↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪されたのでウッキウキで冒険者に転職したら、監視役の騎士様にめちゃくちゃ愛されています!  作者: 夜空 つばめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/21

ジルベールの苦難

 俺、ジルベール・ミラーはクラリス・ヴァルハイト公爵令嬢……もといクラリスのことが大嫌いだ。


 幼い頃は遠目から見て「少し変わったヤンチャな子だな」といった程度の印象だったが、学園に入ってからはそれがガラリと変わった。


 心優しく、か弱いマリアを男爵という弱い身分だという理由でいじめ始めたのだ。取り巻きを引き連れて冷笑を浮かべ、卑劣な嫌がらせを繰り返す悪毒な姿。マリアを護るため、俺は何度も彼女の前に立ちはだかり、その度に冷酷な視線を交わしてきた。


 だからこそ、王命によって彼女の追放後の監視を命じられた際も、俺は気を引き締めていたのだ。『あの悪女が国に牙をむく前に、必ず化けの皮を剥いでやる』と。


 ——だが。


「よっしゃあああーーーーッ!! 計画通り!!」


「……は?」


「見た!? 見た今の!? 完璧な逃走ルート! 衛兵の初期配置から計算した通りの見事な脱出!!……まあちょっと笑いかけて肩震えたり涙目になっちゃったけど……。」


 ちょっと待て。確かに衛兵は撒かれていたが……いや……は?


「これで晴れて身軽な無職! ドレスもマナーもぜんぶポイ! 明日からは念願の冒険者ギルドに直行して、まずは初心者クエストで初期資金を稼いで……それから初期街周辺のレベル上げ効率最高のスポットへ行くんだから!」


 意味はわかるが、まさか公爵令嬢が発している言葉だとは思えず、理解に窮する。


「……あれは本当にクラリス・ヴァルハイトか?」


 それからはさらに謎の連続だった。


 王城から逃げ出したクラリスは公爵邸へ助けを求めにいくと踏み、俺は後をつけたが、予想外のことを始める。なんと人気のない路上でドレスを脱ぎ始めたのだ。


「……おい待て、何をしている。正気かあいつは」


 木陰に身を隠しながら、俺は思わず眉間を激しく指で押さえた。


 ただ服を着替えただけで、自身の存在感や隠しきれない育ちの良さは何も隠せていない。認めたくないがクラリスは傾国の美女なのだ。『あーるぴーじー』とやらも意味不明だ。


 だがクラリスは満足げな笑みを浮かべ、脱ぎ捨てた高級ドレスを大きな布袋へ雑に押し込むと、何食わぬ顔で城下町へと歩き出した。


 そこからの行動も、呆れと困惑の連続だった。


 下町の屋台で買い求めた肉串を、大きな口でガブリと豪快に喰らいつく姿。


(同じことをマリア様がした時には『礼儀がなっていない』と公衆の面前で激怒していたくせに、自分がやるのはいいのか……?)


 あまりの身勝手さに怒りが湧き上がってきたが、それも束の間、すぐにそれを吹き飛ばすほどの衝撃が俺を襲う。


「すみません! 新規の冒険者登録をお願いします!」


 なんとクラリスは、目を輝かせながら冒険者ギルドへ突入し、事もなげにFランク冒険者の登録を済ませてしまったのだ。


 盗み見た登録票には、温室育ちのお嬢様どころではありえない。それどころか未経験の新人にもなかなかいない『レベル3』の文字。そして異常なまでに跳ね上がった【INT(知力)】の数値。さらには、絡んできた酔っ払いの巨漢冒険者を、手傷を負っていたとはいえ一瞬で返り討ちにする始末。


(……一体どこでそんな力を身につけた……!?)


 それからも奇行は止まらない。


 下町の安宿に潜り込んでは干し草のベッドに大歓喜し、翌朝には公爵令嬢時代の勝負服だった最高級ドレスを質屋へ持ち込んで現金化。


 そのまま武器屋で鉄の双剣を買い集めると、鼻歌まじりに東の森へと向かったのだ。


 そして東の森でのスライム狩り。


 スライムの物理耐性をはじめから知っていたかのように、弱点である『核』だけを正確無比に穿ち続け、たった数十分で袋いっぱいの魔石を荒稼ぎしてみせた。


 今のレベルはさらに上がっているだろう。


 もう何もかも馬鹿馬鹿しくなり始めた頃、突然ただの1匹のスライムを前にして、クラリスの足が急にもつれたように止まった。攻撃を避ける俊敏性すら失い、迫るスライムを前に目をギュッと瞑る間抜けな姿。


「……あ?」


 無謀な連続戦闘によるスタミナ切れだと、即座に察した。


(……はあ!? 弱点を的確に突きまくっておいて、最後はスタミナ切れで棒立ちだと……!? どんだけ詰めが甘いんだあいつは……っ!)


 危険人物として警戒していたはずなのに、あまりの情けなさと無防備さに、俺の体は思考より先に動いていた。


 バッと木陰から飛び出し、腰の宝剣を抜き放つ。


 白銀の閃光が一閃。クラリスに覆いかぶさろうとしていたスライムを、寸分の狂いもなく一刀両断に切り捨てていた。


 弾けた体液の霧が舞い散る中、俺はゆっくりと剣を鞘に収める。


 ……やってしまった。陰から隠密に徹するはずだったのに、あまりの惨状に見かねて自分から姿を現してしまったのだ。


 地べたにへたり込み、目を丸くして呆然と俺を見上げてくるあいつを冷たく見下ろしながら、俺は湧き上がる頭痛をこらえて言い放った。


「……相変わらず無様だな、クラリス・ヴァルハイト。いや、今はもうただのクラリスか。」

今日中にもう一個上げたいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。