ジルベールとクラリスは険悪(?)
ごめんなさい!!前の話、最初に投稿したものミスってました!見てしまったかた、申し訳ございませんm(_ _)m
スライムを一刀両断した銀髪の騎士を見上げ、クラリスはぱちぱちと瞬きをした。
「……ジルベール?」
「そうだ」
相変わらずの短い返事。
(やっぱりジルベールだ!)
学園にいた頃と何一つ変わらない。長身で細身の引き締まった体幹、暗闇の中でも際立つ透き通るような白銀の髪、そして刺すように鋭い紫紺の瞳。少し前までヒロインのマリアを巡ってバチバチにやりあっていたジルベール・ミラーが、そこに立っていた。
相変わらず絵画から飛び出してきたような神作画の美形騎士だが、ひとつだけ決定的な違いがある。
学園の制服ではなく、漆黒の軽甲冑を隙なく着こなしていることだ。
そして何より——。
(……今の一撃、やっぱりえげつないなぁ)
クラリスは切り裂かれたスライムの残骸を見下ろした。
一振り。本当にそれだけだ。
あんなに素早く動くスライムを、ほぼ予備動作なしのゼロ距離で真っ二つにしている。
ゲーム内でもジルベールは近接戦闘においてトップクラスの性能を誇る、まさにぶっ壊れの強キャラだった。
高いSTR(筋力)に、圧倒的なAGI(敏捷)。そして何より、無駄を極限まで削ぎ落とした神モーションの剣技。ボス戦でパーティに入れておけば、敵のHPをゴリゴリ削ってくれる頼れるメインアタッカーNPCだったのだ。
(……生で見てもめちゃくちゃ強いや)
ゲーマー目線で感心していると、ジルベールが冷徹な美貌を苦々しく歪め、鋭い視線を射抜いてきた。
「……何をしている」
「見ての通り、スライム狩りだけど?」
「それは見れば分かる」
ジルベールの綺麗な眉間にギュッと皺が寄る。
「なぜ一人で東の森に向かった?」
「レベル上げ」
「……」
沈黙。クラリスは首を傾げた。
「なに?」
「いや……なんでもない」
ジルベールは呆れたように息を吐き捨てた。
「学園にいた頃のお前なら、こんな場所に自分から来るなど考えられないが」
「まあね〜!」
クラリスはあっけらかんと頷いた。
そりゃそうだ。前の自分……というか元の公爵令嬢クラリスなら、こんな東の森なんて絶対に来ない。というより、来る必要すら無かったのだ。公爵令嬢として生きる限り、泥にまみれて魔物を狩るなんて一生縁のない世界だったはずである。
「ところでさ」
クラリスはふと思い立って尋ねてみた。
「ジルベールはなんでこんなところにいるの? 散歩?」
「……」
「偶然?」
「違う」
即答だ。
「じゃあ何?」
「お前の監視だ」
「監視?」
「そうだ」
ジルベールは胸の上で腕を組む。
「王命だ。お前が王都を出てから何をするつもりなのか、何か企んでいないかを確認するよう命じられている」
「あー、なるほどね!」
クラリスはポンと手を叩いた。
「そういうことだったんだ〜」
「……」
「じゃあずっと後ろからストーカー……じゃなくて、後をつけてきたの?」
「ストーカーではない。正確には、城を出た瞬間からだ」
「へぇ〜!」
なるほど。道理で。そんな厳しいお顔で。
王城を出てから下町で肉串をマナーに乗っ取らず豪快に喰らい、冒険者ギルドでFランク登録をし、元貴族が平民も泊まりにくい安宿で一泊。国宝級のドレスを売り払い、そのまま東の森へ一直線。その行程の全部が見られていたわけだ。
「じゃあさ、私がひたすら核だけを穿ち続けて、スライムを乱獲したのも全部見てたんだ?」
「……そうだ。あのような無茶な連戦、常識で考えればスタミナが持つはずがないだろう。弱点を正確に穿ち続けていた技術は認めようが、最後にあのように棒立ちになってしまえば元も子もない」
ジルベールは呆れ果てたように言葉を吐き捨てた。
「効率重視もいいが、己の限界くらい把握しておけ。監視している身にもなってみろ」
「あはは、解説の手間が省けて助かるわ!」
(じゃあ、さっき助けてくれたのも監視対象が死んだら困るからか)
クラリスはニコニコと頷いた。別に不思議でも何でもない。自分はついさっきまで公爵令嬢だったのだ。しかも王命で追放された身。そんな人間を野放しにしておくほど、王家が大雑把なわけがない。
「じゃあ、これからもずっと監視する感じ?」
「そうだ」
「大変だねぇ、お疲れ様!」
「誰のせいだと思っている」
「私?」
「お前以外に誰がいる」
相変わらず厳しい。学園にいた頃からジルベールはこうだった。
マリアが関わると途端にクラリスへの当たりが強くなり、何度冷ややかな視線で睨まれたことか。何度言い合いになったことか。
だから今さら嫌われているからといって険悪な空気になったところで、クラリスとしては驚きもショックもないのだ。
「まあ、好きにすればいいんじゃない?」
「……いいのか?」
「だって王命なんでしょ? 止められないし」
「そうだ」
堂々と言い張るジルベールに、クラリスは思わず苦笑する。そして閃いた。
(……いや、待って? せっかく強NPCがついてるなら、寄生プレイさせてもらえるんじゃない!?)
自然と顔がニヤけ始める。ジルベールはその表情の変化を不気味そうに見つめていた。
クラリスの頭の中では、ゲーマーとしての計算が高速で回転しはじめる。
(そうだよ! ジルベールはぶっ壊れ性能の超強力アタッカー! こいつが勝手に追っかけてきて張り付いてくれるなら、実質『壊れ性能のNPC護衛が永続同行中』ってことでしょ!?)
「ねえ、ジルベール」
「なんだ」
「私を監視するってことは、私が森で魔物に襲われたら助けてくれるんだよね?」
「……監視対象が死亡しては報告義務が果たせんからな。最低限の身の安全は保障する」
「よっしゃー!」
「なっ……!?」
思わず両拳を握りしめてガッツポーズを決めたクラリスに、ジルベールは素で引きつった顔を見せた。
「貴様、私が護衛としてついてくるとでも思っているのか?」
「思ってる! だって死なせないように見ててくれるんでしょ? 最高の安全網じゃん!」
「……調子に乗るな。私は貴様を信用などしていないし、手助けするつもりもない」
「はいはい! でも攻撃はしてくれるんでしょ〜?」
クラリスはニコニコと笑いながら、よっこいしょと立ち上がろうとして——。
「……っ」
(あ、まだスタミナが…)
足に力が入らず、その場で派手にふらついた。
すかさずジルベールが手を伸ばし、その細く力強い腕でクラリスの身体をしっかりと支える。
「無理をするな」
「平気平気」
「平気に見えない」
「ちょっと足がビリビリして力が入らないだけだって〜」
「それを平気ではないと言っている」
ぴしゃりと言われ、クラリスは少しだけ唇を尖らせた。
「……うー、完全にスタミナ管理失敗したぁ」
「また意味の分からないことを」
「ゲームならポーション一気飲みしてスタミナゲージ全回復できるのになぁ」
「ゲーム?」
「あ」
しまった。つい口に出してしまった。
けれどジルベールは「またこいつ変なことを言っている……」と言いたげな顔で眉をひそめるだけだった。
「……何の話だ?」
「なんでもなーい!」
「お前は昔から、時々意味の分からないことを言うな」
「そうかなぁ? ……あ、でもほら、結局庇ってくれたじゃん!」
「ハァ……」
ジルベールは呆れたように深いため息をついた。それから、クラリスの足元にジャラジャラと転がっている大量の魔石へ視線を落とす。
「……これはどうするんだ?」
「? 持ち帰らないと意味ないじゃん。クエストなのに」
あまりの適当さと山盛りの魔石に、ジルベールの顔がわずかに引きつった。
クラリスは気にせず地べたにしゃがみ込むと、無駄のない素早い手つきで魔石を袋へと回収し始める。
「よしっ、これ全部持っていかないと!」
「その状態でか?」
「当たり前じゃん! これ全部ゴールドになるんだよ!?」
「……」
しばらく無言だったジルベールが、再び深々とため息をついた。
「街まで送る」
「えっ? ホント!?」
「今のお前を一人で帰すわけにはいかない」
「ラッキー! やっぱりジルベールさんは優しいですねー」
「思ってないだろ」
「あはは、バレた?」
クラリスが笑うと、ジルベールは露骨に不快そうな顔を隠そうともしなかった。
「笑い事ではない。監視対象を行き倒れにさせるわけにはいかないからだ」
「はいはい、分かってるって! 監視の業務、お疲れ様です!」
「……まったく、調子の良いことばかりを」
ジルベールは額を押さえ、心底疲れ切ったように息を吐き出した。学園にいた頃の高飛車で取り巻きを従えていた公爵令嬢の面影は微塵もない。
(というか、こっちからすれば強キャラが勝手に護衛についてくれるなんて、実質ガチャでSSSレア引いたみたいなもんじゃん! 監視万歳!)
クラリスはホクホク顔で、魔石がずっしりと詰まった革袋を「ぬんっ!」と持ち上げた。
「よしっ、魔石の回収も完了! これで初期資金はバッチリだね!」
ふらつく足取りながらも、大事そうに成果物を抱え直すクラリスに、ジルベールは半ば諦めたように肩を落とした。
「街に着くまで、余計な魔物には関わるなよ」
「はーい! 頼れる監視役の騎士様、エスコートよろしくね〜!」
「……監視だと言っているだろうが」
不機嫌そうに吐き捨てつつも、ジルベールはクラリスの歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。夜の森の静けさの中、ふたつの足音が規則正しく響いていく。
(ふふふ……強キャラの監視(実質護衛)付きで、初期資金も稼げて、明日は装備の新調! 追放からの冒険者生活、順調すぎて楽しすぎるー!)
頭の中で明日の攻略チャートと買い揃える装備のリストを高速展開させながら、クラリスは晴れやかな笑顔で夜の街への道を歩を進めるのだった。




