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第七十章 豊穣の加護を持つ少女

「うちは……。」


 


静かな声だった。


 


「豊穣の加護を持ってる。」


 


全員。


 


「……。」


 


「……え?」


 


夜風が、静かに吹き抜けた。


 


最初に口を開いたのは。


 


ユウトだった。


 


「……ほうじょう?」


 


「うん。」


 


そらぴすが、こくりと頷く。


 


「最初はね。」


 


「山菜採りしてたの。」


 


「……山菜。」


 


「うん。」


 


そらぴすが、空を見上げる。


 


「いつもの山に行ったら。」


 


「山菜が、いっぱい枯れてた。」


 


「……!」


 


コハクが目を見開く。


 


「全部、しなしなになってて。」


 


「葉っぱも茶色くなってて。」


 


「変だなーって思った。」


 


「それで。」


 


「よく見たら、黒い靄が出てた。」


 


全員。


 


「……!」


 


ルゥの表情が引き締まる。


 


「黒い靄……。」


 


「うん。」


 


「だから、原因を探した。」


 


「そしたら。」


 


「欠片があった。」


 


静かな声だった。


 


「だから、取った。」


 


風が吹き、木々が揺れる。


 


「そしたらね。」


 


「別の山でも。」


 


「また山菜が枯れてて。」


 


「また欠片があった。」


 


「また取った。」


 


「……。」


 


「……。」


 


「……。」


 


そらぴすが、少し困ったように笑う。


 


「なんか。」


 


「いろんな場所で、同じこと起きてた。」


 


そして。


 


ぽつり。


 


「……山菜が、かわいそうだったから。」


 


「……!」


 


「欠片を見つけたら。」


 


「とりあえず、取ってた。」


 


静かな沈黙が落ちる。


 


なんだろう。


 


すごく。


 


そらぴすらしい理由だった。


 


「そしたら。」


 


「ある時。」


 


ぱっ。


 


両手を広げる。


 


「きらきらーっ!ってなって!」


 


「おぉ……。」


 


「なんか、丸くなって!」


 


「喋った!」


 


「喋ったの!?」


 


ニャオミーが叫ぶ。


 


「うん!」


 


「それでね。」


 


「豊穣の加護、あげるー。」


 


「みたいな感じだった。」


 


「軽っ。」


 


ユウトが思わず呟く。


 


そらぴすは、こくこくと頷く。


 


「それから。」


 


「うち。」


 


「枯れた植物を、元に戻せるようになったんだ。」


 


全員。


 


「……!」


 


「あと。」


 


「植物を元気にしたり。」


 


「果物を甘くしたり。」


 


「珍しい山菜を見つけやすくなったり。」


 


「他にも、いろいろできる。」


 


そして。


 


背中の大きな籠を、ぽんぽんと叩く。


 


「だから。」


 


「レア食材とか、いっぱい持ってる。」


 


「……。」


 


「……。」


 


「……。」


 


たぬぷぅが。


 


ぱちり、と瞬きをした。


 


そして。


 


こてん。


 


首を傾げる。


 


「……じゃあ。」


 


「ん?」


 


「……たぬぷぅも?」


 


全員。


 


「……!」


 


「……せいめい、だから。」


 


「なにか……できる?」


 


ルゥが、小さく目を見開いた。


 


「……確かに。」


 


「生命と豊穣。」


 


「どちらも、生きる力に関わる加護じゃ。」


 


「もし神宝の加護に、それぞれ固有の力があるのだとしたら……。」


 


ルゥが、たぬぷぅを見る。


 


「おぬしにも、まだ知らぬ力があるのかもしれぬ。」


 


「……!」


 


たぬぷぅの耳が、ぴこん、と立った。


 


「……たぬぷぅにも。」


 


「……とくべつ。」


 


ぽわ。


 


嬉しそうに、しっぽが揺れる。


 


ユウトが、ふっと笑う。


 


「あるかもね。」


 


「これから分かるかもしれない。」


 


「……!」


 


今度は、しっぽがぶんぶん揺れ始めた。


 


「……たぬぷぅ。」


 


「がんばる。」


 


「何を頑張るんだよ。」


 


「……わかんない。」


 


「分かんないのか。」


 


小さな笑いが零れる。


 


その時。


 


コハクが、ふと空を見上げた。


 


「……でも。」


 


「やっぱり、同じなのね。」


 


「え?」


 


「欠片。」


 


「黒い靄。」


 


「そして、神宝の再生。」


 


コハクが、ゆっくりとそらぴすを見る。


 


「あなたも。」


 


「私たちと同じものを見てきたのね。」


 


「……うん。」


 


そらぴすが、小さく頷く。


 


そして。


 


少しだけ。


 


困ったように笑った。


 


「だから。」


 


水色の瞳が、静かに森を見つめる。


 


「その……神宝?」


 


「とかは、全然分かんない。」


 


「でも。」


 


一拍。


 


「森が、これ以上枯れちゃうの。」


 


「許せない。」


 


その声だけは。


 


今までみたいな、ふわふわした調子じゃなかった。


 


「だから。」


 


ゆっくりと、みんなを見る。


 


「詳しく知りたいんだ。」


 


夜風が、静かに吹く。


 


ルゥが、ふっと目を細めた。


 


「……ならば。」


 


全員が、そちらを見る。


 


「我らと来るか?」 




「……え?」


 


「九尾の里じゃ。」




「神宝について」




「おぬしの知らぬことが、分かるかもしれぬ。」


 


「……。」


 


ぱちり。


 


水色の瞳が瞬く。


 


しばらく。


 


そらぴすは考え込んでいた。


 


「……あのさ。」


 


「うん?」


 


「うち。」


 


少し困ったように笑う。


 


「ずっと一緒とかは、性格に合わないんだよね。」


 


全員。


 


「……。」


 


「みんなが嫌いとかじゃないよ?」


 


「うん。」


 


「むしろ、みんないい人。」


 


「……。」


 


「でも。」


 


そらぴすが、星空を見上げる。


 


「みんなには、みんなの目的があるんだよね?」


 


そして。


 


自分の胸へ手を当てる。


 


「うちにも。」


 


「うちの目的がある。」


 


静かな声だった。


 


「……森を元に戻したい。」


 


風が吹く。


 


白い髪が、ふわりと揺れる。


 


「だから。」


 


少しだけ、言いにくそうに。


 


「……神宝の話だけ。」


 


「聞きに行ってもいい?」


 


一瞬。


 


しん、と静かになる。


 


そして。


 


コハクが、ふっと笑った。


 


「ふふっ。」


 


「もちろんよ。」


 


ユウトも笑う。


 


「当たり前だよ。」


 


「いいの?」


 


「うん。」


 


ニャオミーも、にっと笑う。


 


「じゃあ、とりあえず同行者ってことで!」


 


「……同行者。」


 


「うん!」


 


「期間限定ぴすちゃん!」


 


すると。


 


たぬぷぅが、ててて、と近寄った。


 


そして。


 


そらぴすの服を、くいっと引っ張る。


 


「……?」


 


「……また、ごはんつくって。」


 


数秒。


 


そらぴすが、ぱちぱちと瞬きをする。


 


それから。


 


へにゃり。


 


「……うん。」


 


少しだけ。


 


嬉しそうに笑った。


 


こうして。


 


豊穣の加護を持つ山姥――そらぴすは。


 


神宝の話を聞くため。


 


しばらくの間だけ。


 


彼らと旅を共にすることになったのだった。


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