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第八十九章 4つ目の神宝の欠片

王は静かに日記を閉じた。


重苦しい沈黙が部屋を包む。


「……詳しい話は、この日記を読みながら順に話そう。」


そう言いかけた王は、一度言葉を止めた。


そして、ゆっくりと立ち上がる。


「その前に。」


「お前たちへ見せたいものがある。」


 



 


王に案内され、一行は王城の地下へ降りていた。


石造りの長い階段。


壁には青白く光る魔石が等間隔に埋め込まれ、薄暗い通路を静かに照らしている。


ひんやりとした空気が頬を撫でた。


「地下なんてあったんだ。」


ユウトが辺りを見回す。


「私も初めて来る。」


ニャオミーが小さく首を振った。


「王族でも?」


「うん。」


王が前を歩きながら答える。


「ここは歴代の王と王妃しか入れぬ場所だ。」


「王家の宝物庫。」


やがて。


巨大な鉄の扉が現れた。


高さは三メートルほど。


何重もの錠前。


中央には猫又王国の紋章が刻まれている。


王は静かに手をかざした。


淡い光が紋章を包む。


がこん。


重たい音を立てながら扉がゆっくり開いた。


「……。」


ユウトが思わず息を呑む。


中は小さな博物館のようだった。


歴代の王が集めた宝物。


王冠。


古い剣。


豪華な装飾品。


見たこともない魔道具。


棚いっぱいに並んでいる。


「すごい……。」


ニャオミーも目を丸くした。


その時だった。


 


「……。」


 


たぬぷぅが立ち止まる。


 


耳がぴくりと動く。


 


「たぬぷぅ?」


 


「……いる。」


 


小さく呟いた。


 


「なんか……いる。」


 


ルゥの表情が変わる。


 


「まさか……。」


 


たぬぷぅは目を閉じる。


 


鼻をひくひくと動かした。


 


「……こっち。」


 


宝物庫の奥へ歩き始める。


 


その先には、さらにもう一枚の扉があった。


 


こちらは小さい。


 


しかし。


 


一つ。


 


二つ。


 


三つ。


 


四つ。


 


何重もの南京錠で厳重に閉ざされている。


 


王が目を見開いた。


 


「そこは……。」


 


「王妃しか開けなかった部屋だ。」


 


一本ずつ鍵を外していく。


 


最後の錠が外れた。


 


ぎぃ……


 


扉の向こうは小さな部屋だった。


 


中央には。


 


一つだけ。


 


金細工で飾られた、美しい宝箱が置かれている。


 


「これ……。」


 


ニャオミーが近付く。


 


王は静かに蓋へ手を掛けた。


 


ゆっくり開く。


 


中には。


 


透き通るような、美しい欠片が眠っていた。


 


「神宝……。」


 


コハクが思わず呟く。


 


静かな光が、箱の中でゆっくり脈打っている。


 


「これが……。」


 


王が小さく息を吐く。


 


「王妃が命を懸けて守ったもの。」


 


誰も言葉を発しなかった。


 


部屋は静まり返る。


 


その時だった。


 


ふわり。


 


神宝の欠片が、静かに浮かび上がる。


 


「!」


 


全員が息を呑む。


 


欠片はゆっくりと宝箱を離れ――


 


まっすぐニャオミーの前まで飛んできた。


 


「え……?」


 


ニャオミーが目を丸くする。


 


欠片は手のひらほどの距離で止まり、優しく明滅を繰り返していた。


 


まるで。


 


「……喜んでる?」


 


コハクが、小さく呟く。


 


ニャオミーは恐る恐る手を伸ばく。


 


指先が触れた瞬間。


 


ぽうっ……


 


欠片が柔らかな光を放つ。


 


温かな光が、ゆっくりとニャオミーを包み込んだ。


 


「……。」


 


不思議だった。


 


初めて触れたはずなのに。


 


どこか懐かしい。


 


胸の奥が、じんわり温かくなる。


 


その光景を見た王が、小さく息を呑む。


 


「……そんな。」


 


ルゥが振り返る。


 


「どうした。」


 


王は欠片を見つめたまま、小さく呟いた。


 


「王妃にも……。」


 


「同じことがあった。」


 


部屋が静まり返る。


 


「お母様にも……?」


 


王はゆっくり頷く。


 


「この欠片は。」


 


「王妃へも、自ら近付いていった。」


 


ニャオミーは静かに欠片を見つめる。


 


母も。


 


自分も。


 


同じように、この光へ包まれた。


 


それは偶然なのだろうか。


 


それとも――。


 


誰も、その答えを知らなかった。


 


ただ一つ。


 


神宝は。


 


まるでニャオミーを見守るように、優しく輝き続けていた。

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