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第七十五章 カリスマ料理人、そらぴす!

九尾の里の夜は、静かだった。


 


窓の外では、軒先に吊るされた風鈴が夜風に揺れ、りん……と澄んだ音を鳴らしている。


 


けれど、その静けさとは反対に。


 


家の中だけは、妙に賑やかだった。


 


「よしっ!」


 


そらぴすが、ぱんっと両手を叩く。


 


「いざ!」


 


「妖の国ご飯、第二回戦!」


 


「はじめまーす!!」


 


「おぉー……。」


 


なんとなく。


 


全員が拍手した。


 


そらぴすは満足そうに頷くと、どんっと大きな籠を床へ置く。


 


中から転がり出てきたのは、今日みんなで採ってきた食材たちだった。


 


虹色の傘を持つ朝虹茸。


小さな鈴のような花を揺らす月鈴菜。


金色の蜜をたっぷり蓄えた星蜜の実。


青い莢が風に鳴る風鳴き豆。


そして、綿菓子みたいにふわふわした雲綿の芽。


 


「……!」


 


コハクの目が、ぱっと輝いた。


 


「今朝採った子たちね。」


 


「そそ! 全部使っちゃうよ!」


 


そらぴすが、胸を張る。


 


「今日は豪華メニューの日だから!」


 


「豪華メニュー……。」


 


隣で、たぬぷぅがごくりと唾を飲み込んだ。


 


そらぴすが、にっと笑う。


 


「はいっ!」


 


ぱんっ。


 


「本日の献立、発表しまーす!」


 


「朝虹茸の炊き込みご飯!」


 


「月鈴菜の天ぷら!」


 


「風鳴き豆の甘辛炒り!」


 


「雲綿の芽の雪蒸し!」


 


そこで一度、もったいぶるように間を置く。


 


「そして!」


 


「デザートに、星蜜の実のひんやり蜜がけ!」


 


「「「「おぉー!!」」」」


 


歓声が上がる。


 


「じゃ!」


 


「さっそく作ってくよー!」


 


そらぴすは袖をくるりとまくり、食材を台の上へ並べ始めた。


 


朝虹茸を大きさごとに分け。


月鈴菜を桶の水でしゃぶしゃぶと洗い。


風鳴き豆を小鉢へ移し替える。


 


迷いのない手つきだった。


 


「……。」


 


コハクが、じぃっと見つめている。


 


じり。


 


一歩。


 


じり。


 


また一歩。


 


完全に前のめりだった。


 


「近い近い。」


 


ユウトが苦笑する。


 


「だって……。」


 


コハクの狐耳が、ぴくぴく動く。


 


「すごく手際がいいんだもの……。」


 


すると。


 


隣では。


 


たぬぷぅも。


 


じぃぃぃ……。


 


食材と、そらぴすの手元を見つめていた。


 


目が。


 


きらきらしている。


 


そして。


 


くいっ。


 


ユウトの服を引っ張った。


 


「……いつ、たべる?」


 


「まだ始まったばっかり!」


 


「……。」


 


しょん。


 


耳が、へにゃっと垂れる。


 


「大丈夫!」


 


そらぴすが、びしっと指を立てた。


 


「ご飯は!」


 


「待った時間も美味しさだから!」


 


「……。」


 


「……おいしさ。」


 


「そう!」


 


「待った分だけ、幸せも増す!」


 


「……!」


 


たぬぷぅが、こくりと頷いた。


 


なんか納得した。


 


その間にも、そらぴすは鍋へ研いだお米を入れ、その上へ薄く切った朝虹茸をぱらぱらと散らしていく。


 


すると。


 


淡い虹色だった茸の傘が、ふわりと光を帯びた。


 


「……!」


 


コハクが、目を見開く。


 


「色……変わった……。」


 


「うん。」


 


そらぴすが、きょとんとする。


 


「元気になった。」


 


「……元気?」


 


「うん。」


 


当たり前みたいに頷く。


 


「この子、ちょっと疲れてた。」


 


「だから。」


 


そっ。


 


朝虹茸を、優しく撫でる。


 


「美味しくなーれ。」


 


ふわぁ……。


 


虹色が、さっきよりも鮮やかに濃くなった。


 


部屋が、しんと静まる。


 


ユウトが鍋を見る。


 


ニャオミーも鍋を見る。


 


ルゥだけが、じっと朝虹茸を見つめていた。


 


「……今、光ったよな?」


 


「うん。」


 


即答だった。


 


「加護の力か……。」


 


ルゥが、小さく呟く。


 


その声をよそに、そらぴすはもう次の食材へ手を伸ばしていた。


 


雲綿の芽を蒸し器へ並べる。


 


白い綿毛が、立ち上る湯気に揺れてふるふると震えた。


 


すると。


 


もこ。


 


もこもこ。


 


綿毛が、生き物みたいに少しずつ膨らみ始めた。


 


「増えた!?」


 


ニャオミーが叫ぶ。


 


「増えた。」


 


そらぴすが頷く。


 


「この子、ふわふわになるの好きだから。」


 


「好きだから……。」


 


ユウトが、遠い目になる。


 


もはや。


 


何を基準に物事が起きているのか、よく分からない。


 


「……なるほどな。」


 


その時だった。


 


ルゥが、静かに口を開く。


 


全員が見る。


 


ルゥは、ふわふわに膨らんだ雲綿の芽を見つめていた。


 


「豊穣の加護。」


 


ぽつり。


 


「植物や食べ物へ、より良い実りを与える力……ということか。」


 


「……!」


 


そらぴすが、ぱちりと目を瞬かせる。


 


「そうなのかな。」


 


「多分。」


 


ルゥが答える。


 


すると。


 


そらぴすは、少しだけ嬉しそうに笑った。


 


そして、ふわふわになった雲綿の芽を指先で優しく撫でる。


 


「だったら、いいな。」


 


「?」


 


ユウトが首を傾げる。


 


そらぴすは、にっと笑った。


 


「だって。」


 


「美味しくなる方が、みんな嬉しいじゃん。」


 


全員。


 


「……。」


 


「……。」


 


「……。」


 


なんだろう。


 


すごく。


 


この子らしい理由だった。


 


その時。


 


ことこと……。


 


鍋の中で、お米が踊るような小さな音を立てる。


 


ふわり。


 


甘くて優しい香りが、湯気に乗って部屋へ広がっていった。


 


朝虹茸の炊き込みご飯だ。


 


「……!」


 


たぬぷぅ。


 


ぴこんっ。


 


耳が立つ。


 


「……!」


 


コハク。


 


ぴこんっ。


 


耳が立つ。


 


二人とも、いつの間にか鍋の前へじりじり近づいていた。


 


「耳って、正直なんだな……。」


 


ユウトが、ぽつりと呟いた。


 


そらぴすが、にっと笑う。


 


そして。


 


鍋の蓋へ、そっと手をかけた。


 


「よし。」


 


こと。


 


蓋が開く。


 


ふわぁぁ……。


 


白い湯気が立ち上り、甘くて優しい香りが一気に部屋いっぱいへ広がった。


 


虹色の朝虹茸が、つやつやと輝いている。


 


「完成ーーーっ!!」


 


「「「「おぉぉぉ……!!」」」」

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