第六十九章 白ギャルヤマンバの作るご飯
目の前には。
信じられない光景が広がっていた。
切り株の上へ。
湯気を立てる料理が、ずらりと並んでいる。
薄い緑色の炊き込みご飯。
琥珀色の汁物。
こんがり焼けた魚。
そして。
青紫色に輝く、とろりとした甘煮。
ふわりと、甘い香りが漂う。
全員。
「……。」
「……。」
「……。」
ニャオミー。
「……え。」
ユウト。
「……えぇ?」
ルゥ。
「…………。」
言葉が出ない。
そして。
コハク。
「……。」
「……。」
じり。
一歩。
じり。
また一歩。
完全に前のめりだった。
「……何これ。」
ぽつり。
「見たことない。」
隣では。
たぬぷぅも。
じぃぃぃ……。
料理を凝視している。
目が。
きらきらしていた。
そして。
くいっ。
ユウトの服を引っ張る。
「……いつ、たべる?」
全員。
「「「「そこ!?」」」」
そらぴす。
「待って!」
「まだ説明あるから!」
「せつめい……。」
たぬぷぅが、しょんぼりする。
そらぴす。
「ご飯はね!」
「作った人のこだわりを聞いてから食べると、もっと美味しいの!」
熱弁だった。
「まず一品目はこちらー!」
どんっ。
薄い緑色の炊き込みご飯を前へ出す。
「東の霧山で採れる朝露米を使った、木の実と山菜の炊き込みご飯でーす!」
「朝露米……。」
コハクが、ぐいっと身を乗り出した。
「これがお米?」
「そう!」
急に食いついた。
「これねー!」
「朝の露をいっぱい吸って育つお米なの!」
「だから水分たっぷり!」
「もちもち!」
「甘い!」
「しかも冷めても美味しい!」
「旅人界隈では超人気!」
「へぇ……!」
コハクの目が輝く。
「それでね!」
「この赤い葉っぱ!」
「紅葉菜っていうんだけど!」
「火を通すと、ちょっと甘くなるの!」
「えっ。」
「山菜の苦みも、いい感じにまとめてくれる!」
「すご……。」
「だから炊き込みご飯との相性が神!!」
「神……。」
コハクが、じぃぃっとご飯を見る。
完全に興味津々だった。
「次!」
どんっ。
琥珀色の汁物。
「夜光星茸のお吸い物でーす!」
「……っ。」
今度は。
コハクが、ぴくっと反応した。
「このきのこ……星の形してる……。」
「そう!」
「しかもね!」
「夜になると青く光る!」
「光るの!?」
「光る!」
「暗い森だと、めちゃくちゃ綺麗!」
「見たい……。」
完全に目が輝いていた。
「しかも!」
「ぷりぷり!」
「出汁すごい!」
「この子一人で汁物界を背負ってる!」
「汁物界……。」
ユウトが呟く。
コハクは、もう話を聞いていない。
星茸を。
じーーーっ。
見ている。
「……採りたい。」
「分かるーーーっ!!」
そらぴすが、ばんっ、と両手を掴んだ。
「え。」
「採るの楽しいよね!?」
「う、うん……。」
「夜だとキラキラしてて!」
「宝石探しみたいなんだよ!」
「……!」
コハクの目が、さらに輝いた。
気が合った。
「そしてこちら!」
どんっ。
こんがり焼けた魚。
「風羽魚の塩焼きー!」
「……。」
「……。」
たぬぷぅが。
魚を見ていた。
じぃぃぃ……。
見ている。
そして。
くいっ。
またユウトの服を引っ張る。
「……いつ、たべる?」
「もうちょっと!」
「……。」
しょん。
「これね!」
「魚なのに飛ぶの!」
全員。
「飛ぶんだ……。」
「夕方になると崖から、ふわーって滑空するの!」
「だから身が締まってる!」
「脂ものってる!」
「塩だけで優勝!」
「優勝なんだ……。」
そして。
最後。
とろり。
青紫色に輝く甘煮。
その瞬間。
そらぴすの顔が、ぱぁっと明るくなった。
「そしてデザートー!」
「月雫の実の蜜煮!」
「これ!」
「めっちゃ好き!!」
急に熱量が違った。
「甘くて!」
「とろっとしてて!」
「ちょっと冷たくて!」
「口に入れると、うわぁ……今日も生きててよかったぁ……ってなる!」
「大げさ!?」
「大げさじゃない!」
真顔だった。
すると。
たぬぷぅが、そっと手を挙げる。
「……それ。」
「うん?」
「……たべたい。」
即答だった。
数秒。
そらぴす。
「分かるーーーっ!!」
がしっ。
たぬぷぅの両手を掴む。
「同志!!」
「……どうし?」
「月雫の実の良さが分かる人!!」
「……おいしそう。」
「おいしいよ!」
「めっちゃおいしいよ!!」
「……!」
たぬぷぅの目が、きらきらと輝いた。
そらぴすも。
負けないくらい、きらきらしていた。
「ご飯ってね。」
ぽん。
月雫の実を、優しく撫でる。
「一日三回しかないんだよ。」
「だから。」
にっ。
「美味しいもの食べると、ちょっと幸せになれる。」
「……。」
ユウトが、目を瞬かせる。
「だからうちは、ご飯好き!」
満面の笑みだった。
「さぁ、お待ちかね!」
「冷めないうちに、いっぱい食べよっ!!」
✧ ✧ ✧
星空の下。
深い森の中。
切り株を囲んで。
みんなで食卓を囲む。
旅の途中とは思えないほど。
豪華な晩ご飯だった。
「……おいしい。」
たぬぷぅが、ほわぁ……っと頬を緩める。
「でしょー!」
「このお魚、ふわふわ……。」
「でしょでしょー!」
「星茸、本当に出汁がすごい……。」
コハクが、じっとお吸い物を見つめる。
「分かるーーー!」
「この子、汁物界を背負ってるから!」
「それ、まだ言うのね……。」
ユウトが苦笑する。
隣では。
ルゥが、もぐもぐとご飯を食べていた。
「……む。」
「……。」
「……。」
そらぴす。
「……どう?」
少しだけ、そわそわした顔。
ルゥ。
「……うまい。」
そらぴす。
「……!」
ぱぁぁ。
顔が輝いた。
「よっしゃあ!」
ぐっ。
小さく拳を握る。
そして。
夜が更ける頃。
全員。
「「「「ごちそうさまでした。」」」」
「ごちそうさまでしたー!」
そらぴすも、ぱん、と手を合わせる。
「っはぁーーー!!」
ユウトが、空を見上げた。
「食った……。」
「幸せじゃ……。」
ルゥも、ふぅ……っと息を吐く。
たぬぷぅは。
ぽんぽこなお腹を、満足そうに撫でていた。
「……まんぷく。」
星が、静かに輝いている。
森を抜ける風が心地よかった。
「……そういえば。」
コハクが、ふと思い出したように顔を上げる。
「話の途中だったわよね。」
「ん?」
そらぴすが首を傾げる。
「そらぴすは。」
「神宝を再生させてるの?」
「……。」
そらぴすが考え込む。
「うーん……。」
「……多分。」
「やっぱりか……。」
ユウトが苦笑する。
そらぴすが、空を見上げた。
ぱちり。
星が、一つ瞬く。
「うちは……。」
静かな声だった。
「豊穣の加護を持ってる。」
全員。
「……。」
「……え?」




