第374話 「シフォンがんばる」(ストーリー)
ルゼリオ王国中央に位置する『中央都市グランドル』。そこにそびえる白亜の城『姫宮フェンク』の修練場では、来るべき反乱勢力との戦いに向けて日々、兵たちが研鑽に励んでいる。
そんな中に一人、見慣れない者の姿があった。城の主、王女『シフォン・マ・ルゼリオ』だ。
修練場の中央、土と砂で作られた足場の上にシフォンは立っていた。
普段身に纏っている純白のドレスを練習着に変え、両手で木剣を握る。
そしてその正面には同じく木剣を片手で構えるサイガがいた。
来る戦いの時に向けて実戦の感覚を得るために、一番の使い手に指導を申し出たのだ。
「よよ、よろしくお願いします!」
緊張で強張りながら、精一杯声を絞りだすシフォン。
そんな王女を、サイガは静かに見据える。
「では参ります。ですが、自分と姫では実力に開きがありすぎますので、最初はかなり加減させていただきます」
「は、はい!」
「では・・・」
シフォンの強い返事を受けて、サイガが動いた。
散歩のように前に歩み出すと、数歩で距離を詰めてシフォンの木剣を右から弾いた。
勢いで剣先が外に向かい、腕が引っ張られて身体が泳ぐ。
全身に力を込めて踏ん張ろうとするも、既にサイガの剣先が喉に突きつけられていた。
わずか一秒足らずの決着だった。
「う、く・・・」
「女の腕で男の剣を受けてはなりません。押し負けるのは必定です」
「は、はい!もう一度お願いします!」
即座に気持ちと体勢を持ち直し、シフォンは木剣を構える。今度は脇を閉めて剣を身に寄せる。
「敵に対して面が大きい!」
「きゃあ!」
剣が立つことによって距離が縮まり、相手に対する面積が増す。そこをサイガの払いの切っ先が手元を激しく叩き、衝撃で手が痺れて木剣を手放し落とした。
「いちいち悲鳴を上げない!」
再び剣先が喉に突きつけられる。またしても一秒足らずだった。
「ま、また・・・」
木製でありながら真剣の如き迫力の剣先に、シフォンは目を離せず唾を飲む。
「警戒心もなければ反応も遅い。これでは戦場に出ても的になって命を落とすだけだ。そしてそれを防ぐために軍全体の動きが鈍り、仲間が盾になって命を落としかねない。貴女が未熟では、その分、人が死ぬ」
「は、はい。充分承知しています。だからこそ、もう一度・・・お願いします!」
決意を新たに、シフォンは木剣を拾い三度構えた。
◆
容赦の無い指導を受けるシフォンを、親友であり臣下でもあるメイ、ナル、リンの三人が見守っている。
シフォンは姫として政務に就いて以来、武器を手に取ることから遠ざかっていた。
本来なら身の丈に匹敵する大剣を振り回す戦い方を主とするのだが、すっかりなまってしまった腕ではそれが叶わず、細い木剣に甘んじている。
その様に友人たちは、まるで保護者のような面持ちだった。
「ああ、もう!ちょっと厳しすぎるんじゃない?あんなんじゃ、戦いが始まる前に動けなくなっちゃうわよ」
シフォンが一本取られるごとに、友人の中では最も過保護なメイが険しい顔で唸る。
「何を言ってるの、私たちが何回も死にかけてる敵を相手にしなければいけないのよ。下手を打ったら始まる前に殺されるなんてことも充分にあり得るのだから徹底的に鍛え直すぐらいでちょうどいいのよ」
死線をくぐった数なら圧倒的なリンが、厳しさを踏まえ冷静に述べる。
「リンの言う通りだ。間もなくレディムの私兵団が北を通過するというのに、悠長に素振りから始めるわけにもいくまい」
冷静な口調のナルがシュークリームを頬張りながら続く。
「それはそうだけどさ・・・」
メイの顔が曇る。
「もう少し余裕を持ちなさいな。サイガが指導するのだから間違い無いでしょうし、万一に備えてシャノンも居るのだから。ね」
なだめるようにリンがメイの頭に手を置いた。魔力が昂っているのだろう、煮えたぎるような熱気が伝わって、思わず手を離した。
◆
七度目の木剣による打撃の鈍い音が響く。しかし今回は違った、音に湿気が混じる。肉と血の音だ。
サイガの木剣がシフォンの右手の人差し指と中指を叩き折っていたのだ。
「くぁっ、痛っ・・・!」
痛みに耐えかね、シフォンは木剣を手放しうずくまった。
「立て!骨折程度で動きを止めてどうする!?その間に首を落とされるぞ!」
うずくまったまま呻くシフォンに、サイガは冷血で厳しい言葉を投げつける。
「・・・シャノン殿、回復をお願いします」
反応を見せないシフォンを尻目に、サイガが囲いの外で控えているシャノンに声をかける。
すぐに駆け寄ってきたシャノンが回復魔法を施した。
「いい加減にしろ!」
治癒の最中、友の痛ましい姿に我慢の限界を迎えたメイが飛び出した。飛翔の際に生じた炎の熱が立ち込める。
「サイガ、あんたやり過ぎよ!もう少しやり方ってものがあるでしょ!?」
一瞬で飛来したメイがサイガに詰め寄る。強い怒りで眉間に深いシワが刻まれている。
「口を挟むなメイ、これでも加減している。こんな時まで甘やかすつもりか?」
一歩前に出てサイガが前に立つ。
「こんな苦しい真似させる必要はないでしょって言ってんのよ!」
「指が折れた程度で人は死なん。だが、弱けば死ぬ。痛みを通じて危機感を備える訓練でもあるんだ」
「弱ければ死ぬって言うんだったら、その時は私たちが盾になって命を差し出すわよ!それが六姫聖・・・」
「そんなの駄目!」
憤りのまま発されようとしたメイの言葉を、シフォンが遮った。
言葉を止め二人が顔を向ける。
「簡単にそんなこと言わないで。私のこと大切にしてくれるのは嬉しいけど、だからって友達に死なれて嬉しいわけない!そうさせたくないから、私は強くなりたいの!」
「シフォン・・・」
「今は・・・見守っていて・・・ここでメイに入ってこられたら、私、甘えっぱなしで弱いままになっちゃう・・・私は、私のやり方で強くなってみせるから。ね」
いつもならとっくに泣き出しているであろうシフォンの覚悟を目の当たりにして、メイは無言となり踵を返した。
「・・・やるからには、ちゃんと鍛えなさいよ!サイガ!」
険しい口調と声だが、怒りは無い。呑み込んだ声だ。
「ああ任せておけ。明日にはお前より強くしてみせるぞ、地獄の特訓でな」
「・・・楽しみにしてるわ」
そう言うとメイは立ち去った。心中の炎が今だ燃えているのは後ろ姿からでも見てとれた。
「では続けましょう。友人の期待に応えるためにも、ここからは厳しくいきます。顔も狙いますので、お覚悟を」
「ひっ、よ、よろしくお願い・・・します・・・」
木剣を握ったサイガが目を光らせると、シフォンは身をすくめた。
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