表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
93/107

第八十七章 ニャオミーのお母さん



猫又王国の中央。


白い石造りの王城は、青空へ向かって高くそびえ立っていた。


大きな門をくぐると、赤い絨毯が真っ直ぐ奥へ続いている。


壁には猫又王国の歴史を描いた大きな絵画。


磨き上げられた床へ、窓から差し込む陽光がきらきらと反射していた。


「やっぱり広いなぁ。」


ユウトが思わず見回す。


「一回目は牢屋しか見てないもんね。」


ニャオミーが苦笑する。


「そうなんだよ!」


「王城なのに牢屋の思い出しかない!」


「自業自得じゃ。」


ルゥが肩をすくめた。


「違うだろ!」


「俺は完全に巻き込まれたんだから!」


「あははっ!」


ニャオミーが楽しそうに笑う。


そんな賑やかな声が響く中、一人の執事が深く一礼した。


「陛下がお待ちです。」


案内された先は、大きな謁見の間だった。


天井は高く、左右には歴代国王の肖像画が並ぶ。


奥の玉座には、一人の男が静かに腰掛けていた。


猫又王。


威厳のある表情は変わらない。


けれど娘の姿を見つけた瞬間、その瞳だけが少し柔らかくなった。


「……ルミナリア。」


ニャオミーが足を止める。


「ただいま、お父様。」


王は静かに頷いた。


「無事で何よりだ。」


その一言だけだった。


けれど、そこには一年半分の想いが詰まっているようだった。


少し照れくさそうに笑うニャオミー。


その様子を見て、王もほんの少しだけ口元を緩めた。


「旅はどうだった。」


「すっごく楽しかった!」


「いろんな妖に会ってね!」


「美味しいものもいっぱい食べたし!」


「妖魔ともいっぱい戦ったし!」


「そこは心配するところだ。」


「えへへ……。」


ニャオミーが頭をかく。


そんな親子のやり取りに、部屋の空気が少し和らいだ。


王は改めてユウトたちへ視線を向ける。


「娘を支えてくれたこと、感謝する。」


「いえ。」


ユウトは軽く頭を下げた。


「俺たちも何度も助けられてますから。」


「うむ。」


ルゥも頷く。


「この猫耳娘は騒がしいが、頼れる仲間じゃ。」


「猫耳娘って!」


ニャオミーが頬を膨らませる。


その姿に王は小さく笑った。


「……やはり。」


ぽつり、と呟く。


「母親に似ている。」


ニャオミーがきょとんと目を瞬かせた。


「お母様に?」


「ああ。」


「自由で。」


「思い立ったら止まらん。」


「人の話を聞かんところまで、そっくりだ。」


「最後余計!」


思わず抗議すると、王は珍しく声を出して笑った。


その笑顔を見て、ニャオミーも自然と笑みが零れる。


けれど。


ふと、その笑顔が少しだけ寂しそうに揺れた。


「……お母様。」


ぽつりと呟く。


「今の私を見たら……。」


「なんて言うかな。」


部屋が静かになった。


ユウトたちも言葉を失う。


その空気に気付いたニャオミーが、小さく笑う。


「あ。」


「そういえば、みんなには話してなかったよね。」


振り返る。


「私のお母様。」


「私が小さい頃に、事故で亡くなっちゃったの。」


「……。」


誰も言葉を返せなかった。


王だけが静かに目を伏せる。


そして。


ゆっくり息を吐いた。


「……実は。」


静かな声だった。


「ルミナリアを驚かせてしまうかもしれない。」


王は娘を見つめる。


その瞳には、迷いがあった。


長い間、胸の奥へ閉じ込めてきたものを、ようやく口にしようとする人の目だった。


「ずっと。」


「いつかは話さなければならないと思っていたことがある。」


ニャオミーの表情が少しずつ真剣になる。


「……なに?」


王は一度だけ目を閉じた。


そして決心したように口を開く。


「……母親のことだ。」


空気が張り詰める。


「お前が旅へ出る前に。」


「今日、話しておきたい。」


ニャオミーは黙って頷いた。


そして。


少しだけ不安そうに仲間たちを見る。


ユウトが小さく笑う。


「大丈夫。」


「俺たち、街でも見てこようか。」


「ユウト……。」


その時だった。


王が静かに首を横へ振る。


「……いや。」


「よければ君たちにも、一緒に聞いてもらいたい。」


全員が王を見る。


王は一呼吸置き、ゆっくりと言葉を続けた。


「この話は娘にとって大切な話だ。」


「だが。」


「君たちにも、無関係ではない。」


ユウトが眉をひそめる。


「俺たちにも……?」


王は静かに頷く。


「人間が関わってくる話だからだ。」


「……!」


ユウトが息を呑む。


ルゥの金色の瞳が細くなる。


「人間……じゃと。」


「そして。」


王は真っ直ぐユウトを見る。


「君がこの妖の国へ来た理由。」


「旅の目的にも、関わってくる話になると思っている。」


謁見の間が静まり返る。


誰も言葉を発しない。


やがて王は立ち上がった。


「……来なさい。」


「母の部屋へ案内しよう。」


その一言とともに。


長い間閉ざされていた真実の扉が、ゆっくりと開こうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ