17.5閑話 友馬たち
――さて、育成牧場に来てから幾星霜。
友馬もできてご機嫌だった私ことアクアファーナである。
人間がいなくなる時間。
それが馬にとってのゴールデンタイムってやつよね。
左の馬房にいる鹿毛は、あのガリレオの娘さん。
ちな、今の親友。
右の芦毛は、俺様お父さん(そういえば名前聞いたことない……)の娘さん。
ちな、喧嘩友達。
何が言いたいかって?
――えぇ、今、絶賛喧嘩中。
「えぇいやかましいんじゃ芦毛野郎!
ご飯のたびにガタガタガタ騒ぎよってからに!
ちったぁ大人しゅうできんのか!
乙女の品性のかけらもない!」
「あぁん?!
なんだとこの黒いの!
人間の前で散々いい子ぶりっ子してるだけの
真面目ちゃんがよぉ!」
「ちょ、ちょっとやめてよ二人とも!
それに黒いの、言葉遣い完全に崩壊してるから!
乙女どこ行ったの!?」
ガルガル喧嘩する私たちをいつも止めようとするのが茶色いの。
もちろん、メリンダっていう立派な名前があるのは知ってる。
でも馬同士の会話では、だいたい「茶色いの」「黒いの」「あいつ」で通じる。
まぁそう呼んでるの私たちだけなのかもしれないけどだって呼びやすいじゃん。
そういえば――
お父さんたちの名前、あんなに話したのに結局よく覚えてないな、私。
「いいのよ茶色いの。
馬の世界では舐められたら負け!
お母さん……ステラドルチェの名前において
ここは引けないの!」
「なんだと黒いの?!
星の一族ごときがなんぼのもんじゃい!
アタシのお母さんだって重賞馬なんだよ!」
「灰色の……
うん、その話題、黒いのの方が強いから
そこは引いとこ?
たぶん張り合う場所そこじゃないよ……」
いや、張り合うところだね!
だってこいつ、この間だって私の黒砂糖くすねたんだもん!
人間だった時は気づかなかったけど黒砂糖もリンゴも今の私の大好物である。
それを! こいつは! あろうことか食べちゃったんだぞ!!!
歯を剥いて威嚇し合う私たちを茶色いのは草を食みながら呆れ顔で見ていた。
「なんで毎日毎日、
そんなくだらないことで喧嘩できるの……?
人間、早くこの二頭引き離したほうがいいよ。
あぁ、でも人がいなくなってから喧嘩するからずっと一緒なんだった……」
その通りである。
でも。
走る前くらい、くだらないことで笑っていたいじゃない。
こうして、育成牧場の夜は今日も平和に更けていく。
※完結まで毎日投稿です。




