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傍観者  作者: 美也
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いつも通りの日常

「何だかんだあって進展はしましたけど、まだモダモダしてますね。あの二人」


「ほんとにね~。とっとと観念しろって感じ~」






本日快晴。いつもの時間にいつもの場所で作戦会議。まぁ、今は作戦を立てるんじゃなくて現状の確認をしているだけですが。

幼馴染みと俺。二人揃って拉致られたのは昨日の事。乗り込んできた総長さん達は、それはもうあっという間に敵をのした。それをただ呆然と見ていた幼馴染みと俺は直ぐに解放され、いつものメンバーから口々に謝罪やお叱り、安堵の言葉を掛けられる。中には泣いている人もいて、なんとも申し訳無い。


そうして一通り揉みくちゃにされた後。後始末をする幹部さんや下っ端さん達を尻目に向かい合わせで黙りこんだ二人の背中を蹴り飛ばして帰らせた。すがる様な目を掌でいなし見送ったのが最後。その帰り道に、幼馴染みはちゃんと総長さんから好きだと告白してもらったらしい。

あの場から助けだされた事、そして相手の想いを聞いた事で漸く自分の想いとやらを自覚したという幼馴染。ソイツは現在この場からの逃走を謀っています。やっと自覚した気持ちへの戸惑いに加え、どうも熱烈だったらしい告白の恥ずかしさから上手く受け止めきれないでいる模様。総長さんがガッチリ捕まえている上に下っ端さん達が出入り口固めているから逃げようもないんですけどね。

ちゃんとした恋人同士になるにはまだまだ時間がかかりそうだと下っ端さん達が笑う。それでもやっと、それらしい一歩を踏み出せたといったところか。



疲れる奴等だと考えながら騒ぐ二人を眺める。殆どの下っ端さん達があっちに掛かり切りで手は十分に足り過ぎているからと放っておいて、こっちはさっさと昼食を食べ終えてしまった。右手でプラプラとペットボトルを振ってチャプチャプ音を鳴らす。



何と言うか、落ち着かない。



その事を隣りの男はしっかりと分かっているらしい。それはそれは楽しそうに口角を上げて俺に顔を寄せ、そっと耳打ちしてきた。



「先にオレらがくっついちゃったし、ねぇ」


「……ほんとに、ねぇ」



歯切れの悪い俺の反応に、副総長さんは意地悪気に目を細める。その余裕さが何とも憎らしい。









先に帰した幼馴染たちを見送った後、幹部さんと下っ端さん達に別れを告げて俺も帰った。……副総長さんと。

一人で大丈夫だと言ったのだが、有無を言わせない様子で歩くその一歩後ろを追いかけるように付いて行く。人気の少ない薄紫に染まる道を二つの影が並んで進む。



「……まぁ、あれでアイツも総長さんの事しっかり意識したみたいなんで結果オーライですね」


「そーね」


「……ですよね」



沈黙に耐えきれず話を振るが返事がそっけない。余計気不味い思いをしながら付いていくと、不意に副総長さんが前を向いたまま話し掛けてきた。



「ケガは?」


「ありませんよ」


「ホントに?」


「えぇ。人質だったんですからそうそう傷付けられたりしませんよ」



大人しくしてましたし。そう言うが確かめないとね、と言う副総長さんに遊具の少ない公園の様な場所へ引っ張り込まれた。

知らない公園。日は完全に落ちていて誰もいない。一個だけある外灯でぼんやり照らされたベンチに腰掛け顔や手足に触れられた。



「手首、少しすりむいてる」


「荒縄で縛られたんですから仕方無いです。怪我の内には入らないでしょ」



触れた温い体温が気恥ずかしくて不自然な態度にならない程度に身を捩って離れる。ちょっとムッとした空気を感じ、目を泳がせながら言葉を探した。



「……あ、改めまして。助けに来てくださってありがとうございました」


「どーいたしまして」



軽く頭を下げた俺を、副総長さんは黙ってジッと見てくる。その視線に耐えられず、目を外して公園を見渡し、渇いた笑いを立てた。



「なんか、俺ばっかり情けないところ見せちゃいましたね」


「そう?んじゃ今からオレの情けないトコね」



はい?

掛けられた言葉に思わず見上げれば眉を寄せ、怒ってるような、でもほっとしているような顔が真っ直ぐこちらに向けられる。は?と首を傾げると手を取られた。

……うん?



「……無事でよかった」


「へ、え」


「もし、アレが当たってたらマジアイツらぶっ殺してるトコだったよ」


「え、あの、……え?」


「ま。さらわれちゃった時点で無事もなんもないんだけどさ」


「いや、ちょ」


「間にあって、ほんとうによかった」


「っ」



心底、よかったとほっとした顔と声が伝えてきて、急に体温が上がり出す。見ていれられなくて、見られたくなくて顔を伏せた。けれど直ぐに顔へ手を掛けられ抵抗する暇もなく上げさせられてしまう。



「顔まっか」


「……うるさいです」


「……うん、ほんとアイツの気持ち、よくわかるわ」


「は」



熱くなった頬の事を指摘され、湧き上がる羞恥心のまま思いっきり睨み付けると、副総長さんはそんな俺をまじまじと見ながら何事か呟く。意味が分からず眉を顰めれば、それを覗き込むように顔が近付けられた。



「かわいい」


「…………へ」


「かわいいなぁ」


「―――っ!!」



頬に当てられていた手がスルリと滑らされる。柔らかな眼差しを、蕩けるような声を間近で向けられこれ以上なく心臓がバクバクして息が詰まった。いきなりそういうのは、止めてほしい。


逃げようと藻掻くが手も顔もガッチリと掴まれ動けない。混乱状態の俺を副総長さんはクツクツと笑いながら長い腕を絡め抱き締めてきた。



「ね。今のでだいたいわかったと思うけど、これからどうしようか」



吹き込むよう囁かれた台詞に体を強張らせる。

どうするか。

どう、したいのか。



「……総長さん」


「ん?」


「アイツに付き合えって言っただけでちゃんと告白してないらしいですよ」


「……マジで」


「はい。そのせいであんなに拗れまくったみたいです」



呆れた顔で空を仰ぐ副総長さんを見据え、だから、と細く息を吸う。



「気持ちの確認って、かなり重要だと、思うんですよね」



頭の中が熱で煮えくり返っている。口が戦慄き、声が震えて仕方ない。情けない。けれど、それでも言いたい事がある。



「それで、ですね。あの、俺っ、」


「好きだよ」



言葉を遮られ、見開いた目の先には真面目な顔した副総長さんが。ゆったりと目を細めて頬を撫でながら言い聞かす口調で口を動かす。



「キミが。あ。もちろん恋愛感情でね」



悪戯っぽく付け加え、柔らかに蕩けた眼差しを向けてくる。そんな目、今まで見た事無いんですけど。



「……っ、なんか若干キャラ変わってません?」


「そりゃかわるよ」



悪態をサラリと返し、忙しなく泳がせていた目線を無理矢理合わせられる。楽しそうに笑った副総長さんは囁くように耳元へ口を寄せてきた。



「コイは人をバカにする。なんでしょ?」



いつか言った台詞を告げ、いつものニヤリとした笑顔をされる。益々顔が熱くなり狼狽えていると、ニヤついた顔のまま副総長さんが首を傾げた。



「キミも、いつもとキャラチガウよね?」


「――っ、あぁもう、そうですよ!俺も馬鹿ですよ!」



叫ぶように声を上げグイッと体を押し離し、はぁっと一度大きく溜め息を吐いてゆっくり息を吸う。そうして気合いを入れて、震える口を開いた。



「……俺、も、好き、です」



貴方と同じで、と付け加えた言葉は自分の五月蝿い心臓の音で掻き消された。蚊の鳴くような声だったがちゃんと聞こえたらしい。また黙って引き寄せられる。流れるように顔を上げさせられ、思わずぎゅっと目を瞑ると頬に柔らかな感触が。



「……ここはまたこんど。かな」


「……?」


「段階ふまなきゃきらわれるんだっけ?」



唇を、トントンと叩いてくる指が少しひんやりしているように感じる。……あぁ。ほんとよく憶えていらっしゃる方ですこと。

睨んで胸元に顔を埋める。そこから感じる鼓動が速い事に、何だか凄く安心した。









「照れてる?」


「……そこそこ」


「相変わらずシレッとゆうねぇ」



無言のまま並んで歩いた帰り道を思い出し、ひっそり息を吐けば目敏く拾われる。顔赤いよ~、と頬を突っついてくる指がこそばい。



「うざいです」


「すなおじゃないなぁ」


「悪かったですね」


「体はしょーじきなのにねえ」


「妙な言い回しせんでください」



周りから見えない位置でこっそりと繋がれていた左手を軽く持ち上げてニヤニヤ笑う男の頭を空いている手ではたく。しかし懲りもせず、寧ろ更にニヤついてからかってくるから更にうざい。



「副総長さんは意地悪ですね」


「そう?」


「甘やかしてくれるんじゃ、なかったんですか」


「もちろん」



じとりとねめつけて言えばケロリと返された。



「ちゃんと、たいせつにするよ」



ふっと笑ってポスポスと頭を叩いた後、サラサラと髪を梳かれる。そんな事をされたら何も言えないじゃないか。

何だか悔しくなってフイッと逸らした目の先にはぎゃあぎゃあと騒がしい幼馴染と総長さん。少し目を離した隙に下っ端さん達を巻き込んでまたひと騒動起きているらしい。それを見てつい吹きだせば副総長さんも同じようにケラケラ声を上げた。一頻り笑った後、隣の顔を見上げる。



「さぁて、アイツら、どうしましょうかね。……アキラさん」



副総長、……アキラさんは一瞬目を見開いた後破顔して口を開く。



「そうだねぇ。また作戦、かんがえよっか。まことくん」



いつも通りの光景に、いつも通りの定位置。

変わらない日々の中、変わって行く何かに胸を締め付けられながらゆっくりと息を吐いて、絡められた指に少しだけ力を込めた。






『いつも通りの日常』

『変化した関係』

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