ゴルゾまでの道のりで
港町バローネでの装備更新を終えたクラリスたちは、次の目的地である『鉱山都市ゴルゾ』へと向かう乗合馬車に揺られていた。
窓の外には青い海が遠ざかり、ゴツゴツとした岩肌が目立つ荒涼とした景色が広がり始めている。
「ふふふ……秘宝『深海のエレメント』で私のステータス底上げ完了、ジルベールには【AGI】特化装備で攻撃後のフレーム硬直を短縮……! う〜ん、完璧すぎる攻略準備ね!」
クラリスは座席で一人、ホクホク顔で旅の行程表(攻略メモ)を眺めていた。
向かいの座席には、漆黒の甲冑を纏ったジルベールが座っている。
彼は腕を組み、深々と腰掛けて目を閉じている——が、いつも以上に背筋がピンと伸びていて、どことなく雰囲気が硬い。
(……あれ? なんか今日のジルベール、妙に静かすぎない?)
よく見ると、彼の左手首——昨日渡した『紫水晶の護符』が装着されている部分に、彼自身がふと視線を落としては、静かに目を逸らす動作を繰り返していた。
「ねえジルベール。なによさっきから黙りこくっちゃって。防具のサイズ、やっぱり微妙だった?」
私が顔を覗き込むと、ジルベールはわずかに視線を上げ、静かな声で応じた。
「……いや。サイズに問題はない。……ただ、少し考え事をしていただけだ」
「考え事? 攻略ルートのこと? それなら私に任せておきなさいって!」
「……そうだな」
ジルベールは淡々と返し、手首の護符をそっと甲冑の袖で覆った。
いつもなら「調子に乗るな」だの冷たく言い返してくるはずなのに、今日の彼はどこか反応が控えめで、どこか遠くを見るような目をしている。
(……あー、なるほどね!)
クラリスは一人でピキーンと合点がいった。
(さてはあんた、高価なアクセをもらっちゃって『元悪役令嬢からの先行投資……どう扱ったものか』って、生真面目に考え込みすぎてるわね!? 根が硬い高レベルNPCだから、仕事の備品として割り切るのに時間がかかってるんだわ!)
「もう、そんな気に病むようなことじゃないでしょ! さっきも言ったけど、それはただの出張手当&先行投資なんだから! タンクの機動力を上げて私を被弾させないための『お仕事道具』よ! 遠慮なく使い倒しなさい!」
「……お仕事道具、か」
ジルベールは低く呟くと、自分の手首と、クラリスの瞳を静かに一度だけ見比べた。
「そうよ! だから気にせず堂々と装備して、ゴルゾに着いたらバッチリとタンクを務めてくれればそれでいいんだから!」
「……分かった。お前の言う通りにしよう」
ジルベールは静かに頷き、再び腕を組んだ。
相変わらずのポーカーフェイスだが、その瞳の奥には何かを深く噛み締めるような、静かな光が宿っていた。
(うんうん、これで余計な遠慮も消えたはず! 説得完了ね!)
クラリスが「これでゴルゾのダンジョンハックも安泰だわ!」と能天気に大満足している向かい側で、ジルベールが手首の紫の光をじっと見つめながら、静かに思考を巡らせていることには微塵も気づかないクラリスだった。
——ガタゴトと馬車に揺られること数時間。
山あいの険しい道を抜けると、目の前に巨大な岩山を削って作られた無骨な街——『鉱山都市ゴルゾ』が姿を現した。
街全体がまるで巨大な要塞のようで、至る所から鍛治の槌音と黒煙が上がっている。
「つ、着いた〜〜〜!! 鉱山都市ゴルゾ!!」
馬車を降りた私は、伸びをして高らかに声をあげた。
「相変わらず賑やかな奴だな……落ち着け」
馬車から軽やかに降り立ったジルベールが、淡々と私を見下ろす。手首の紫水晶は甲冑の袖の中に静かに収まっていたが、その立ち姿にはいつもの頼もしい威厳が戻っていた。
「落ち着いてなんていられないわよ! ゴルゾと言えば、豊富な鉱物資源! そして……高難易度ダンジョン『黄昏の廃坑』! 経験値とレア素材の宝庫よ!!」
「……お前の目的は、いつもそれだな」
「当たり前じゃない! さあ、まずはギルドで情報収集して、そのまま速攻でダンジョンへ突入するわよ!」
「待て。まずは宿を確保し、装備の最終点検をするのが先だ。焦って突入して足をすくわれるぞ」
ジルベールが冷静に制止してくる。
「ちぇっ、相変わらず堅物なんだから……まあいいわ! ガチ勢たるもの、万全の体勢で挑むのもまた基本! 宿をとって、明日の早朝から『黄昏の廃坑』爆速攻略スタートね!」
「……好きにしろ」
静かに歩き出すジルベールの後ろ姿を見ながら、クラリスは「よしよし、いい感じでパーティのバランスが取れてるわね!」とご機嫌でついていった。
——王都がどれだけ混乱しているかも知らずに。




