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第五十七章 大好きな気持ち

「だめぇっ!!」


 


森へ、たぬぷぅの声が響いた。




 


ぽんが目を見開く。


 


「……すず。」


 


たぬぷぅは、ぽろぽろと涙を零していた。


 


「……この子。」


 


小さな拳を握る。


 


「……いたい。」


 


――グルル……。


 


妖鹿が、苦しそうに息を吐く。


 


赤い目から、また涙が零れ落ちた。


 


「……くるしい。」


 


「……。」


 


「……だから。」


 


たぬぷぅが、顔を上げる。


 


「……たすけたい。」


 


 


ぽんが、苦しそうに唇を噛んだ。


 


「でも……!」


 


「俺だって助けたい!」


 


「ずっと助けたかった!」


 


震える声だった。


 


「でも、無理なんだ……!」


 


「……。」


 


「もう、どうにもできないんだよ……。」


 


弓を握る手が、かすかに震えている。


 


その時だった。


 


「……いや。」


 


小さな声。


 


全員が振り向く。


 


ユウトだった。


 


「……まだ、決まってない。」


 


ぽんが顔を上げる。


 


「え……?」


 


ユウトが、真っ直ぐ妖鹿を見る。


 


赤い目。


 


黒い蔦。


 


苦しそうな声。


 


そして。


 


涙。


 


「泣いてるんだろ。」


 


「……。」


 


「だったら。」


 


ユウトが、一歩前へ出た。


 


「まだ助けられるかもしれない。」


 

 


ぽんが、呆然とユウトを見る。


 


「……助ける?」


 


「うん。」


 


「こんなのを……?」


 


「うん。」


 


「どうやって……。」


 


ユウトは、困ったように頭を掻いた。


 


「……分かんない。」


 


「分かんないのかよ!」


 


「でも!」


 


思わず、大きな声になる。


 


「分かんないから無理って決めるのは、違うと思うんだ。」


 


風が吹く。


 


ざわり。


 


森が揺れる。


 


「だって。」


 


ユウトが、たぬぷぅを見る。


 


涙でぐしゃぐしゃになった顔。


 


それでも。


 


真っ直ぐ妖鹿を見つめている。


 


「こんなに助けたいって言ってるんだから。」


 


 


ぽんが、目を見開く。


 


たぬぷぅ。


 


「……。」


 


「……たすけたい。」


 


小さな声だった。


 


でも。


 


今までで、一番強い声だった。


 


ダイダラボッチが、静かに目を細める。


 


「……変わらぬのう。」


 


「え?」


 


巨大な瞳が、たぬぷぅを見つめる。


 


「昔も、おぬしはそうじゃった。」


 


風が吹く。


 


ざわり。


 


「誰も諦めようとせぬ子じゃった。」


 


たぬぷぅが、ぱちりと目を瞬かせる。


 


「……わたしが?」


 


ダイダラボッチが、ゆっくり頷く。


 


「うむ。」


 


そして。


 


どこか懐かしそうに笑った。


 


「おぬしは昔――」


 


「『なんで撃つの?』と、泣きながら怒ったことがあったのう。」


 

 


 


「……!」


 


たぬぷぅの瞳が、大きく見開かれた。


 


次の瞬間。


 


『なんで撃つの!?』


 


幼い声。


 


『だめぇっ!!』


 


眩しい光。


 


大きな鹿。


 


飛んでくる――矢。


 


「……っ!」


 


たぬぷぅが、頭を押さえた。


 


全員。


 


「たぬぷぅ!?」

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