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断罪されたのでウッキウキで冒険者に転職したら、監視役の騎士様にめちゃくちゃ愛されています!  作者: 夜空 つばめ


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13/21

ガチ勢はポーションで無双できる

 港町バローネの朝は、潮の香りと港を行き交う船乗りたちの威勢の良い声で幕を開ける。


 最高級ホテルのフカフカなベッドで完璧な睡眠を取ったクラリスは、早朝からホテルの自室でノリノリの作業に取りかかっていた。


「よーし! 【INT】値が上がったおかげで、調合の成功率補正もバッチリ! 『ファンクロ』の裏技調合レシピ、再現してみせるわよ〜!」


 テーブルの上に並べられているのは、昨日下町の露店や薬草店で買い集めた怪しげな素材の数々だ。


 安価で投げ売りされていた『魚の鰓(えら)粉末』、海岸で採取した『発光塩』、そして前に獲得したスライムの粘液をろ過した精製水。本来、これらはただの低級素材やゴミアイテム扱いされる代物だ。


 しかし、ゲームの裏設定と調合アルゴリズムを熟知しているクラリスは、これが最高効率の特効薬(ぶっ壊れアイテム)の原材料となることを知っている。


「ふふふ……なぜかこっちで『水棲適応の薬』を買うと金貨1枚もする超高級品(ゲームでは銅貨3枚)だけど、効果時間はたったの10分で水圧デバフも半減止まり。でも、この『発光塩』の触媒効果で『鰓粉末』の成分を極限まで抽出して、さらに粘液で安定化させれば……!」


 クラリスはガラス小瓶のなかで液体を細かくシャカシャカと振り混ぜ、怪しく透き通る綺麗なコバルトブルーのポーションを次々と完成させていく。


「はい完成! 『特製・簡易水棲適応ポーション』! 効果時間30分、水中呼吸可能、さらに水圧による移動速度低下とスタミナ消費1.5倍デバフをカットする完全上位互換品よ!」


 ホクホク顔でポーションを革袋に詰めていると、部屋の扉が静かにノックされ、重厚な甲冑の音が響いた。


「出発の時間だ、クラリス。……朝から何をしている」


 扉を開けると、そこには漆黒の甲冑を完璧に着こなし、腕を組んで佇むジルベールの姿があった。部屋の中に漂う怪しい薬草と塩の香りに、紫紺の瞳をわずかに細めている。


「あ、ジルベール! おはよう! これ見てよ、今日の海中ダンジョン攻略のための特効薬! 自作の『水棲適応ポーション』だよ!」


 ドヤ顔で青い小瓶を掲げてみせるクラリス。ジルベールはその小瓶を冷ややかな視線で見下ろした。


「……『水棲適応の薬』か。王宮騎士団でも海戦や特殊任務用に備蓄されている高級品だな。だが……市販の正規調合品とは明らかに色が異なる。怪しげな自作の薬品など、毒味もされずに口にできるか」


「そんなこと言わないで! ほら配合比率を最適化した完全上位互換品なんだから! 効果時間も3倍なのよ! ……匂いはアレだけど」

「断る。正体不明の液体を体内に取り込む気はない」


「もう、相変わらず警戒心が強いんだから! でも、現地に着いたら嫌でも飲むことになるんだからね!」


◇ ◇ ◇


 小舟に乗り込み、バローネ沖に浮かぶ古代遺跡——海中ダンジョン『潮騒の魔宮』の真上へと向かう。


 澄み渡る秋晴れの下、小舟の上で潮風を受けながら、クラリスは新調した『漆黒の軽装革鎧』のベルトを締め直し、腰の『銀の細身剣』の感触を確かめた。


「さて! いよいよやってきました海中ダンジョン! 水中フィールドは通常なら移動速度ダウンとスタミナ消費1.5倍の極悪デバフがかかる高難易度エリアだけど……対策を知っていればただのボーナスステージよ!」


 船を漕ぐ老漁師が、青ざめた顔で振り返る。


「お、お嬢ちゃんたち、本気なのか……? あのダンジョンは入口付近に巨大な変異クラーケンが居座ってて、水中に引きずり込まれたらひとたまりもねえぞ! 凄腕パーティだって命からがら逃げ出してきたんだ!」


「大丈夫ですよおじさん! 弱点属性も攻撃パターンも完全に把握してますから!」


「……?」


 首をかしげる老漁師をよそに、小舟はダンジョンの入口となる海上の巨大な石造りのアーチへと到着した。水面下を覗き込むと、深く不気味な青い闇がどこまでも広がっている。


「はい、ジルベール! これを飲まないと、その重い甲冑のせいで足枷がついたみたいに一瞬で沈んで、水圧で潰れて即死(ゲームオーバー)するわよ!」


「……」


 クラリスから強引に青い小瓶を押し付けられたジルベールは、不機嫌そうに眉間を寄せた。


「市販品は金貨1枚の貴重品だと言っただろう。お前のような駆け出しがそう簡単に量産できるはずがない」


「できるの! 私の【INT】値と前世……じゃなくて裏知識を舐めないでよね! ほら、私が先に飲むから見てて!」


 クラリスは小瓶の栓を抜き、ゴクゴクと勢いよく飲み干して……少し哯いてから。


「オエ……ほら平気! 味もちょっと……塩辛いだけ! 全然毒じゃないでしょ! さあ飲んで!」


 目を白黒させながら強がってみせるクラリスの姿に、ジルベールは言葉を失い、静かに深々とため息をついた。


「毒ではないのかもしれんが、身体に害がありそうな味なのは事実のようだな……」


「味は性能(ステータス)に関係ないの! 薬ってのは効けばいいのよ! ほら、早くしないと効果時間の30分カウントダウンが始まっちゃうじゃない!」


 小瓶を突き出し、催促するようにぴょんぴょんと跳ねるクラリス。老漁師も「おいおい、そんな不味そうなもん飲んで大丈夫なのか……?」と不安げに二人を交互に見つめている。


「……まあ、飲むだけなら」


 観念したようにジルベールは小瓶を受け取ると、一切の躊躇を捨てて青い液体を喉奥へと一気に流し込んだ。


「ぐっ……!!」


 一瞬、ジルベールの整った顔立ちが苦悶に歪む。まるで塩水を数倍に濃縮して激辛の草を煮詰めたような強烈な味が舌を刺したのだ。


「でしょ!? 激マズでしょ!? でもジッと我慢して、ほら!」


「……ッ、これは……」


 素直にマズイと認めたクラリスとポーションの不快感に眉をひそめていたジルベールだったが、数秒と経たずに紫紺の瞳を見開いた。


 全身を包み込んでいた重厚な漆黒の甲冑の重圧が、まるで嘘のようにふっと軽くなる。喉の奥から清涼感が広がり、呼吸器官が自動的に変質したかのように、空気ではなく周囲の魔力中の酸素を直接取り込み始める感覚があった。


 それだけではない。肌の表面に微かな魔力の薄膜が展開され、水中の圧力や抵抗を完全に打ち消す不可視の領域が形成されている。


「……信じがたいな。市販の高級薬どころか、王宮で厳重に管理されている最上級の防護薬をも上回る即効性だ。甲冑の重量による負荷が……完全に消失している」


「ふふん! だから言ったでしょ! 『発光塩』の触媒効果で抽出効率を極限まで引き上げて、デバフをカットしてあるんだから!」


「……お前は本当に、一体どこでそんな調合理論を学んだ……? 貴族の令嬢が触るような代物ではないぞ」


「ふふんだ。企業秘密よ! さあ、下準備は完璧! 海中ダンジョン『潮騒の魔宮』へ、いざダイブ——出発進攻〜!」


「待て、勝手に跳ぶな——」


 ジルベールの制止が飛ぶより早く、クラリスは勢いよく海の闇へと飛び込んだ。


 ドボン!! と大きな水しぶきが上がり、遅れてジルベールも静かに大剣の柄を握り締め、その後に飛び込んだ。


「おいおい、本当に飛び込んじまったぞ……神のご加護があらんことを……」


 舟の上に残された老漁師は、アーチの下に広がる蒼い水面を見つめながら、祈るように胸の前で手を合わせるのだった。


◇ ◇ ◇


 水中に飛び込んだ瞬間、クラリスの視界全体に、言葉を失うほど幻想的で美しい景色が広がった。


 澄み切ったコバルトブルーの海中にそびえ立つ、巨大なギリシャ建築風の白亜の石柱群と古代遺跡の回廊。頭上の水面からはキラキラと輝く光の筋が幾重にも差し込み、色鮮やかな熱帯魚や光る小魚の群れが、遺跡の隙間を縫うように泳ぎ回っている。


「うわぁぁぁぁ……! 水中グラフィックの再現度、完璧すぎる……! 画面越しじゃない、本物の海底遺跡(ダンジョン)だわ……!」


 クラリスは水中でくるりと一回転し、自分の身体の動きを確かめた。


 自作ポーションの効果により、息苦しさは一切ない。それどころか、通常なら水中フィールド特有の「移動速度50%ダウン」「スタミナ消費1.5倍」という極悪な環境デバフが綺麗さっぱり消え去っていた。足元に装備した指輪『疾風の微光』によるパッシブ補正も完璧に重複しており、まるで陸上以上の軽快さで水中を滑るように泳ぐことができる。


 ドスン……!


 クラリスの少し後ろに、ずっしりとした重厚な音とともに、漆黒の甲冑を纏ったジルベールが海底の石畳に着地した。


 本来であれば、数百キロ近い鉄と鋼の重装甲は水中で身動きすら取れず、そのまま海底の泥に沈んで二度と上がってこられないはずだ。しかし、クラリスの特効ポーションがもたらす浮力補正とデバフ無効化により、ジルベールは地上とまったく変わらぬ隙のない立ち振る舞いを見せていた。


 ジルベールは紫紺の瞳を鋭く光らせ、水中の感覚に馴染ませるようにゆっくりと大剣を引き抜く。


「……やはり異常だな。この重量の甲冑を着たまま、水中で地上と同じように足を踏み込める。水圧による動作の遅延も一切存在しない」


「でしょでしょ! AGIとSTRのステータス補正を殺さない神ポーションなんだから! もっと私を崇めてもいいのよ?」


「……まあ、ある程度は評価してやるが……浮かれるな」


 ジルベールは警戒を解くことなく、静かに大剣を構えて周囲の青い闇を見据えた。


 潮騒の魔宮——かつて古代文明が海底に築いたとされるこの広大な遺跡は、地上からは伺い知れない独自の生態系と、無数の魔物の巣窟となっている。


 静寂が包む海底の回廊。パチパチと微かな水流の音と、太古の石柱が発する怪しい魔力のパルスだけが響く中、前方のアクアブルーの闇の奥から、ゆらゆらと複数の不気味な影が浮かび上がってきた。


「……チッ、お出ましか」


 ジルベールの低く冷ややかな呟きとともに、水流を押し分けて姿を現したのは、異形の魔物の群れだった。


 下半身が魚類、上半身が筋肉質の醜悪な人型をした『サハギン・ソルジャー(Dランクモンスター)』が四頭。その手には研ぎ澄まされたトライデント(三叉槍)が握られている。


 さらにその背後、巨大な石柱の影からは、青く輝く硬質的な鱗と鋭い牙を持つ、体長5メートルを超える大蛇『シー・サーペント・アクア(Cランクモンスター)』が、くねくねと滑らかな動きで二人を取り囲むように進み出てきた。


 通常、F〜Dランクの駆け出し冒険者であれば、水中でこのようなCランク混成群と遭遇した時点で詰み(即死)確定の状況だ。水中の不利な環境も手伝い、一瞬で槍で突かれ、大蛇に丸呑みにされるのが関の山だろう。


「ギシャァァァァッ!!」


「ルルルルルッ!!」


 侵入者である人間を察知したサハギンたちが、泡を吹き出しながら威嚇の音声を上げる。無数の三叉槍が重突撃の構えを取り、シー・サーペントが大きく口を開けて鋭い毒牙を剥き出しにした。


 だが、その絶望的な光景を前にしても、クラリスの表情には恐怖の「き」の字すら存在しなかった。


 むしろ、ぶっ壊れ武器『銀の細身剣』をチャキンと抜き放ち、その瞳を爛々と輝かせている。


「へへっ、出たわね海中ダンジョンの初戦エリア! サハギンとシー・サーペントの混成エンカウント!」


 クラリスは細身剣の刀身を水中で輝かせ、不敵な笑みを浮かべた。


「サハギンは直線的な突進攻撃の前に必ずエラを大きく膨らませる『前兆モーション』がある! サーペントは水流を吐き出す直前に胴体が青く発光する! 判定は全部頭に入ってるわ!」


「……相変わらず、何を言っているのか理解できんが」


 ジルベールは大盾を前方に構え、一切の隙なくクラリスの斜め前へと滑り込んだ。冷徹な紫紺の瞳が、群がる魔物たちの動きを冷酷に見定める。


「だが、敵の殺気と間合いだけは本物だ。……下がるなよ、クラリス」


「下がるわけないでしょ! 水中戦の基本は立体機動とヘイト管理! ジルベール、タンクの仕事よろしくね! ガチ勢の爆速ダンジョンレベリング、ここからが本番よ!」


 冷徹にして隙のない最強の監視騎士と、ゲームの知識とハックを極めた元悪役令嬢。


 古代の海底遺跡を舞台に、常識破りな二人の海中ダンジョン攻略戦が、いま静かに幕を開けたのだった。

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