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第六十四章 森の神宝の欠片

優しい声だった。


 


たぬぷぅが、はっと顔を上げる。


 


「……。」


 


誰もいない。


 


でも。


 


確かに聞こえた。


 


「……いま。」


 


小さく呟く。


 


「……なんか、きこえた。」


 


ユウトたちが顔を見合わせる。


 


「声……?」


 


コハクが尋ねる。


 


たぬぷぅが、こくりと頷いた。


 


そして。


 


目の前で輝く欠片を見る。


 


淡い緑色の光。


 


温かい。


 


まるで。


 


ずっと前から知っているみたいに、懐かしかった。


 


「……なんで。」


 


小さな声だった。


 


「……わたしを、まってたの……?」


 


すると。


 


欠片の光が、ふわりと揺れた。


 


さらさら。


 


頭上で葉が鳴る。


 


――だって。


 


また。


 


声がした。


 


――きみは、泣いていたから。


 


「……え?」


 


たぬぷぅが目を瞬かせる。


 


――苦しんでいるものを見て。


 


――悲しんで。


 


――助けたいと願っていた。


 


優しい声だった。


 


胸へ、すっと染み込んでくる。


 


――だから、待っていた。


 


「……。」


 


――きっと、帰ってくるって。


 


ぽろり。


 


涙が、一粒零れ落ちた。


 


「……わたし。」


 


何もできないと思っていた。


 


弱くて。


 


小さくて。


 


守られてばかりで。


 


でも。


 


苦しんでいる友達を見て。


 


助けたいと思った。


 


それだけは。


 


昔も。


 


今も。


 


変わっていなかった。


 


ダイダラボッチが、静かに目を細める。


 


「……神宝(しんぽう)はのう。」


 


全員が振り向く。


 


「人の強さだけを見るものではない。」


 


風が吹く。


 


葉が揺れる。


 


「優しさも。」


 


「願いも。」


 


「想いも。」


 


「ちゃんと見ておる。」


 


巨大な瞳が、たぬぷぅを見る。


 


「おぬしが、ずっと命を大切にしておったからじゃ。」


 


「……。」


 


「だから、応えた。」


 


たぬぷぅが、欠片を見上げる。


 


淡い緑の光が、優しく瞬いていた。


 


その時だった。


 


「……あれ?」


 


ユウトが、小さく声を漏らす。


 


全員が振り向く。


 


ユウトは、欠片を見上げたまま目をぱちぱちと瞬かせていた。


 


「……大きい。」


 


「え?」


 


ニャオミーも改めて見上げる。


 


確かに。


 


地下神殿で見つけた欠片とは、明らかに違っていた。


 


大人の手のひらほどはある。


 


まるで、小さな宝玉みたいだった。


 


「本当だ……。」


 


コハクも目を見開く。


 


「あの時の欠片より、ずっと大きい……。」


 


ルゥが、じっと緑の欠片を見つめる。


 


そして。


 


「……ふむ。」


 


小さく息を吐いた。


 


「もしや、欠片にも大きさの違いがあるのかもしれぬな。」


 


「大きさ?」


 


「うむ。」


 


ルゥが、ゆっくりと頷く。


 


「穢れへ耐える力。」


 


「周囲を守る力。」


 


「あるいは……宿しておる神気(しんき)そのもの。」


 


「それらに差があるのやもしれぬ。」


 


穏やかな葉音が響く。


 


「実際、この場所だけは、ほとんど穢れに侵されておらん。」


 


ダイダラボッチも、静かに頷く。


 


「うむ。」


 


「この欠片が、長い間、森を守り続けておったのじゃ。」


 


全員が、改めて緑の欠片を見上げた。


 


淡い光は、今も優しく瞬いている。


 


まるで。


 


長い年月を、たった一人で耐え続けてきたみたいに。


 


そして。


 


ふわり。


 


欠片が、ゆっくりと宙へ浮かび上がった。


 


全員。


 


「……!」


 


緑色の光が、辺りを照らす。


 


欠片は、ゆっくりと。


 


たぬぷぅの前へ降りてくる。


 


まるで。


 


手を取ってほしいと願うように。


 


静かに。


 


そこへ浮かんでいた。

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