第373話 「そうそうたる 後編」(ストーリー)
反乱勢力の会合はカルカリでの事態の報告を終え、各部門の戦力確認へと移る。
「では、まずはドクターワット、君からだな。前資料を見る限り君の報告が一番多そうだ」
進行役のタリムに指名され、ワットが起立し現状戦力の説明を始める。
最初にワットが口にしたのは『従属兵計画』だった。
この計画は、老人や重病者といった生産性の低い国民や奴隷を従順な魔物のスレイブアントへと変態させ戦力とするものだった。
が、交易都市クロストと王都においての人体実験の結果、素材となった人間の性能が直接影響することが判明し、現在は下級冒険者や下級兵を対象としていることが伝えられた。
「それで、進捗はどうなっている?」
タリムが質問する。
「戦闘能力と統率性は人間だった頃より役二割上昇しています。さらにそこに『強心剤』という薬を投じることで凶悪性を高める狙いです。これの効果のほどはレディム・ルーグストンの手勢を使って一角楼で確認済みです」
「ほぅ、件の襲撃事件は、その狙いもあったのか。仕事に抜け目が無いのぅ」
ソウカクサタンコールが顎をさすりながら感心した。
「諜報部の協力もあって、国内の様々な場所で秘密裏に実験を行っております」
「ということは、今も、ということかの?」
「その通り。現在は特級冒険者のレディムと共に、ある作戦を実行中です。くくく・・・」
高揚した口調で肩を揺らすタリム。サングラス越しだが、思惑で目がいやらしく笑っているのがわかる。
話の区切りを見て、ワットが次の話題に入った。
「では続いて『神器』になります。これは封印や討滅などによって身体を失った神々に受容体を与え戦力とする計画です」
ワットの発言により、会議室に一斉にざわめきと緊張が生まれた。
「なんと。まさか、人が神を従えるつもりですか?なんと不遜な・・・」
計画を聞かされたリースが思わず声を失う。明らかに神域を侵す思想だからだ。
ルゼリオ王国の民にとって、神は実在するものであり、あらゆるところで信仰や畏怖の対象となる。
しかし科学者であるワットにとっては、上位の存在であると同時に元手かからない有用な資源でしかなかった。その価値観がこの計画の支柱となる。
「顕現の手段を失った神は消え行くだけです。それに身体を与えるだけで戦力として活用できるのですから、再利用するのは合理的と言えます」
信仰心を合理主義で切り捨て、ワットは断言した。
「それで、器は出来上がっているのか?神を収めるのだ、ちょっとやそっとのものでは耐えられぬだろう?」
神に最も近い存在である竜と人の合の子、黄金竜騎士ペルシオスが尋ねる。力と身体が釣り合わないことによる危うさは、上位の者としてよく心得ている。
ワットは話を続ける。
「それに関しましては、先日、学園都市ワイトシェルで入手しました六姫聖メイ・カルナックの体細胞を培養して造り出したホムンクルスと万能細胞を使用します。これの性能は、ワイトシェルで『死の神サルデス』を顕現させたことと、光の丘でペルシオス将軍が吸収した『素体』の成長性及び体内の万能臓器の修復力である程度の有用性は実証済みです」
「ぬ、ノルスと同じ万能細胞製の臓器・・・これはそういうことか。なるほどな、我の身体によく馴染むわけだ」
ペルシオスが腹を撫でる。体内の臓器と全身に漲る力、その由来を知ってかつての副官ノルスを思い返した。
「さらに万能細胞を使い、高位の魔物のクローンを作成します。これはかねてより各地に放っておいた実験体より収集されたデータを用い、記憶と体験を引き継いだ個体を量産する計画です。これは『継承魔軍計画』と呼んでいます」
「各地に実験体の魔物だと?まさか、たまに場違いに強ぇ魔物が出没すんのは、それが原因か?」
「はい。知能が発達しきっていない途上の魔物の行動です」
クザートの指摘にワットは平然と答えた。
「さらりと言ってくれるぜ。国民を巻き込んで実験なんざ、あまり感心はしねぇぞ」
不快感を露に、険しい表情でクザートはワットを見る。戦いを好む性分とはいえ、無用な犠牲を出すことは矜持に反するのだ。
「ところで、魔物のクローンについては以前から研究されていた課題だと思うが、ここに来て実用化の目処が立ったのは、これも万能細胞の賜物かな?」
険悪となったクザートの気配を断ち切るように、タリムが質問する。
「いえ、これに関しては強い魔力を与えることで急速な発育と知能の安定が可能となりました」
「強い魔力。と言うことは・・・」
「はい、今ここにいらっしゃらない地獄の将のジュゼッタ・ロゼ様が膨大な魔力を注ぐことで、数世代先と見込まれていた脳の進化を一足飛びで行い、制御が可能となりました」
「魔物には魔力か。蛇の道は蛇・・・。そしてここに来て戦力が整うのは、これも国自体の戦いを望む意志か・・・」
「国の意志なぁ・・・サイガとか言う異界人が現れて以来、六姫聖が急成長しだしたのもその一つか平等にして厄介なものだ・・・」
感慨深くタリムが呟やき、ガリアドが同調する。
「それで、その地獄の将とやらはどこにおるんじゃ?ここには先ほどから知った顔しかおらんようだが?」
部屋全体を見回しながらソウカクサタンコールが尋ねる。地獄の頂点という、確かめるまでもなく強者である二人に興味津々の様子だ。
「ん、ああ・・・その事だが・・・」
ジュゼッタとゾグラスの振る舞いを直に味わわされたタリムが辟易した様子で王の居室での出来事を語った。
「ほぅ・・・それで今、その二人がいるために王には手が出せんようになっているというわけじゃな。興味をそそるのぅ」
顎をさすりながら、ソウカクサタンコールは含みのある笑顔を見せる。
邪力をその身に宿して以来、老体には鋭気が漲っていた。
「まぁ、座して動かず害が無いのなら放っておけばいい。余計な手を出して掻き回してくれるなよ」
「ほっほっほ、わかったわかった」
ガリアドが睨みながら釘を刺すと、ソウカクサタンコールは軽妙に笑って返した。
「私からの報告は以上です。次は・・・」
「私です。こちらからは一点だけです」
ワットから継いでギアが立ち上がった。
「つい先刻ですが、クザート将軍らが謎の光によって転移をさせられるという事象を観測しました。これは異界人が召喚される際の光の同質のものと考えられ、そこに邪力といった強いエネルギーが関係していると推察します」
現状を告げると、ギアは呼吸を整える。
「つきましては、この事象の解明し戦力として利用するために、要と考えられるソウカクサタンコール殿をお貸し願います」
「ん、ワシか?そりゃあ構わんが・・・何をすればいいんじゃ?」
「特別なことはありません。私が要求するままに協力してくだされば結構です。ただ、観測の調子や度合いによっては一切の休憩を挟むこと無く数日通しで続くこともあることをご承知ください」
望むままに訪れた研究の機会に、ギアの眼鏡が光った。
暴走気味の反応を見せるギアを、同僚のワットは不安げな横目で見ていた。
話の区切りを見届けたタリムが口を開く。
「報告はこれで終わりだな。では今後の行動についてだが、現在、特級冒険者のレディム・ルーグストンが合流のために自領からこの王都に向かって進行中だ。その際、中央都市北部を通過するためシフォン姫の軍と一戦交えると考えられる。そこで、その機に乗じて奇襲をかける。オーリン、ムクと共に手勢の異界人を連れて中央都市に向かってくれ」
「なんだと、ワシに前線に出ろと言うのか?」
命を聞くや否やオーリンが反発の態度を見せる。元来、小物で臆病者のオーリンは表に顔を出すことを極端に恐れているのだ。
「現在、事態はかなり大きく動いている。この辺りで大きな一手を打つ必要があるのだ。不安なら数千単位の兵の動員も許可するぞ。こっちが譲歩してやれるのはここまでだ」
ガリアドが重く深く響く声でオーリンをたしなめる。
「く・・・わかった・・・明日朝一で出る・・・」
青菜に塩といった様子で、オーリンの態度がしぼむ。
オーリンの現在の地位は、ガリアドに取り立てられてのもの。故に逆らうことが許されないのだ。
しぶしぶながら指令を呑み込んだところで、会議は幕を閉じた。
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