第四十一章 クールな九尾だって甘えたい
宴が始まった。
料理の湯気がふわりと立ち上る。
月光魚の香ばしい匂い。
炊き込み飯の優しい香り。
妖蜜の甘い匂い。
静かだった山の上が、
一気に賑やかになった。
「いただきます!」
ニャオミーが元気よく手を合わせる。
その瞬間。
たぬぷぅが妖蜜みたらし団子へ手を伸ばした。
ぱく。
「……!」
目が丸くなる。
「おいしい」
もちもちの団子。
とろりとかかった妖蜜。
蜂蜜のように甘いのに、
後から花の香りがふわっと広がる。
たぬぷぅは何も言わず、
二本目へ手を伸ばした。
「早い」
ユウトが突っ込む。
コハクが少し嬉しそうに笑った。
「よかった」
今度はニャオミー。
月見草の天ぷらを口へ運ぶ。
さく。
「……え?」
もう一口。
「えっ!?」
外はさくさく。
中はほくほく。
ほんのり甘い。
「お芋みたい!」
「花なのに!?」
「でしょ?」
コハクが少し得意げになる。
ユウトも炊き込み飯を食べる。
「うまっ」
七色きのこの旨味が口いっぱいに広がった。
出汁の香りも優しい。
気付けば。
二口。
三口。
止まらない。
「うまいなこれ……」
「それは自信作」
珍しく、
コハクが胸を張った。
すると。
「うまい!」
酒呑童子が叫ぶ。
月光魚を頬張りながら、
満足そうに笑っている。
「九尾!」
「もっと作れ!」
「今日はこれで終わり」
「ちぇー」
完全に子供だった。
しばらく。
みんなで料理を楽しむ。
たぬぷぅは黙々と団子を食べ。
ニャオミーは天ぷらに感動し。
ユウトは炊き込み飯をおかわりし。
ルゥは気付けば三回も月光魚を取っていた。
「そればっかりだな」
「うむ」
「酒が欲しくなる味じゃ」
「まだ飲んでないだろ」
「だから欲しくなるのじゃ」
理屈は分からなかった。
その時。
酒呑童子が月露の雫を持ち上げる。
「さて」
嫌な予感。
「飲むか」
ぐび。
ぐび。
ぐび。
一気だった。
全員。
「……」
喉が上下する。
それだけで、
めちゃくちゃ美味そうに見えた。
「ぷはぁ!!」
酒呑童子が満足そうに笑う。
そして。
にやり。
ルゥを見る。
次に。
コハクを見る。
嫌な顔だった。
「なんや」
「二人とも全然飲まへんやん」
ルゥが眉をひそめる。
「飲んでおる」
「ちょびっとやん」
「飲んでおる」
酒呑童子がさらに笑う。
「子供やなぁ」
ぴき。
ルゥのこめかみに青筋。
今度は。
コハクを見る。
「九尾も」
「一杯しか飲んでへん」
「子供やなぁ」
ぴき。
コハクにも青筋が浮いた。
ニャオミーが嫌そうな顔をする。
「ちょっと……」
「これヤバい流れじゃない……?」
ユウトも頷く。
「ヤバいな」
案の定だった。
ルゥが立ち上がる。
「誰が子供じゃ」
コハクも立ち上がった。
「調子乗ってると痛い目見るわよ」
酒呑童子。
にやにや。
「ほぉ?」
さらに。
「ほぉほぉ?」
めちゃくちゃ煽る。
ニャオミーが慌てる。
「やめとこ!?」
「絶対後悔するよ!?」
誰も聞いていなかった。
そして。
月夜の下。
三つの杯が軽い音を立てる。
かちん。
乾杯だった。
それが。
地獄の始まりになるとも知らずに――。
――一時間後。
「うぅ……」
ルゥが庭でうずくまっていた。
顔が真っ赤だった。
「むりじゃ……」
「きもちわるい……」
そして。
おえぇ。
「だから言ったじゃん!!」
ニャオミーが叫ぶ。
ユウトは遠い目をした。
「地獄絵図だな……」
その時だった。
ふと。
コハクが視界に入る。
静かだった。
さっきまで普通だったのに、
今は何も喋らない。
ただ。
じー……っと、
たぬぷぅを見ている。
「……おい」
ユウトが声をかける。
「コハク?」
返事がない。
「大丈夫か……?」
コハクが。
ゆっくり顔を上げた。
目が。
きらきらしていた。
嫌な予感しかしなかった。




