第375話 「みんながんばる」(ストーリー)
修練場を後にした興奮冷めやらぬメイが、姫宮の廊下を踵を鳴らしながら闊歩する。向かう先はドクターウィルのあてがわれた部屋だ。
「ドクターウィル!アレ、出来た!?」
豪快に扉を開けながらメイは尋ねる。その勢いにウィルは口にしていたコーヒーを軽く吹き出した。
「な、なんじゃい、いきなり?ノックぐらいせんかい」
「うっさい!今そーゆーのいいから!」
八つ当たり気味に言い放つメイ。その態度に何かしらの経緯を察したウィルは、話を次に移す。
「やれやれ、まぁええわい。ほりゃ出来とるぞ」
机の上に一つの箱を置くウィル。蓋を開くと、その中には五つの丸があった。
チョーカーとブレスレットとアンクレットだ。
「通常の千分の一の、超極小封印文字を刻んだ魔具じゃ。これでお前に五点の封印を施す。単純に考えれば通常の封印器具の数千倍の効果がある。これを装着しとりゃあ、魔力を使いすぎるってことも防げるじゃろ」
「へぇ・・・すごいじゃない。持ってるだけで魔力が抑制されるのがわかるわ」
チョーカーとブレスレットを手に取り全体を見回すメイ。
「ありがと、早速着けて訓練するわ!」
そう言い残すと、これまでの不機嫌が吹き飛んだようにメイは元気に走り去っていった。
「やれやれ、騒がしいやっちゃ。・・・そんじゃあ次元干渉装置の解析に戻るとするか。やることだらけで寝る暇も無いわい」
少し熱の残ったコーヒーを一息で飲み干すと、ウィルは机に向かいペンを手に取った。
◆
メイが立ち去った修練場。そこでは王女シフォンの特訓が続いていた。
時間にして約三時間。痛みを積み重ねることでシフォンは戦闘の感覚を掴みつつあった。才能の片鱗が光る。
ここで、始めてシフォンがサイガの木剣を弾き返した。
「お見事!攻撃の起こりを察知して、防ぎきりましたね。素晴らしい上達ぶりだ」
「あ、ありがとうございます。なんとか見る前に感じられるようになってきました」
攻撃を弾いた木剣に余韻を感じながら、シフォンは微笑む。
だが、喜びが浮かぶその顔は、激しい特訓の打撃によって目蓋は腫れ、全身は痣だらけだった。
「姫、喜ぶのは後にして、一旦、傷を治しましょう。いいですねサイガさん?」
「あ、ああ、そうしよう・・・」
痛ましい主の姿に、回復役のシャノンが駆け寄って来て強引に休息を取りつけた。黒聖母の異様な威圧感と強い視線にサイガは拒否することが出来なかった。
◆
シフォンが身体を休めるために修練場から姿を消したところで、そこに二人の人物が立った。六姫聖のリン・スノウと特級冒険者のワーレン・エッダランドだ。
二人はシフォン同様、戦いに向けて感覚を研ぎ澄ませるために手合わせをすることになった。
「そういや礼がまだだったな」
修練場の中央で向かい合ったところで、ワーレンが話し出した。
「礼?なんのことですの?」
「監獄でのことさ。あんたらが来てくれて助かったぜ。あのまま一人だったら、俺は異界人の嬢ちゃんのスキルで真っ二つにされてお陀仏だったからな」
「いえいえ、任務ですもの、お気になさらず。それにそのお陰で貴方のような風変わりな戦闘術をお持ちの方と一戦交えられるのですから、むしろお礼を申し上げるのは私ですわ」
関節を鳴らし、全身をほぐしながら丁寧な挨拶を交わす二人。
穏やかなやり取りながらも、互いの闘気はその内で徐々に高まり続けている。
二人の動きが止まった。同時に深く息を吐き、空気が張り詰める。
「・・・さぁて、そんじゃあ・・・」
ワーレンが口火を切り。
「始めましょう・・・かっ!」
リンが合わせた。
「大黒!」
先手、ワーレンの呼び声に応えて、右手の中に黒い柱が出現した。
特級冒険者・守りの武人ワーレン・エッダランドが操るは、気によって作り出される防御の技。
その名は『健気築闘法』。自身を堅牢な城、要塞に見立ててそれに倣った気の技を発する闘法だ。
「そうりゃあ!『大黒破門撞』(だいこくはもんどう)!」
両手で柱を掴み、破城槌のように全力でリンを撞く。
「なんのぉ、だっしゃあ!」
対するリンは、一瞬振動が起こるほどの踏み込みからの膝蹴りで迎え撃つ。
破壊的な衝突音が空気を震動させる。
「おおおおおおおおお!」
「どらぁああああああ!」
黒い柱と鋼鉄の膝が一歩も譲らず、二人は弾かれるように反動で数歩退いた。
「くぅっ、生身で鋼鉄以上の強度の大黒と競り合うなんて、とんでもない女だな。暴風、噂以上だ」
「うふふ、私の膝蓋骨を一発で割っておきながら何を言っていますの。謙遜のおつもり?」
微笑みながら、リンは膝を上げて見せる。縦に裂けて割れた骨が飛び出していた。
「おいおい、重傷なんだから少しは痛がれよ。・・・ううっ、玉が縮んじゃうぜ」
ワーレンが小さく身震いをさせたところで、大黒が砕けた。
「しかも、しっかり土産まで持っていったな」
「一応、結果は五分ってところですわね。・・・ぬぅ!」
リンは膝から飛び出した骨を押し込み、力を込めると膝の傷が閉じた。簡易的な応急処置だ。
「さ、続きを始めましょう」
「マジかよ・・・擦り傷にツバつけるのと同じ感覚でやってやがる・・・」
粗雑すぎるリンの行動にあきれつつ、砕けた大黒を消すとワーレンは次の技の構えに入る。
「俺の使う健気築闘法は守りを主とする。それ故、攻撃は二の次。さっきの技も頑丈さを利用しただけに過ぎない。つまり、堅牢であればあるほど、安全であればあるほど、それは攻撃力の高さとなる!」
ワーレンの身体を気が取り巻いた。
頭、肩、腕、胴体、脚にそれぞれ集まると、城塞のような形状の鎧を形成した。
「『清城杮落・正の型』。鈍重だが守りに関しては右に出るものはない。上級魔法すら跳ね返すぞ」
「ず、ずいぶんと珍妙な格好ですわね。まるで出来の悪い着ぐるみですわ」
ワーレンの鎧姿に、リンは思ず気の抜けた顔と声になった。
それも無理もないことで、清城杮落は肩は鯱に、兜は天守閣に、胴体は城壁に、脚部は石垣と、日本の城を模したような形状と模様だったのだ。
「ふはははは!確かに、ちょいと珍妙かもしれないが、見た目で判断したら後悔するぜ!お前さんが今まで殴って来たなかで一番の堅さだぞ」
挑発的にワーレンは笑った。
「へぇ、ずいぶんな自信ですわね。でしたら、遠慮無くやらせてもらいますわ!」
闘志と好奇心を心で踊らせながら、リンは突進し拳で兜を殴り付けた。また、強い激突音が響く。
「くっ!!」
「言っただろう、堅いって」
リンの拳が縦に割れていた。完全に二分されたわけではないが、中指骨の中頃まで亀裂が走る。
対して、兜には傷一つなかった。
「これはこれは・・・面白いことになりそうですわね」
割けた拳を握り固めて止血し、リンはニヤリと笑う。
「これでまだ笑うのかよ。こりゃあホンモノだな・・・」
鉄壁に守られながらもワーレンは生きた心地がしなかった。
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