表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馬肉になりたくないんです! ~転生、異世界で強制競走馬生活ですか?!~  作者: ゆうらり薄暮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/42

23.敗北



 負けたのは、初めての経験だった。


 牝馬だてらに牡馬を蹴散らし、この帝国の競走馬の頂点に立ったこの私が。


 女帝と呼ばれる……この私が。


 あんなに脚を動かしてもあんなに前へ前へと踏み出しても――


 あの馬の後ろ姿しか見えないなんて。


 そんなわけ……ある?


 ――あの白いの、なに?


 ゴール板を越えた瞬間、歓声が歪んで聞こえた。


 割れるような音。

 でも、それは私に向けられたものじゃない。


 前を行く、白い影。

 最後まで一度も振り返らなかった背中。


 呼吸が乱れる。


 ――おかしい。


 脚は残っていた。

 無理もしていない。

 壊れてもいない。


 それなのに。


 私は、負けた。


「……アクアファーナ」


 チモシーの声が少しだけ低い。


 私は、応えない。

 応えられない。


 視線は、前。

 白い馬の、さらに前。


 ――追いつけない。


 そんな感覚、初めてだ。


 厩舎へ戻る道すがら人間たちの声が聞こえた。


「……あれがシトリンか」

「強ぇな」

「化け物だろ」


 ――シトリン。


 名前は、どうでもいい。


 問題は、あの走りだ。


 力任せじゃない。

 気負いもない。


 ただ、最短で最も無駄なく“そこにいるべき場所”を走っていた。


 馬房に入る。


 藁の匂い。

 水桶の音。


 いつもと同じはずなのに胸の奥が妙にざわつく。


「……納得いかない」


 ぽつりと、言葉がこぼれた。


 隣の馬房から牝馬にしては低い声が返ってくる。


「だろうな」


 芦毛だ。


「アクアファーナ……」


 灰色のが珍しく黒いのじゃなくて私の名前を呼んだ。


「お前が負けるとこ、初めて見た」


「……見せたくなかった」


「だろうな」


 芦毛は、少しだけ間を置いて続けた。


「でもさ」


 藁を噛む音。


「あれ、ヤバかっただろ」


「……うん」


 認めるのは癪だったけど否定はできない。


「あの白いの。走りながら、全部見てた」


 私は、耳を向ける。


「前も後ろも風も馬群もたぶん……お前の位置も」


 胸がきゅっと締まる。


「……私、全力だったよ」


「知ってる」


「初めてだったんだ。全力で走って、追いつけなかったの」


 沈黙。


 芦毛がぽつりと言う。


「……じゃあさ」


「うん」


「次、どうする?」


 私は、藁を踏みしめた。


 悔しい。

 腹が立つ。

 理解できない。


 でも。


 脚は、まだある。

 壊れてない。

 終わってない。


 私は、息を整える。


「……もう一回、走る」


 芦毛が、鼻を鳴らした。


「だよな」


 私は、ゆっくりと首を上げた。


 あの白い背中。

 静かで遠くて、でも確かに“生きている”走り。


 ――次は。


 次は、必ず。



 負けるって、こんなに腹が立つんだね。


 でも――


 悪くない。


 だって、まだ走りたいって思えてるから。


※完結まで毎日投稿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ