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第四十五章 神宝の欠片を取り戻せ 前編

森の奥。


 


不気味な唸り声が響いた。


 


グルルル……。


 


空気が震える。


 


次の瞬間。


 


――ドォン!!


 


巨大な何かが地面へ降り立った。


 


木々が大きく揺れる。


 


暗闇の向こうから、ゆっくりと姿を現した。


 


「……でか……」


 


ユウトが息を呑む。


 


狼だった。


 


いや。


 


狼のように見えるだけだ。


 


全身を覆う黒い毛。


 


その隙間から滲み出る、どろりとした黒い靄。


 


そして。


 


体中へ貼り付けられた、無数の呪符。


 


赤い瞳が、ぎらりと光った。


 


ルゥの顔が険しくなる。


 


「……またか」


 


「え?」


 


「また赤目男の呪術か……!」


 


ルゥが唇を噛む。


 


「酒蔵で見た、あの獣と同じじゃ!」


 


ユウトが目を見開く。


 


月露の雫を狙って現れた、あの異形。


 


ルゥが低く呟いた。


 


「……呪獣」


 


その瞬間。


 


呪獣が地を蹴った。


 


――ドン!!


 


速い。


 


巨体からは想像もできない速度だった。


 


「うわっ!?」


 


ユウトは慌てて剣を構える。


 


ガキィィン!!


 


凄まじい衝撃。


 


足が地面を滑った。


 


「っ……重……!」


 


横から蒼い炎が走る。


 


「燃えよ!」


 


ルゥの炎が呪獣を包み込む。


 


轟音。


 


熱風。


 


だが。


 


炎の中で。


 


赤い瞳だけが、じっとこちらを見ていた。


 


ぶわり。


 


黒い靄が渦を巻く。


 


焼け焦げた毛皮が、みるみる再生していく。


 


「なっ……!?」


 


ルゥの目が見開いた。


 


「再生した!?」


 


コハクが目を閉じる。


 


未来を見る。


 


少し先。


 


その先。


 


だが。


 


「……え……」


 


顔が強張った。


 


「コハク?」


 


「……ない」


 


「え?」


 


コハクが呪獣を見つめる。


 


「何も……見えない……」


 


静まり返る。


 


「……何も?」


 


ユウトが目を瞬かせる。


 


「未来がないのよ……」


 


唇が震える。


 


「見えないなんて……」


 


「こんなの……初めて……」


 


全員の背筋が冷たくなる。


 


呪獣が咆哮した。


 


ドォォォォン!!


 


衝撃波。


 


木々が軋む。


 


ニャオミーが飛び出した。


 


「みんな、下がって!」


 


槍を構える。


 


淡い光が広がった。


 


障壁。


 


直後。


 


――バキィ!!


 


「きゃっ……!」


 


障壁にひびが入った。


 


ニャオミーの顔が歪む。


 


強い。


 


今までの妖魔とは、明らかに格が違う。


 


その時だった。


 


黒い毛の隙間。


 


呪獣の胸の奥で。


 


何かが、淡く光った。


 


「……あれ」


 


ユウトが目を細める。


 


再び。


 


銀色の光。


 


まるで鼓動するように、明滅している。


 


「何かある!」


 


呪獣が吠えた。


 


胸元の毛が揺れる。


 


全員が見た。


 


胸の中心。


 


そこへ埋め込まれた、小さな結晶を。


 


ルゥの目が見開く。


 


「……まさか」


 


「神宝の欠片……!」


 


全員が息を呑んだ。


 


「体に……埋め込まれておる……!」


 


ルゥが呪獣を見つめる。


 


脈打つように明滅する銀色の結晶を。


 


「神宝には……膨大な力が宿っておる」


 


「体に埋め込み……呪術で無理やり繋いでおるのなら……」


 


小さく息を呑む。


 


「あれ自体が、心臓代わりになり……」


 


「力を増幅させておるのかもしれん……!」


 


「何だよ、それ……」


 


ユウトの顔が歪む。


 


「神宝って、神の宝なんだろ!?」


 


「そんな悪魔みたいな……」


 


ルゥが静かに口を開いた。


 


「……神だから、善いとは限らぬ」


 


「え……?」


 


「神は創造主じゃ」


 


「良いものにも、悪いものにもなれる」


 


「善悪を決めるのが神」


 


「それが……神なんじゃ」



 


ユウトが顔を引きつらせる。


 


「……むちゃくちゃだな、それ……」


 


次の瞬間。


 


呪獣が地を蹴った。


 


「ユウト!!」


 


赤い瞳。


 


巨大な牙。


 


避けられない。


 


全員が息を呑む。


 


その時。


 


ぱぁぁっ――。


 


銀色の光が弾けた。


 


「……っ!?」


 


呪獣の巨体が吹き飛ぶ。


 


ドォォン!!


 


地面へ叩きつけられた。


 


静まり返る。


 


ニャオミーが目を見開いた。


 


「また……ユウトの力……?」


 


だが。


 


ぱさっ。


 


一枚の紙が、ひらりと地面へ落ちた。


 


ユウトが目を瞬く。


 


「あれ……?」


 


ルゥがはっと息を呑んだ。


 


「……護符?」


 


拾い上げる。


 


その瞬間。


 


ふわり。


 


甘い香りが漂った。


 


ルゥの瞳が見開く。


 


「この香り……!」


 


護符を見つめる。


 


そして。


 


小さく呟いた。


 


「……月露の香りじゃ」


 


ルゥの手が、わずかに震える。


 


そして。


 


瞳を見開いた。


 


「あやつ……!」


 


その瞬間。


 


呪獣が、ゆっくりこちらを振り向いた――。

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