第六十二章 呼ぶ声
ぱあっ――。
白い光が、ゆっくりと消えていく。
森へ、静けさが戻った。
妖鹿は、もう暴れていなかった。
大きな体を揺らしながら、ゆっくりと息を吐く。
そして。
大きな顔を、たぬぷぅへ寄せた。
「……!」
ふわふわ。
あったかい。
たぬぷぅの耳が、ぴんと立つ。
妖鹿が、もう一度すり、と頬を寄せた。
「……。」
たぬぷぅが、じっと見上げる。
茶色い目。
優しい顔。
なんだか。
とても、安心する。
『……ほとけ。』
ふいに。
声が聞こえた。
「……。」
たぬぷぅが、ぱちりと目を瞬かせる。
「……なまえ。」
「え?」
ユウトが振り向く。
たぬぷぅが、妖鹿を見上げたまま呟く。
「……ほとけ。」
「……え?」
「……この子。」
小さく、こくり。
「……ほとけ。」
「名前それなの!?」
ニャオミーが思わず叫んだ。
妖鹿。
――グル。
どこか満足そうに鳴く。
「いいの!?」
「気に入ってる……?」
コハクが、思わず苦笑する。
ぽんも、目をぱちぱちさせていた。
「……いや。」
「相変わらずだなぁ……。」
「……?」
「すず、小さい頃から名前付けるの独特だったんだよ。」
たぬぷぅが、こてんと首を傾げる。
ぽんが笑う。
「俺のことも、最初は『ぽん』って呼んでた。」
「……ぽん。」
「そう。」
「それが、そのまま定着した。」
「……。」
たぬぷぅが、ぽんを見る。
そして。
「……ぽん。」
ぽんが、ふっと笑った。
「うん。」
「……なんか。」
「ん?」
「……しっくり。」
「……!」
ぽんが目を見開く。
次の瞬間。
「思い出したのか!?」
「……?」
「いや、今!」
「……なんか、ぽん。」
「なんだそれ!」
全員が思わず吹き出した。
その時だった。
どくん。
たぬぷぅの胸が、小さく鳴る。
「……?」
胸の奥が、じんわりと温かい。
そして。
何かが。
呼んでいる。
「……こっち。」
たぬぷぅが、森の奥を見た。
全員が振り向く。
「え?」
「……よんでる。」
小さな指が、暗い森の奥を指差す。
「……きて、って。」
風が吹く。
ざわり。
木々が、優しく揺れた。
まるで。
森そのものが、頷いたみたいだった。
ダイダラボッチが、静かに目を細める。
そして。
小さく笑った。
「……やっと、会う気になったか。」
全員。
「……え?」
巨大な瞳が、森の奥を見つめる。
「神宝の欠片じゃ。」
風が吹く。
ざわり。
歪だった四季の森が、どこか穏やかに揺れる。
「ずっと……鈴葉を待っておったのじゃよ。」
たぬぷぅ。
「……わたしを?」
ダイダラボッチが、ゆっくりと頷いた。
「うむ。」
「参ろう。」
巨大な瞳が、優しく細められる。
「この森の、一番大切な場所へ。」




