第377話 「ナルはひそかにがんばる」(ストーリー)
シフォンや六姫聖の面々が修練に励むなか、同じく六姫聖の『美の化身 ナル・ユリシーズ』は修練場ではなく食堂にいた。
着いたテーブルには中央都市で食べることの出来るあらゆるスイーツが並んでいる。
「はいナル様、あーん」
「あ、あーん・・・」
隣に座るエィカがスプーンで掬ったプリンをナルの口元に近づけると、ナルは少し照れながらそれを頬張る。
「うふふ、美味しいですか?ナル様」
「ああ美味しいよ。エィカが食べさせてくれるから尚更な」
見つめあい、怪しい雰囲気を漂わせるナルとエィカ。
二人は光の丘での戦い以降、行動を共にする時間が増えており、極端に近い距離感と間に漂う空気は周囲のナルのファンたちから羨望と嫉妬の目でみられていた。
ナルには恋愛の経験が無い。その美しすぎる容姿がたたり、男たちが尻込みしてしまって機会を失っていたのだ。
そんな無垢なナルに対して好意で距離を詰めてくるエィカは、性の壁を越えて掛け替えの無い存在となったのだ。
それはメイたち級友とは別の形で心に収まっていた。
「あ、大変!ナル様、ほっぺたにクリームがついちゃいました。すぐにとっちゃいますね」
「うん、それなら、エィカの優しい唇で拭ってほしいな。一番近くでエィカを感じられるからね」
「あぁんもう、ナル様ったら甘えんぼうなんだから・・・それじゃあ、ん~~」
頬を赤らめつつもエィカは欲望のままにナルに唇を近づけるエィカ。
突き出された欲望の嘴が絹よりも細やかな肌に迫る。
「んんんんん~~」
「気色悪ぃな馬鹿弟子。なにやってんだテメェらは!?」
「きゃ!」
突然、姿を表したエィカの師匠であるウォルフジェンドが人目を憚らない不埒な弟子を小突き、愚行を止めさせた。
「せ、先生?なにするんですかぁ?」
「なにするんですかじゃねぇよ!んなこと人前でやってんじゃねぇ。やりたきゃ部屋に籠って二人きりでやれ!」
口汚くはあるが正論。二人は距離をとった。
「す、すまない・・・こういった感覚が初めてだったもので、タガが外れていた。自重する」
叱られ、肩をすくめるナル。エィカも下を見る。
「悠長なもんだな。他の六姫聖の連中は死に物狂いで修行中だってのに、オメェはこんな所で馬鹿弟子とスイーツデートかよ」
「ふっ、残念だがウォルフジェンド殿、甘い時間を過ごしつつも、私は鍛練を怠ってはいないぞ」
「あ?」
一転して余裕の表情を見せるナル。テーブルの上のスイーツ群を指す。
「どれでもいいので、一つ手にとっていただけますか?」
「どういうこった?」
訝しみながらも、テーブルのスイーツに手を伸ばすウォルフジェンド。イチゴゼリーに触れようとしたところで、あることに気づく。
「うぉ、冷てぇ・・・なんだこりゃ?」
スイーツはまるで作りたてのようによく冷えていた。
「ここにある全てのスイーツは、私の氷魔法で常に最高の状態に保ってある。無論、一つ一つ個別に適切な温度で、だ」
「個別に適切な温度だと?」
「そうだ。四十以上のスイーツの状態を感知しつつ、最も美味しくいただけるように調節し続けているんだ。私にしかできない精密な魔法操作だ」
「なるほどな・・・ただ楽しんでるだけじゃねぇってことかよ」
「苦しいだけが修行ではないさ。工夫次第でいつでも楽しみながら実践できる。それに美の化身はおいそれと努力を他人に見せないものさ」
言いながら、ナルはフフンと笑った。
「けっ、抜け目なしかよ。おみそれしたぜ」
すっかり感心したウォルフジェンドがナルの正面に座った。その流れで目の前にあるダークモカカプチーノを手に取った。
「ウォルフジェンド殿!」
ナルが怒鳴った。
「うぉっ、な、なんだよ?」
「それは最後の〆にとっているのだ。飲まないでもらえるか?」
「うるせぇ、また頼め」
言い捨てて一蹴すると、一切躊躇うこと無くウォルフジェンドはがさつに一気に飲み干した。
◆
「なぁ、お前らはどう受けとる?」
大雑把な問いを投げ掛けてきたのは、かつて国王に仕えていた四凶の一人、『人情一路』のアールケーワイルドだ。
姫宮の一室では裏切ったソウカクサタンコールを除いた四凶の三人が密談じみた空気で顔を見合わせている。
「裏がある。そう思てんのやろ」
答えたのは『粛々たる死の風』のシズクヴィオレッタだ。
主語を欠いてはいるが、問いの意味は明らかだった。ソウカクサタンコールの裏切りについてだ。
「そうでも考えんと気持ちに整理がつかんだろ。ワシらは陛下に忠誠を誓った身だ。生い立ちや経緯は違ってもそこは違わん。だからこそ陛下の言葉に従い揃って姫についた」
「だが、そうではなかった。あの老体は一切の引け目もなく、きっぱりと立場を変えた」
アールケーワイルドの想いを真っ向から否定するのは、裏切りを目の当たりにした『とどまることを知らない』ジョンブルジョンだ。
「なに考えてんのか知らんけど、敵になるん言うんやったら、いてこましたって本心聞きだしたらエエんちゃうん?」
乱暴に言い切るシズクヴィオレッタ。三人の中で最も怒りが強いのが彼女なのだ。
「それはそうなんだがなぁ・・・ああ、駄目だ!ウダウダ考えたってまとまらん!」
悶えながら、アールケーワイルドは激しく頭を搔く。
「せやせや、ウチらみたいなんがどない考えたかって答えなんか出ぇへん。そんなら・・・」
「我らは我ららしく、力ずくでやるまでか」
ジョンブルジョンが腹をくくった一言を放つ。
「そうなるかぁ・・・」
しぶしぶと応じた顔を見せるアールケーワイルド。
「よし、決まりや。口閉ざしてどうしようもないなったら、首はウチがはねたる」
シズクヴィオレッタがわずかに刀を抜いて刃を光らせる。
「その前に私がたっぷり拷問して考えを引き出す」
ジョンブルジョンが機械音を鳴らしながら義手を動かす。
「そうだな。正面で目を見て話をすれば、考えをあらためるかもしれんしな」
希望的な想いをアールケーワイルドが口にする。
「せやな、あきらめて決めつけるんはようないな」
人情が先に立つ甘い考えにシズクヴィオレッタは苦笑するが、その純粋さも捨てたものではないと同調する。
「よし!ならばまずは生け捕りのため技術を磨こう!修練場に行くぞ!」
そうと決まれば心機一転。ジョンブルジョンが二人を焚き付ける。
アールケーワイルドとシズクヴィオレッタは一瞬目を合わせると軽く笑って立ち上がった。
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