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馬肉になりたくないんです! ~転生、異世界で強制競走馬生活ですか?!~  作者: ゆうらり薄暮


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28.私が結納品?!



 引退が決まった。


 ……らしい。


 らしい、というのは。

 私はその場にいなかったからだ。


 教えてくれたのは、厩務員のお兄さんたちだった。


「よく頑張ったな」

「もう、走らせないってさ」


 首を撫でながら、

 やたら優しい声で言われた。


 あぁ。

 これは。


 そういうやつだ。


 走れなくなった馬に向ける――あの声。


 私は、静かに鼻を鳴らした。


 ――引退。


 分かってる。

 薄々、分かってた。


 脚はもう前みたいには言うことを聞かない。


 それでも。


 思ったより早かったな……とは思う。


「でもさ」


 厩務員のお兄さんがちょっと言いにくそうに続けた。


「次の行き先ももう決まってるらしい」


 ……ん?


「行き先?」


 私は、耳を向けた。


「なんでも――皇太子妃殿下への“贈り物”になるんだと」


 …………は?


 今、何て?


 私はもう一度、耳を立てた。


「ほら、結納ってあるだろ。あれの一部」


 あれ。


 あれって何?


 私の脳内で情報が一斉に衝突した。


 引退。

 次の行き先。

 贈り物。

 結納。


 全部が理解できるわけじゃない、でも断片ならわかる。

 

 結納品? ……私が?

 思わず鼻で息が出た。


 いや。

 違うな。


 違うだろ。


 私は、物じゃねぇぞ。


 厩務員のお兄さんたちは苦笑いを浮かべていた。


「まぁ……皇太子殿下はあの婚約者のご令嬢にご執心だしな」

「でもまぁそれなら悪い話じゃないだろ?」


「アクアファーナが将来はあの白馬の嫁か」

「きっと大事にされるだろ」


 お兄さんたちはお喋りしながら丁寧にブラッシングをしてくれた。

 

 大事にねぇ。


 ……方向性が怖い。



 その夜。


 私は、いつもの友馬のところに顔を寄せた。


 芦毛の喧嘩友達だ。


「ねぇ灰色の」


 低く言う。


「聞いて」


 芦毛がもぐもぐしながら答える。


「なに」


「私さ」


 一拍。


「結納品になるらしい」


 ……間。


 芦毛がゆっくり顔を上げた。


「……は?」


「私、物扱い……」


 灰色のは数秒くらい固まってから言った。


「……走れなくなったと思ったら。次それ?」


「急にも程があるよね?」


「ある」


 即答だった。


「いやさ」


 私は藁を踏みしめる。


「分かってるよ? 馬は経済動物だし。でもさ――」


 声が少しだけ荒くなる。


「私は、走って勝って負けて脚壊して」


「それで――結納品?」


 芦毛は、鼻を鳴らした。


「……お前、波乱万丈すぎ」


「でしょ?」


 私は、天井を見る。


「せめて、私に説明してからにしてほしいよね」


 馬に権利がないのはわかってるけどさとぶつぶつ言う。

 芦毛がぼそっと言った。


「でもさ」


「なに」


「お前、嫌じゃないの?」


 少しだけ考えた。


 白い馬。

 あの背中。

 走り。


 銀髪の女。

 あの視線。


「……嫌かどうかは」


 正直、まだ分からない。


「でも」


 私は、はっきり言った。


「私は、物じゃねぇ」


 芦毛がくっと笑った。


「それはそう」


「馬だけどな」


「馬でも言う権利あるでしょ」


「あるな」


 私たちは、しばらく黙って草を食べた。


 走れなくなった私は、今度は――


 “使われる”側なんだ。


 静かに。

 丁寧に。

 価値あるものとして。


 私は、そっと息を吐いた。


 笑う気にも怒る気にもならない。


 ただ一つだけ思った。


 ――私の人生(馬生?)レースよりハードじゃない?!



 拝啓、お父さん。

 約束は果たしたよ。

 でもさ。


 結納品になる未来までは、聞いてないんだけど…………

 

※完結まで毎日投稿です。

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