第七十四章 頭を使うと腹が減る
ぱち。
白い世界が、消える。
気づけば。
そこは、また九尾の里だった。
提灯の灯りが、ゆらゆらと揺れている。
誰も、すぐには喋れなかった。
静かな夜だった。
窓の外では。
どこかの家の風鈴が、小さく鳴っている。
やがて。
ユウトが、ぽつりと呟いた。
「……やっぱり。」
「神宝を割ったのは……あの子自身だったんだな。」
誰へ向けるでもない。
独り言みたいな声だった。
『ごめんね』
そう言いながら。
神宝へ手を伸ばした、小さな手。
あの悲しそうな顔が、頭から離れない。
「でも……。」
小さく、眉を寄せる。
「なんで、そこまでしなきゃいけなかったんだ……。」
「欲望が、世界を滅ぼす。」
「それって……。」
「どういうことなんだ……。」
静かな空気が落ちる。
ルゥが、ゆっくりと腕を組んだ。
「……神宝は、人を選ぶ。」
「そして。」
「その者の良いところを増幅させる。」
「それが……神宝の加護、ということか。」
「……うん。」
ユウトが、小さく頷く。
すると。
「あ。」
ニャオミーが、はっと顔を上げた。
全員が見る。
「だからか。」
「ぴすちゃんは豊穣。」
「たぬぷぅは生命。」
「二人が、大切にしてるものだもん。」
「……。」
たぬぷぅが、自分の胸元を見る。
そらぴすも。
籠を、ぎゅっと抱えた。
「……。」
やがて。
コハクが、小さく息を吐く。
「そうよね……。」
「そこは、分かった。」
「……あとは。」
少し考える。
「欲望が……世界を滅ぼす、だったかしら。」
「……うむ。」
ルゥが、静かに頷く。
「誰かに狙われた。」
「だから……割るしかなかった。」
「そういうことかもしれんな。」
最初のアクセスで、最後に見たあの黒い亀裂。
そして。
顔の見えない、黒い影。
部屋が、また静かになる。
すると、ぽつり。
「……うち。」
全員が見る。
そらぴすが。
少しだけ、困った顔をしていた。
「思ったより……。」
「なんか、すごい話だった……。」
全員。
「……。」
「……。」
「……うん。」
ユウトが、苦笑する。
「うん……。」
ものすごく。
今さらな感想だった。
でも。
それ以上に、しっくりくる言葉もなかった。
神。
神宝。
加護。
世界を滅ぼす欲望。
急に、話が大きくなりすぎている。
そして。
ユウトが、そっと手を握った。
「……じゃあ。」
小さく。
けれど。
確かめるように呟く。
「俺たちは……。」
「その砕けた神宝を、もう一度集めてるんだな……。」
なぜなのか。
白い少女の目的は何なのか。
まだ、分からない。
だけど。
俺は、やっぱり。
あの子に呼ばれて、この世界へ来たんだ。
神宝を集めるために。
そして――。
あの子が、本当に守りたかったものを知りたい。
そう、強く思った。
しん……。
ぐぅぅぅぅぅ……。
「……。」
そらぴすが、すっ……と、目を逸らした。
ニャオミー。
「……ぴすちゃん?」
「……。」
「……お腹、空いた。」
真顔だった。
全員。
「今ぁ!?」
「だってぇ……。」
そらぴすが、お腹を押さえる。
「神宝、すごかった。」
「うん。」
「いっぱい考えた。」
「うん。」
「お腹空いた。」
「思考回路どうなってるの!?」
ニャオミーが思わず叫ぶ。
すると。
そらぴすが、もぞもぞと籠を抱え直した。
中から。
朝虹茸。
月鈴菜。
星蜜の実。
風鳴き豆。
雲綿の芽。
今日採った食材たちが、ひょこっと顔を覗かせる。
「……。」
「……。」
「……。」
そらぴす。
「……台所。」
「うん?」
「借りていい?」
全員。
「……。」
「……。」
「……。」
ニャオミー。
「作るの!?」
「せっかく採ったし。」
真顔。
「鮮度が命。」
「鮮度が命なんだ……。」
すると。
こくり。
たぬぷぅが頷く。
「……せんど、だいじ。」
「分かるーーーっ!!」
がしっ。
「……どうし。」
また意気投合していた。
その様子を見て。
コハクが、ふふっと笑う。
さっきまでの重たい空気が、少しだけ和らいでいく。
お婆ちゃんも、目を細めた。
「いいよ。」
全員。
「!」
「久しぶりに、賑やかな台所になりそうじゃ。」
そらぴす。
「……!」
ぱぁぁぁっ。
顔が、一気に輝いた。
「やったーーーっ!!」
ぴょんっ。
その場で飛び跳ねる。
そして。
くるり。
振り返る。
にっ。
「じゃあ!」
「妖の国ご飯、第二回戦!」
「はじめまーす!!」
全員。
「「「「おぉー……?」」」」
夜の九尾の里へ。
そらぴすの、やたら元気な声が響いたのだった。




