第八十九章 4つ目の神宝の欠片
王は静かに日記を閉じた。
重苦しい沈黙が部屋を包む。
「……詳しい話は、この日記を読みながら順に話そう。」
そう言いかけた王は、一度言葉を止めた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「その前に。」
「お前たちへ見せたいものがある。」
◆
王に案内され、一行は王城の地下へ降りていた。
石造りの長い階段。
壁には青白く光る魔石が等間隔に埋め込まれ、薄暗い通路を静かに照らしている。
ひんやりとした空気が頬を撫でた。
「地下なんてあったんだ。」
ユウトが辺りを見回す。
「私も初めて来る。」
ニャオミーが小さく首を振った。
「王族でも?」
「うん。」
王が前を歩きながら答える。
「ここは歴代の王と王妃しか入れぬ場所だ。」
「王家の宝物庫。」
やがて。
巨大な鉄の扉が現れた。
高さは三メートルほど。
何重もの錠前。
中央には猫又王国の紋章が刻まれている。
王は静かに手をかざした。
淡い光が紋章を包む。
がこん。
重たい音を立てながら扉がゆっくり開いた。
「……。」
ユウトが思わず息を呑む。
中は小さな博物館のようだった。
歴代の王が集めた宝物。
王冠。
古い剣。
豪華な装飾品。
見たこともない魔道具。
棚いっぱいに並んでいる。
「すごい……。」
ニャオミーも目を丸くした。
その時だった。
「……。」
たぬぷぅが立ち止まる。
耳がぴくりと動く。
「たぬぷぅ?」
「……いる。」
小さく呟いた。
「なんか……いる。」
ルゥの表情が変わる。
「まさか……。」
たぬぷぅは目を閉じる。
鼻をひくひくと動かした。
「……こっち。」
宝物庫の奥へ歩き始める。
その先には、さらにもう一枚の扉があった。
こちらは小さい。
しかし。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
何重もの南京錠で厳重に閉ざされている。
王が目を見開いた。
「そこは……。」
「王妃しか開けなかった部屋だ。」
一本ずつ鍵を外していく。
最後の錠が外れた。
ぎぃ……
扉の向こうは小さな部屋だった。
中央には。
一つだけ。
金細工で飾られた、美しい宝箱が置かれている。
「これ……。」
ニャオミーが近付く。
王は静かに蓋へ手を掛けた。
ゆっくり開く。
中には。
透き通るような、美しい欠片が眠っていた。
「神宝……。」
コハクが思わず呟く。
静かな光が、箱の中でゆっくり脈打っている。
「これが……。」
王が小さく息を吐く。
「王妃が命を懸けて守ったもの。」
誰も言葉を発しなかった。
部屋は静まり返る。
その時だった。
ふわり。
神宝の欠片が、静かに浮かび上がる。
「!」
全員が息を呑む。
欠片はゆっくりと宝箱を離れ――
まっすぐニャオミーの前まで飛んできた。
「え……?」
ニャオミーが目を丸くする。
欠片は手のひらほどの距離で止まり、優しく明滅を繰り返していた。
まるで。
「……喜んでる?」
コハクが、小さく呟く。
ニャオミーは恐る恐る手を伸ばく。
指先が触れた瞬間。
ぽうっ……
欠片が柔らかな光を放つ。
温かな光が、ゆっくりとニャオミーを包み込んだ。
「……。」
不思議だった。
初めて触れたはずなのに。
どこか懐かしい。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
その光景を見た王が、小さく息を呑む。
「……そんな。」
ルゥが振り返る。
「どうした。」
王は欠片を見つめたまま、小さく呟いた。
「王妃にも……。」
「同じことがあった。」
部屋が静まり返る。
「お母様にも……?」
王はゆっくり頷く。
「この欠片は。」
「王妃へも、自ら近付いていった。」
ニャオミーは静かに欠片を見つめる。
母も。
自分も。
同じように、この光へ包まれた。
それは偶然なのだろうか。
それとも――。
誰も、その答えを知らなかった。
ただ一つ。
神宝は。
まるでニャオミーを見守るように、優しく輝き続けていた。




