不具合が残っとる。それを上手いこと調製してやらにゃあ実用での信頼性が担保できん。小僧共、手伝え。忙しくなるぞ!」
停滞していた状況が開けたことで、各員に目に展望の火が灯る。
六体中のセイカの中にいたホムンクルスも外に飛び出し慌ただしく動き始めた。
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