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第四十章 鬼の宴

夕方。


 


再び山頂の屋敷へ戻ってきた。


 


日が傾き始め、


空は少しずつ茜色へ染まっている。


 


山の上は静かだった。


 


風が吹き抜け、


木々がさらさらと揺れている。


 


そして。


 


縁側。


 


そこには酒呑童子が寝転がっていた。


 


白銀の長い髪をさらりと広げ、


片腕を枕代わりにしている。


 


隣には大きな瓢箪。


 


すでに空だった。


 


「……寝ておる」


 


ルゥが呆れた顔をする。


 


「また飲んでたのか?」


 


「間違いなく飲んでおる」


 


その時。


 


「おー」


 


酒呑童子が片目を開けた。


 


眠そうな声だった。


 


「帰ってきたか」


 


全然驚いていない。


 


まるで最初から戻ってくると分かっていたような口ぶりだった。


 


ユウトは背負っていた木箱を降ろす。


 


「持ってきたぞ」


 


酒呑童子がゆっくりと起き上がる。


 


そして。


 


箱を受け取った。


 


蓋を開ける。


 


中には月露の雫。


 


淡い銀色の酒が、


夕日の光を受けて静かに輝いていた。


 


「……ほぉ」


 


酒呑童子の目が少しだけ見開く。


 


しばらく酒を見つめる。


 


それから。


 


ふっと笑った。


 


「本当に持ってきよった」


 


どこか嬉しそうだった。


 


ユウトは腕を組む。


 


「約束だ」


 


「鬼神面の話」


 


すると。


 


酒呑童子が顔を上げた。


 


数秒。


 


じっとユウトを見る。


 


そして。


 


「その前に」


 


嫌な予感がした。


 


酒呑童子は立ち上がる。


 


月露の雫を抱えたまま、


大きく両手を広げた。


 


「宴や!!」


 


山に響き渡る声だった。


 


全員。


 


「……」


 


「宴や!!」


 


二回言った。


 


ルゥが頭を抱える。


 


「やっぱりこうなるのか……」


 


酒呑童子は気にしない。


 


そのまま屋敷の中へ入っていく。


 


「ほれ」


 


「飯作れるやつはおらんの?」


 


みんな。


 


スッ。


 


コハクを見る。


 


「何で私……」


 


コハクが眉をひそめる。


 


酒呑童子が首を傾げた。


 


「料理できるんやろ?」


 


「できるけど……」


 


「ほな頼む」


 


軽かった。


 


すると。


 


酒呑童子が奥の扉を開く。


 


「食材ならなんぼでもあるで」


 


全員。


 


「おぉ……」


 


思わず声が漏れた。


 


広い台所だった。


 


そして。


 


そこに並んでいたのは、


見たこともない食材ばかりだった。


 


月光魚。


 


黄金芋。


 


七色きのこ。


 


火鳥の卵。


 


月見草の実。


 


そして。


 


大きな壺いっぱいの妖蜜。


 


コハクの目が見開く。


 


「え……」


 


さらに。


 


「えぇ……!?」


 


目がきらきらと輝き始めた。


 


完全に料理人の顔だった。


 


「こんな新鮮なの初めて見た……!」


 


「この月光魚まだ生きてる……!」


 


「七色きのこも天然物……!?」


 


感動している。


 


ニャオミーが引いていた。


 


「なんか急にテンション上がった……」


 


ユウトも苦笑する。


 


「料理好きなんだな」


 


「当たり前でしょ」


 


コハクが真剣な顔で言った。


 


「良い食材に出会えたら、料理人は本気になるの」


 


料理人だった。


 


「よし」


 


コハクが腕まくりする。


 


「作るわよ」


 


気合十分だった。


 


そこからは早かった。


 


ユウトは野菜を切る。


 


ニャオミーは皿を並べる。


 


ルゥは味見を申し出て、


邪魔だからと追い出された。


 


たぬぷぅは。


 


「つまみぐい」


 


「するな」


 


「むぅ」


 


怒られた。


 


酒呑童子だけが、


楽しそうに縁側から眺めていた。


 


しばらくして。


 


完成。


 


机いっぱいに料理が並ぶ。


 


妖蜜みたらし団子。


 


月光魚の塩焼き。


 


黄金芋の鬼煮込み。


 


火鳥卵の出汁巻き。


 


七色きのこの炊き込み飯。


 


月見草の天ぷら。


 


湯気が立ち上る。


 


良い匂いが広がった。


 


全員。


 


「おぉーーー!!」


 


思わず歓声が上がる。


 


酒呑童子も目を丸くした。


 


「すごいやん」


 


「九尾」


 


コハクが少し照れる。


 


「まぁ……普通よ」


 


全然普通ではなかった。


 


たぬぷぅは。


 


すでに妖蜜みたらし団子を持っていた。


 


「いただきます」


 


「早い」


 


ユウトが突っ込む。


 


酒呑童子が大笑いする。


 


そして。


 


月露の雫を持ち上げた。


 


立ち上がる。


 


白銀の髪が揺れる。


 


鬼の角が夕日に照らされ、


紺色の先端がきらりと光った。


 


酒呑童子は満面の笑みを浮かべる。


 


そして。


 


杯を高く掲げた。


 


「宴じゃあああーーー!!!」


 


山の夜に、


鬼の王の声が高らかに響き渡った。

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