これは事故
「きみ、大丈夫?」
突然かけられた声に、視線を向けた。
「・・だぁれ?」
『うっそ、アルフレッド!!?』
「ある・・ふ・・?」
「ん?きみ、ぼくのこと知ってるの?」
『ふわっ、ちょっバッバラの香りがっ!!』
ふわりと甘く爽やかなバラの香りが漂う。
「いい・・におい・・。」
「ふふ、ありがとう。ねぇ、でも大丈夫?顔色が真っ青を通り越して真っ白だけど?」
私は、がくりと膝をついて、はふはふと息を詰まらせた。
だめだわ・・このままじゃ圧迫死しちゃうわ・・。
この、アルフレッドとかいうどこの誰かわからない殿方にこんなことをお願いするのは・・どうかと思うけど・・。
でも、セバスチャンが追ってこない今・・この方しか頼れる方はいないわけで・・。
なぜか頭の中で狂喜乱舞しているちふは頼りにならなそうだし。
「あの・・申し訳ないのですが・・。」
「うん?なぁに?」
「・・こ、コルセットを緩めて・・いただければと・・。」
ぐああと、顔が熱くなる。
「ああ、きつく締めすぎたんだね。でも、ここじゃダメだね、レディ、抱き上げてもいいかな?」
「・・おねがい、しま、ちゅ。」
あ、噛んだわ。
「ふ、ふふ・・くすくす、そうか、誘われてるのかと思ったけど・・違うんだね?・・なるほど、うん、いいよお姫様。お願いされてあげる。もう大丈夫だから、眠っていいよ。さすがに眠っているきみに不埒な真似などしないと誓うからさ。」
まぁ・・やはり紳士ね。
そういった雰囲気だもの。
「あい・・。」
私は、ことりと意識を手放した。
というか、もう意識は保っていられなかった。
***
『はぁ〜、生のアルフレッド、すっごい危険な感じ〜〜、んで、やっぱ超絶イケメンだわ。』
うっすらと戻ってきた意識の彼方で、ちふの声が聞こえた気がした。
『・・誰だったかしら。』
『言ったじゃん、4人目の攻略対象者。第2王子のアルフレッド・オーガスだよ。黒目黒髪でどこにも王家の血を感じさせるものを継がなかったっていう理由で大切に育てられた第1王子と比べ冷遇されて育った可哀想な王子さまね。』
『・・おーじ・・。』
『でも会えるとしてもここでじゃなかったんだけど・・やっぱいろいろ変わってるとしか・・。まぁ要注意人物ってことは間違いなしよ。執着心マックスの超絶ヤンデレの腹黒王子だからね。』
やんでれ・・?
それって・・なに・・
「なんな・・の・・?」
つぶやきと共に、目を覚ました私の視界にまず映ったのは、すごい高い天井である。
オフホワイトに幾何学模様の紋様が刻まれていてとても美しい。
このベッドもふかふかだ。
自分のベッドの5割増し・・いや、8割増しかもしれない。
ああ、それよりも呼吸が戻っている。
コルセットが緩められたおかげだろう。
死ぬかと思った。
「セバスチャン・・お水をお願い。」
確認せずにも、そこには当然いるはずの存在を目視せずに言う。
こぽぽ、と水差しから水を注いでいる音だけが聞こえ、直後私の背中に手が添えられて半身を起こされた。
目蓋をこしこしと擦って、欠伸をする。
「よく寝たわ。今何時かしら?」
差し出されたコップを受け取って水を喉に注ぎながら問いかけた。
こくり
「今は夜の20時をすぎたところです、レディ。眠っていたのは1時間ほどだよ?」
ぶーーっと、勢いよく口に含んだ水を吹き出して、むせ返りながらセバスチャンのものとは明らかに違う声音の主に恐る恐る目を向けた。
「ふ。ふふ・・そんなに驚かなくても・・。」
黒髪黒目の・・ヤンデレ・・の・・
「あるふれっど・さま。」
「うん、はじめまして。第2王子のアルフレッド・オーガスと申します。」
紳士の礼をとるアルフレッドに、ギョッとしてベッドから慌てて立ち上がった。
「わっ私はベルッチ家長女っのエスタリーゼ・ベルッチですっ!わっ!」
淑女の礼をとろうとした私のドレスが肩からぽとりと床に落ちた。
ん?
アルフレッドが何も言わずにサッと背を向ける。
ボトっと音を立てて落ちたドレスの上にコルセットが滑り落ちる音がした。




