表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
84/107

第七十八章 妖の国のお月見祭り

翌日。


 


九尾の里は、朝からどこか浮き足立っていた。


 


澄み切った青空の下。


 


赤や金の提灯が、通りのあちこちへ吊るされている。


 


屋台を組み立てる妖たち。


 


大きな鍋を運ぶ狐。


 


竹へ色とりどりの短冊を結ぶ子どもたち。


 


甘い香りと、楽しそうな笑い声が、初夏のやわらかな風へ溶けていく。


 


まるで。


 


里全体が、お祭りを待ちきれないみたいだった。


 


「すごーい……!」


 


ニャオミーが、目をきらきらさせる。


 


「お祭りって感じする!」


 


「……やたい。」


 


たぬぷぅも、ぴこん、と耳を立てた。


 


「……いいにおい。」


 


「朝から食べ物のことなの?」


 


コハクが、くすりと笑う。


 


すると、

ふと何かを思いついたように、立ち止まった。


 


「そうだ。」


 


全員が見る。


 


「せっかくのお祭りだし。」


 


にこり。


 


「みんな、和装着てみない?」


 


「和装?」


 


ユウトが首を傾げる。


 


コハクが頷く。


 


「祭りの日限定で、貸衣装のお店があるの。」


 


「九尾の里の祭りは、みんな和装を着るのが定番なのよ。」


 


その瞬間。


 


「……!」


 


隣でルゥの目が、きらりと輝いた。


 


「浴衣じゃ!!」


 


ぱぁぁぁっ。顔が、一気に明るくなる。


 


「知ってるの?」


 


「もちろんじゃ!」


 


ルゥが、ふんすっと胸を張る。


 


「夏祭りといえば浴衣!」


 


「浴衣といえばりんご飴!」


 


「りんご飴といえば金魚すくいじゃ!!」


 


「全部セットなんだ。」


 


ユウトが苦笑する。


 


「浴衣、着るのじゃ!」


 


「早く行くのじゃ!!」


 


「子どもみたいだな……。」


 


「子どもではない!」


 


「龍神じゃ!!」


 


そう言いながら、足取りは妙に軽かった。


 


✧ ✧ ✧


 


貸衣装屋は、通りの一角にあった。


 


木造の古い建物で、軒先には色鮮やかな反物が何本も吊るされている。


 


店の中へ入ると。


 


壁一面に、浴衣や帯がずらりと並んでいた。


 


桜柄。


 


金魚柄。


 


紅葉柄。


 


狐柄。


 


見ているだけで、なんだかわくわくする。


 


「かわいーーーっ!!」


 


ニャオミーが、ぱぁっと顔を輝かせた。


 


「これも可愛いし、こっちも可愛い……!」


 


「……。」


 


たぬぷぅも。


 


じぃぃぃ……っと、真剣な顔で見ている。


 


「……どれが、おだんごにあう?」


 


「基準そこ!?」


 


ユウトが思わずツッコんだ。



しばらくして。


 


全員が着替え終わる。


 


ユウトは、紺色の浴衣。


 


たぬぷぅは、淡い黄色に小さな葉っぱ模様。


 


ニャオミーは、桃色の花柄。



コハクは、白地へ薄紫色の流線と大きな花をあしらった、大人びた浴衣を纏っていた。



普段は背へ流している白い髪も、この日は顔の横へ一房だけ残し、後ろで上品に結い上げられている。


 


そして。


 


ルゥ。


 


白地へ、金色の龍が描かれた浴衣。


 


長い髪は高い位置で結われ、金色の飾り紐が揺れている。


 


「おぉ……。」


 


思わず。


 


ユウトが、声を漏らした。


 


「馬子にも衣装って言葉があるけど……。」


 


「ほんとなんだな。」


 


「失礼じゃな!!?」


 


ルゥが、ばっと振り返る。


 


「我が普段、風格がないとでも言いたいのか!?」


 


「……まぁ。」


 


「監視好きの……女児?」


 


「失礼すぎるのじゃ!!!」


 


全力だった。


 


ニャオミーが、ぷっと吹き出す。


 


「ふふっ!」


 


「まぁまぁ!」


 


「ルゥはそこが可愛いんだからっ!」


 


「ぐぬぬ……。」


 


少しだけ頬を赤くする。


 


完全に褒められ慣れていない顔だった。


 


「……にしても。」


 


ニャオミーが、くるりと回る。


 


袖が、ふわりと揺れた。


 


「和服って、かわいー……!」


 


コハクが、柔らかく微笑む。


 


「そういや、ニャオミーの正装はドレスだったわよね。」


 


「うん!」


 


ニャオミーが頷く。


 


「猫又の国ってね。」


 


「いろんな国との貿易で発展した国なんだ。」


 


「だから、西の文化がすごく濃いの!」


 


「へぇ……。」


 


「この前は襲撃で粉々になっちゃったけど……。」


 


少しだけ寂しそうに笑う。


 


「本当は、街もすっごく綺麗なんだよ。」


 


「猫又名物のお菓子もいっぱいあるし!」


 


たぬぷぅ。


 


「……おかし。」


 


耳ぴこん。


 


「マカロンとか!」


 


「焼き菓子とか!」


 


たぬぷぅ。


 


「……たべたい。」


 


「ぜひ食べてほしい!」


 


ニャオミー。


 


「また今度、私の国に帰ったら案内させてね!」


 


「今度はみんなでドレス着て、お姫様になっちゃお!」


 


「また可愛くなってしまうな。」


 


ルゥが、うんうんと頷く。


 


ユウト。


 


「誰が?」


 


ふんす。


 


胸を張る。


 


「我じゃ。」


 


「お前かよ。」


 


「当然じゃ!」


 


どっ。笑い声が上がる。


 


みんな楽しそうだった。


 


「……。」


 


その光景を。


 


コハクだけが、ぼんやりと見ていた。


 


浴衣。



提灯。

 


遠くから聞こえる笛の音。



夏の匂い。



お祭り。


 


昔と、同じだ。


 


胸の奥が、ちくり、と痛む。


 


――『えー?コハクちゃん?誘ってないよ?』


 


小さな声。


 


――『おい、誰だよ。コハクに集合場所教えたやつ。』


 


笑い声。


 


――『だってコハクは……』


 


「……っ。」


 


ぎゅっと浴衣の袖を握る。


 


呼吸が、少し浅くなる。


 


「……?」


 


隣から。


 


ユウトの声がした。


 


「コハク?」


 


「……。」


 


「大丈夫か?」


 


はっとコハクが顔を上げる。


 


みんながいる今は、昔じゃない。


 


「……ううん。」


 


ふわりといつものように、笑う。


 


「大丈夫。」


 


だけどその笑顔は、

どこか、少しだけ苦しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ