↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/60

49 長い冬を越すために

 シンカー王国は冬の間大混乱に陥る——といったこともなく、意外なほどに平穏で静かな冬となった。

 

 シンカー僧院の大多数派『剣の派閥』の主要なメンバーが一斉に姿を消したことで、それまで押さえつけられていた盾の派閥の者たちが、空いたポストに次々就任することとなる。

 結果的に、政治的空白は最低限に抑えられることとなった。

 何よりも、アルター王が表舞台に現れたことと、新たに大僧正と関白に就任したネイオミ、さらにはゴルドベルク王国から派遣され、まだ経験不足の王の代理権を持つ摂政に就任した大魔道士ティベリウス・ネストリウスの存在は極めて大きかった。

 

 魔法においても知略においても、軍略においても政治力においても、シンカー王国の誰一人としてティベリウスの足元にも及ばなかった。

 面と向かって抗議に来たものには真摯に対応し、何故か鼻息荒く摂政の執務室に飛び込んだものが、でてくるときには『摂政殿は素晴らしい』『あれほどシンカー王国のことを考えておられるお方はいない』『ゴルドベルク王国を悪しざまに言う輩がいるとしたら、そいつこそが国賊だ』とゴリゴリの親ゴルドベルク派に意見を変えてしまう有り様だ。

 

 関白となったネイオミも『一体何を、どのようにお話になればあのようなことが出来るのですか』と訪ねたものの、ティベリウスの答えは単純そのもので『誠心誠意、こちらの考えをお伝えしただけですよ』という、何の参考にもならないようなものだ。なおネイオミは、ティベリウスが精神魔術の達人であることを知らない。

 加えて、ティベリウスが摂政となったことでゴルドベルクとのやり取りは極めてスムーズに進み、越冬のための物資や食料支援も極めてスムーズに進み、さらにゴルドベルクにおけるリベルタドールのように、シンカー王国において公認の非営利団体となった百八龍の働きもあり、支援物資も滞り無く民衆に届けられている。

 

「そうですか、それは重畳」

 

 一連の報告を百八龍の男、一ツ目のホセから受けたティベリウスは満足げに頷くと、ホセに暖かい茶を勧める。

 

「しかしササガワ殿は実に頼りになりますね。よほど民衆から好意的に受け入れられているのだと思います」

「あっしらァのボスは、義賊で通ってやしたンでさァ。悪徳貴族のためじゃなく、貧しい民衆のために仁義と任侠をルールとして動く、それがあっしら百八龍なンでさぁ」

「素晴らしい……ゴルドベルク王国にリベルタドールあり、シンカー王国に百八龍あり……やはり、そういう組織は国という大きなものを動かすには必要不可欠ですね」

 

 ホセは茶をぐい、と飲んで満足気に頷くと実に嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「あっしはボスに会うまで、それはそれは悪さばっかりやってたンでさ。それこそ野盗のマネごとやったりもしてやした。ですがボスが教えてくれたンでさァ。自分より強いものに振るってこそ力、自分より弱いものを守ってこその力だッてぇことで……まぁ学のねェあっしにゃ難しい言葉でしたがね、今じゃァ分かりやすぜ。これがボスの言う『任侠』ってェやつなンでさ」

「にんきょう……ですか。そう言えば綾子殿も同じような事を言っていましたね。ジンギとニンキョウ……だったかと思います」

「そう! そいつですぜダンナ! ボスも仁義をなくしたヤツぁ男じゃねぇ、任侠を失ったヤツに力を持つ資格はねぇって、そう言ってやした!」

「そうですか。確かあのお二人は祖父と孫娘、という関係でしたね。なるほど、ササガワ殿の教えを綾子殿が受け継いだ、ということですね」

 

 ティベリウスの作業量は、恐らく常人ならは1ヶ月で発狂しそうなくらいの分量である。だが、彼はこうして茶を飲みながら談笑する時間を取りつつ、食事もしっかりと食べ、休憩もしっかりと取り、夜はワインを楽しむ時間も確保しながら滞り無く仕事を続けている。

 ネイオミはもはや、ティベリウスがどうやって凄まじい速度で仕事をこんなしているのか、考えるのを諦めてしまっている。

 

「ありがとうございましたホセ殿、有意義な会話でした。今後も支援物資の分配に王都と周辺都市の治安維持へのご協力、よろしくお願いします。ササガワ殿にもよろしくお伝え下さい」

「へぇ、確かに承りやした。ボスからも、寒い時分になりやしたンで、ご自愛くだせぇとの言伝を預かってやした」

「そうでしたか……お心遣いありがとうございます。では、また定期報告をよろしくお願いします」

 

 ホセは摂政の執務室をあとにして街中へ消えていった。

 彼は現在、百八龍の王都の取り仕切り役を任されている。浩二からも全幅の信頼を寄せられており、街中での面倒事があったらほぼ全てをホセが仲介して解決に導いていると言っても過言ではない。

 軍人としても魔道士としても、そして政治家としても百戦錬磨のティベリウスにとって、政治がきれいごとだけで回るほど理想的でない事など、百も承知である。

 だからこそ百八龍を抱き込んで『綺麗事で回らない』部分を回せるように手を回している。

 

「流石にこれは、若き王に学ばせるには、まだ時期尚早ですね」

 

 独りそう呟いて、机の上に並べられた書類を睨みつける。

 凄まじい勢いで書類を次から次へと仕分け、サンサルバシオン王バルザックの数倍の速度で仕事を片付ける。

 バルザックであれば、確実に真夜中までかかるであろう仕事の山が、すでに底を尽きかけていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。