第372話 「そうそうたる 前編」(ストーリー)
「ったく、ひでぇ目にあった。生きた心地がしなかったぜ」
王城ハクテの大廊下を、超将軍の『暗機将クザート』が首筋を押さえながら歩く。
「まったくですね、あんな経験は私とて生まれて初めてですよ。帰ってこれたのが奇跡でしょうね」
クザートに同感しつつ横を歩くのは、同じく超将軍の『神拳リース』だ。
中央都市での戦いでカルカリのクレーターに残った、クザート、リース、ソウカクサタンコール、ムクの四人は、姫宮フェンクの地下に眠っていた次元干渉装置によって別の地点に飛ばされるはずだったが、バグが発生したことによって名前の無い狭間の空間に閉じ込められていた。
名前の無い空間は、ひたすらに虚無の場所だった。
四人はそこで上下左右の全くつかめない、空中とも水中ともつかない不気味な浮遊感の中で約十日ほどを過ごしていた。
「十日?私たちがクレーターを発って王都に着くまで約二日ですよ。将軍の体内に設けられている観測装置とも計算が合いません」
声をあげたのは、二人の超将軍の隣を歩くドクターギアだ。
「例えだよ。そんぐれぇ感覚が狂わされたって話だ」
「だったら先にそう言ってください。急に言われても解りません」
「ああ、へいへい。・・・続けるぞ」
四角四面的な反応のギアを軽くあしらい、クザートは話を続ける。
「んで、時間も向きも進んでんのかどうかもわかんねぇのが続くとよ、機械の身体はともかく意識が狂いだしてくんだよ。リースは早々に意識を低下させて流れに身を任せた上に、ジイさんは瞑想、スキルマスターって奴はギャアギャア騒いでうるせぇしで、俺も頭がやられそうになったところで、急にお前の部屋に出てきたって訳だ」
クザートが指すのは、邪力の解析を行おうとしたギアの部屋に四人が突如現れた経緯だった。
「・・・これって、恐らく邪力が引かれ合ったのではないでしょうか?あの時、私はクレーターで観察した邪力を再現しようとしていました。その再現性が高かったために、多量の邪力を内包するソウカクサタンコール殿と共鳴が起こって、異常空間から正常空間に引き寄せられたのでしょう。流石私です」
「最後のは余計だよ。まぁなんにせよ助かったのは礼を言うぜ。お前とあの爺さんにもな」
滑らかに自画自賛を口にするギアに、クザートは呆れた様子を見せながらも前に進み続ける。
クザートとギアが軽口の考察を交える後ろで、帰還の要となったソウカクサタンコールは言葉を発すること無く物思いに更けながら三人の後に続く。その隣には、目まぐるしく変わった事態に疲労困憊といった顔のムクがいた。
五人が進んだ大廊下の行き止まりに、巨大な木製の扉が現れた。
大会議室。国政を司る重要な会議や来賓を向かえる際の式を行うための大部屋で、城内最大の規模となる。
豪奢な装飾と彫刻が施された重厚な大扉が重々しい音をたてて開かれた。
◆
大会議室の中には奥に向かって一つ、長いテーブルが置かれる。
そこには反乱勢力の中核を担う面々が立場が上の順に顔を連ねていた。
諜報局長タリム・シャムシール。
内務長官ガリアド・ガン。
同格の二人が上座で向かい合う。
空席が一つ。
超将軍 黄金竜騎士ペルシオス。
空席が二つ。
異界人管理局局長オーリン・ハーク。
技術開発局局長ドクターワット。
空席が二つ。
「大会議室で大っぴらに反乱の話とはな。俺たちもずいぶんと出世したもんだ」
内から国を食らう算段を立てる会議を、人目はばかること無く城内最大の一室を使う振る舞いに、クザートは皮肉を込めて感心する。
「今や城内においては、我々の方が多数派だ。ハンニバルが死に王も軟禁となれば、もはや陥落も同然だ」
葉巻に火をつけながらガリアドが応える。その正面で、タリムは静かなままだ。
到着した五人がそれぞれの席に着く。
ムクは首魁の席。
リースとクザートは超将軍の席。
ギアがワットの隣の席。
寝返ったソウカクサタンコールが下座の末席だった。
「面子が揃ったようだな。では始めるとしよう。まずはカルカリからの帰還組からだな」
タリムが仕切ると、クザートが口を開き話を始めた。
◆
クザートはカルカリでの出来事を眼球内のカメラで記録しており、その映像を投写しつつ所々で解説をしていった。
封印の像より邪力が溢れたこと。
それによって囚人たちが影響を受けたこと。
限界を迎えた像をムクの造り出した魔改造魔獣が取り込んだこと。
そしてその魔改造魔獣が邪の涙という邪力の結晶となってソウカクサタンコールの内部に有るということを。
そこからはソウカクサタンコールが話を引き継ぐ。
当事者だからこそ解ったことだが、体内に宿った邪力は、ルゼリオ王国から戦乱が途絶えた数十年間の闘争の意志が凝縮されたものである。ゆえに気を扱うことに長けた自身だからこそ正気を保てており、他の者なら取り込まれて発狂、廃人化してしまうだろう。と語った。
しかもソウカクサタンコールは溢れんばかりの邪力を他者へと自在に分け与え強化することが出来ることも伝えた。
「その邪力による強化は、超化と同質のものでしょうか?」
質問の声を発したのはドクターワットだった。
「いや、超化ほど便利なものではないのぅ。邪力が充分に効果を発揮する対象は、カルカリの例からも解るように裏側の者じゃ。だが相手を選ぶ分、超化よりも効果は高いじゃろう」
体感からの予測でソウカクサタンコールが答えた。当事者にして国内最高峰の武の達人の言葉、説得力は充分だった。
監獄内での出来事の報告が終わると、話題はの転移現象に移る。
「転移を起こした時にボクたちを包んだ光、アレには見覚えがある。あの光はボクをこの世界に導いた光だよ」
大会議室内で唯一の異界人であるムクが発言する。
「転移の光だと?それは確かか?スキルマスター」
懐疑的なガリアドの声。それにオーリンが答えた。
「『光に包まれる』という点、今まで会ってきた全ての異界人が一同に証言したのを聞いている。加えてスキルマスターが言うのだ、信じるに値するだろう」
首魁たちの傀儡的立場ではあるが、この中で最も多く異界人と接してきたオーリンの言葉は誰よりも重く説得力があった。
「しかし、その光が転移のものだとして、なぜ今回は国内での移動にとどまっているのだ?しかも短い期間に二度だ。これはどう言うことだ?」
ガリアドの疑問は尽きない。それにはドクターギアが挙手し答えた。
「それについては現在調査中で、推測の域を出ない回答になりますが、ここに来るまでの間に当事者の方々にお聞きしたところ、今回の転移はソウカクサタンコール殿の邪力が引き金になっていると考えられます。つまり、この転移の現象が何かしらの力に反応して起こっているのだと思われます」
ギアの何かしらの力という言葉に、ガリアドとタリムがかつての話を思い返す。
それは、現王が戦乱が絶えないこの国を平和に導いたことで、本来、戦で解消されていた国内の『力の流れ』が大きく乱れることで多くの異変が起こり、その一例として異界人が現れるようになったということだ。
「それはつまり、これまでは外側に反応していたものが内側に切り替わったということか?だが一体何故・・・?」
タリムが唇に手を当てて呟く。
「そこに関しては、今例が直近のため、まだなんとも言えません。ただ強い力に反応しただけとも考えられますから」
「む、確かにそうだな。早合点した。では、その調査は君に任せても良いかな、ドクターギア?」
「かしこまりました」
ギアは静かに深く頷いた。
○内務長官 ガリアド・ガン
○諜報機関長官 タリム・シャムシール
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