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第四十八章 春夏秋冬の森

森へ入った瞬間だった。


 


「……あれ?」


 


ニャオミーが足を止める。


 


「どうした?」


 


「なんか……変じゃない?」


 


そう言われて、ユウトも辺りを見回した。


 


木々が並んでいる。


 


草も生えている。


 


一見すると。


 


ただの森だ。


 


だが。


 


「……ほんとだ。」


 


目の前の一本は、真っ赤に紅葉している。


 


その隣では、小さな白い花が咲いていた。


 


さらに少し先には。


 


冬のように葉を落とした木が立っている。


 


春。


 


夏。


 


秋。


 


冬。


 


まるで。


 


四季が、ごちゃ混ぜになっているようだった。


 


「何これ……。」


 


ニャオミーが思わず呟く。


 


コハクも目を細める。


 


「こんなの……見たことない。」


 


ルゥは静かに木へ触れた。


 


そして。


 


「……理ことわりが乱れておる。」


 


「ことわり?」


 


「自然の流れじゃ。」


 


黒ずんだ幹を撫でながら、ルゥは眉をひそめる。


 


「本来なら、木々は同じ季節を生きる。じゃが……ここは違う。」


 


風が吹く。


 


ざわり。


 


葉が揺れた。


 


その音が、どこか苦しそうに聞こえた。


 


「森が……病気になってるってこと?」


 


ユウトが尋ねる。


 


ルゥは、すぐには答えなかった。


 


しばらく森を見渡し。


 


そして。


 


小さく頷く。


 


「……うむ。」


 


その時だった。


 


くいっ。


 


また服の裾が引っ張られる。


 


たぬぷぅだった。


 


「……こっち。」


 


「まだ分かるのか?」


 


「……うん。」


 


たぬぷぅは、少し不思議そうな顔をしている。


 


「なんか……よんでる。」


 


「誰が?」


 


「……わかんない。」


 


それだけ言うと。


 


てくてくと歩き始めた。


 


全員も後を追う。


 


森の奥へ進むほど、異変は大きくなっていく。


 


春の花と紅葉。


 


若葉と枯れ枝。


 


一本の木の中に、四季が混ざっているものまであった。


 


「なんか……気持ち悪いな。」


 


ユウトが小さく呟く。


 


すると。


 


がさっ。


 


茂みが揺れた。


 


全員が足を止める。


 


次の瞬間。


 


飛び出してきたのは、一頭の鹿だった。


 


しかし。


 


その姿を見て、ユウトたちは息を飲む。


 


赤い目。


 


全身に絡みつく黒い蔦。


 


口からは、黒い靄のようなものが漏れている。


 


鹿が、低く唸った。


 


「……っ。」


 


ルゥが前へ出る。


 


「邪鬼化しておる。」


 


「邪鬼……?」


 


「元は普通の妖獣じゃ。」


 


鹿が地面を蹴った。


 


突進。


 


「うわっ!?」


 


ユウトは慌てて避ける。


 


鹿は木へ激突した。


 


どごっ!!


 


だが。


 


痛みも感じていないように、すぐに振り向く。


 


赤い目だけが、ぎらりと光った。


 


「苦しそう……。」


 


ニャオミーが顔をしかめる。


 


その時。


 


鹿が再び駆け出した。


 


ユウトは咄嗟に前へ出る。


 


「待て!」


 


手を伸ばす。


 


触れた。


 


瞬間。


 


白い光が溢れ出す。


 


ぱぁ……。


 


鹿が、びくりと体を震わせた。


 


赤い目が揺れる。


 


黒い靄が、少しだけ薄くなる。


 


「……。」


 


鹿が、ユウトを見た。


 


怯えたような目だった。


 


「……大丈夫。」


 


思わず、そう言った。


 


だが。


 


ぶるっ。


 


鹿の体が激しく震える。


 


次の瞬間。


 


再び黒い靄が溢れ出した。


 


「……!」


 


鹿が苦しそうに鳴く。


 


そして。


 


くるりと向きを変えると、森の奥へ駆けていった。


 


誰も、すぐには喋れなかった。


 


やがて。


 


ルゥが小さく息を吐く。


 


「……似ておる。」


 


「え?」


 


ルゥは、鹿が消えていった方角を見つめた。


 


「地下神殿で見た欠片。」


 


「呪獣。」


 


「そして、この穢れ……。」


 


静寂。


 


「もしや……。」


 


ルゥが小さく呟く。


 


「神宝の欠片が、この森にも眠っておるのかもしれぬ。」


 


全員。


 


「……!」


 


ユウトが目を見開く。


 


「じゃあ……。」


 


コハクも、ゆっくり森を見回した。


 


「この森には……。」


 


ニャオミーが、ごくりと唾を飲み込む。


 


「二つ目の……神宝の欠片があるってこと……?」


 


風が吹く。


 


木々が揺れる。


 


その音が。


 


まるで、答えるように聞こえた。


 


その時だった。


 


小さな声が聞こえた。


 


「……たすけて。」


 


全員が振り向く。


 


木の陰。


 


そこから、小さな顔が覗いていた。


 


丸い目。


 


葉っぱのような髪。


 


手のひらほどの、小さな妖怪。


 


「……誰?」


 


ニャオミーがしゃがむ。


 


小さな妖怪は、怯えたように身を縮めた。


 


「……こだま。」


 


「木霊?」


 


小さな妖怪は、こくりと頷いた。


 


そして。


 


大きな目へ涙を浮かべる。


 


「……もり、ないてる。」


 


風が吹く。


 


ざわり。


 


木々が揺れた。


 


まるで。


 


本当に。


 


森が泣いているようだった。


 


そして。


 


木霊は、ゆっくりとたぬぷぅを見上げた。


 


じっ。


 


しばらく見つめ。


 


やがて。


 


小さく呟く。


 


「……かえって、きた。」


 


全員。


 


「……え?」


 


たぬぷぅ。


 


「……?」


 


木霊だけが、驚いたように目を潤ませていた――。

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