第四十七章 森へ導くもの
九尾の里を出てから、数時間。
春の終わりを思わせる柔らかな風が吹く。
街道の脇では、小さな花々が静かに揺れていた。
そんな、のどかな景色の中。
「……で?」
ニャオミーが槍を肩へ担ぎながら、首を傾げる。
「結局、次はどこに行くの?」
「…………」
全員が黙った。
ユウトは、空を見上げる。
神宝。
白い少女。
『……見つけて』
頭の中では、何度もあの声が響いていた。
でも。
肝心の手掛かりが、一つもない。
「……わからないな。」
「わからないわね。」
コハクも、あっさりと頷く。
「神宝の欠片が世界中に散らばってるって分かっただけで、場所までは全然分からないもの。」
「我も知らぬ。」
ルゥが腕を組む。
「そもそも神宝自体、伝承の存在じゃ。どこに何があるかなど、神でも分からぬ。」
「龍神なのに?」
「龍神を何だと思っておる。」
「万能。」
「違う。」
即答だった。
思わず、ユウトは苦笑する。
その時。
くいっ。
服の裾を、小さな手が引っ張った。
見下ろく。
たぬぷぅだった。
「……たぬぷぅ?」
たぬぷぅは、少しだけ考えるように、うーん、と唸る。
そして。
すっ。
森の方を指さした。
「……こっち。」
「……え?」
たぬぷぅは、もう一度同じ方向を指さす。
「なんか……こっち。」
全員が顔を見合わせた。
ニャオミーが小さく瞬きをする。
「何かあるの?」
「……わかんない。」
「分からないんかい。」
「でも……なんか、ある。」
たぬぷぅ自身も不思議そうだった。
首を傾げて、自分の胸へ手を当てる。
「ここが……そういってる。」
静かな声だった。
コハクが目を細める。
「……勘?」
「……たぶん。」
「……。」
「たぬぷぅが言うんだから、こっちに決まってるわよ。」
少しの間。
それから。
「……そう。絶対そうだわ。」
「誰も不安なんてないわよね。」
「わたしはすごく不安だよ!?」
ニャオミーが苦笑する。
だが。
ルゥだけは、じっと森を見つめていた。
風が吹く。
遠く。
深い緑の向こうで、木々がざわりと揺れた。
「……どうした?」
ユウトが尋ねる。
ルゥは、小さく息を吐いた。
「……いや。」
そして。
少しだけ真面目な顔になる。
「嫌な感じはせぬ。」
「じゃあ、いい感じ?」
「それも分からぬ。」
「どっちだよ。」
思わずツッコむ。
ルゥは、ふんと鼻を鳴らした。
「だが。」
「たぬぷぅが何かを感じておるのは、本当じゃろう。」
「……わたし?」
「うむ。」
ルゥは、小さなたぬきへ視線を向けた。
「お主、時々妙な勘をするからの。」
言われてみれば。
地下神殿を見つけた時もそうだった。
あの時も。
たぬぷぅだけが、何かを感じ取っていた。
偶然。
そう思っていた。
でも。
もし。
偶然じゃないのだとしたら――。
ユウトは、たぬぷぅを見下ろした。
「……行ってみるか。」
ぱっ。
たぬぷぅの耳が立つ。
「……いいの?」
「手掛かりゼロなんだ。」
「だったら、一番可能性がありそうな方へ行ってみよう。」
「……うん。」
たぬぷぅが、こくりと頷いた。
こうして一行は、街道を外れ、深い森へと足を向けることになった。
歩くたびに。
木々は少しずつ高くなり、
空は葉に隠れていく。
鳥の鳴き声。
土の匂い。
どこか懐かしいような、優しい風。
その時だった。
「……?」
たぬぷぅが足を止める。
「どうした?」
たぬぷぅは、不思議そうに胸を押さえた。
そして。
森の奥を見つめる。
「……なんか。」
小さな声が漏れる。
「……なつかしい。」
風が吹く。
ざわり。
木々が揺れた。
まるで。
森そのものが。
誰かの帰りを、ずっと待っていたかのように――。




