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第八十八章 隠された王妃の真実

王に案内され、一行は王城の奥へと歩いていた。


長い廊下の先。


普段は誰も立ち入らないのだろう。


窓から差し込む陽射しの中を、小さな埃がゆっくりと舞っている。


やがて王が、一枚の木製の扉の前で足を止めた。


静かに鍵を差し込む。


かちゃり。


小さな音が響く。


「ここだ。」


扉がゆっくりと開く。


ふわり、と花の香りが漂った。


「……。」


ニャオミーが小さく息を呑む。


部屋は驚くほど綺麗なままだった。


白いカーテン。


窓辺に並ぶ小さな花瓶。


木製の机。


本棚。


まるで今も、この部屋の主が帰ってくるのを待っているようだった。


「掃除だけは続けていた。」


王が静かに言う。


「いつ帰ってきてもいいように……とな。」


ニャオミーはゆっくり部屋へ足を踏み入れる。


懐かしそうに辺りを見回した。


「ここで絵本読んでもらったなぁ……。」


「お昼寝もした。」


「お母様、お菓子作るの下手だったけど。」


王が思わず苦笑する。


「あれは酷かった。」


「砂糖と塩を間違えたこともあった。」


「あったあった!」


ニャオミーが笑う。


「なのに、お父様全部食べてた!」


「食べるしかなかった。」


部屋へ小さな笑い声が響いた。


その空気に、ユウトたちも自然と笑みを浮かべる。


ニャオミーは本棚へ近付いた。


「懐かしい!」


一冊ずつ本を取り出していく。


「このお菓子の本、お母様お気に入りだった!」


「あと、この絵本!」


「それから、この少女漫画!」


楽しそうに笑うニャオミー。


「小さい頃、お母様がよく読んでくれたの。」


「外の国のお話なんだよって。」


ユウトが、その漫画を受け取る。


ぱらり、とページをめくる。


「……ん?」


思わず手が止まった。


「どうしたの?」


ニャオミーが覗き込む。


ユウトは本の一ページを指差した。


「これ。」


「文字。」


「俺の世界の文字だ。」


「……え?」


部屋が静まり返る。


ルゥも本を覗き込む。


コハクも近付く。


王だけが静かに頷いた。


「そうだ。」


「それは人間界で作られた本だ。」


「…………。」


ニャオミーが固まる。


少女漫画を見つめる。


料理本を見る。


絵本を見る。


全部。


幼い頃から見慣れていた本だった。


「……うそ。」


ぽつり、と呟く。


「これ……。」


「外の国のお話じゃ……。」


王が静かに言う。


「外の国。」


「そう教えていた。」


「本当は。」


「人間界の本だ。」


ニャオミーの瞳が揺れる。


「じゃあ……。」


「お母様が作ってくれたお菓子も?」


「人間界のお菓子だ。」


「植物図鑑も?」


「人間界のものだ。」


「じゃあ……。」


言葉が続かない。


今まで”外の国”だと思っていた思い出が、一つずつ別の意味へ変わっていく。


王は静かに本棚へ目を向けた。


「赤目一族の事件以降。」


「妖の国では、人間を危険視する者が増えた。」


「人間と交流していたことを知られれば。」


「王妃だけではない。」


「交流していた人間も危険になる。」


王は少しだけ目を伏せる。


「だから。」


「お前には、人間界とは教えられなかった。」


「外の国。」


「そう呼ぶしかなかった。」


しん、と静まり返る。


ニャオミーは、そっと少女漫画を抱きしめた。


「……知らなかった。」


「私。」


「ずっと、人間界のものに囲まれて育ってたんだ。」


「そうだ。」


王が頷く。


「王妃は、人間という存在を恐れてはいなかった。」


「むしろ。」


「もっと知りたいと願っていた。」


王は机の引き出しを開ける。


そこには革張りの日記と、何通もの古い手紙が大切にしまわれていた。


封筒には見慣れない文字。


ユウトだけが、それを読むことができた。


「これ……。」


「日本語……。」


王がゆっくり頷く。


「ある一人の人間。」


「研究者との手紙だ。」


「王妃は、その男から人間界の文化や知識を学んでいた。」


ユウトが息を呑む。


ルゥの表情も真剣になる。


「研究者……。」


「妖と人間が。」


「本当に交流しておったのか。」


「していた。」


王は静かに答えた。


「そして。」


革張りの日記へ、そっと手を置く。


「その出会いが。」


「王妃の運命を変えた。」


部屋の空気が一変する。


ニャオミーが王を見る。


「……お父様。」


王はゆっくり息を吸った。


「お前には事故だと話してきた。」


「だが。」


「王妃は事故で亡くなったのではない。」


「…………。」


「殺された。」


誰も言葉を発することができなかった。


窓の外では、穏やかな風が木々を揺らしている。


その音だけが、静かな部屋へ流れていた。

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