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第三十八章 鬼の王


 


翌朝。


 


ユウト達は山へ向かっていた。


 


酒呑童子が住んでいるという場所だ。


 


かなり山奥らしい。


 


道中。


 


ルゥはずっと不機嫌だった。


 


腕を組み、


ぶつぶつ文句を言っている。


 


「嫌じゃ」


 


「会いたくない」


 


「帰りたい」


 


完全に駄々だった。


 


ニャオミーが呆れる。


 


「そこまで?」


 


「そこまでじゃ」


 


即答だった。


 


ユウトは苦笑する。


 


逆に気になってきた。


 


どんな相手なのだろう。


 


昼過ぎ。


 


一行は山頂近くへ辿り着いた。


 


そこには一軒の屋敷があった。


 


古い。


 


だが不思議と荒れていない。


 


長い年月を経ているはずなのに、


今も誰かが住んでいる気配があった。


 


その時。


 


「おぉ」


 


男の声が響く。


 


全員が振り返る。


 


屋根の上だった。


 


いつの間にいたのか。


 


一人の男が寝転がっている。


 


白銀の長い髪。


 


陽の光を受けてさらりと揺れる。


 


紺色の着物。


 


白灰色の帯。


 


腰には大きな瓢箪ひょうたんがぶら下がっていた。


 


額からは二本の角。


 


根元は肌と同じ色。


 


だが先端へ向かうにつれ、


深い紺色へ変わっている。


 


そして。


 


左の頬。


 


そこには鬼を思わせる紋様が刻まれていた。


 


整いすぎた顔立ちなのに、


その紋様だけが妙な威圧感を放っている。


 


男は瓢箪を傾ける。


 


酒を一口飲み。


 


そして。


 


ルゥを見た。


 


数秒。


 


沈黙。


 


次の瞬間。


 


大笑いした。


 


「ぶはっ!」


 


「なんやお前!」


 


「まだその姿なんか!」


 


ルゥの額に青筋が浮く。


 


「久しぶりじゃの」


 


「酒呑童子」


 


男は笑いながら立ち上がる。


 


そして。


 


ふわりと地面へ降りた。


 


着地音すらない。


 


ユウトは少しだけ息を呑む。


 


強い。


 


理由は分からない。


 


だが。


 


この男は強い。


 


本能がそう告げていた。


 


酒呑童子はニヤニヤしながらルゥを見る。


 


「数百年ぶりやなぁ」


 


「ちっこいの」


 


「誰がちっこいのじゃ!!」


 


即座に怒鳴る。


 


酒呑童子は楽しそうだった。


 


「変わっとらんなぁ」


 


「貴様もな」


 


「褒め言葉やな」


 


「褒めておらん」


 


昔からこうなのだろう。


 


そんな空気だった。


 


やがて。


 


酒呑童子の視線が一行へ向く。


 


コハク。


 


ニャオミー。


 


たぬぷぅ。


 


そして。


 


ユウトで止まった。


 


数秒。


 


沈黙。


 


その瞬間だけだった。


 


男の目から笑みが消える。


 


まるで何かを見定めるような視線。


 


ユウトは妙な圧迫感を感じた。


 


だが。


 


それも一瞬だった。


 


「人間か」


 


酒呑童子が言う。


 


「なんやお前」


 


ユウトが首を傾げる。


 


「え?」


 


「半妖でもなさそうや」


 


「なんでここにおる」


 


今度は本気だった。


 


ルゥが前へ出る。


 


鬼神面きじんめんについて聞きたい」


 


酒呑童子は少しだけ目を細める。


 


「鬼神面?」


 


先ほどまでの空気が変わった。


 


ほんの少しだけ。


 


だが確実に。


 


「そんなもん聞いてどうするんや」


 


ルゥは答える。


 


「知る必要がある」


 


「必要?」


 


酒呑童子は鼻で笑う。


 


「数人もずるずる引き連れて」


 


「見ない間に落ちぶれたんか?」


 


ルゥの額に青筋が浮いた。


 


「真面目な話じゃ!」


 


「ほぉ」


 


興味なさそうな返事だった。


 


そして再び。


 


酒呑童子はユウトを見る。


 


「お前が話せ」


 


ユウトは少し驚く。


 


だが。


 


隠す理由もない。


 


妖の国へ来たこと。


 


ルゥとの出会い。


 


コハク。


 


ニャオミー。


 


白い少女。


 


神宝。


 


赤目男。


 


今までのことを全て話した。


 


酒呑童子は黙って聞いていた。


 


途中で一度も口を挟まない。


 


やがて。


 


話が終わる。


 


静寂。


 


風だけが吹く。


 


そして。


 


酒呑童子は笑った。


 


「なんや」


 


「お人好しやな」


 


ユウトが首を傾げる。


 


「そうか?」


 


「そうや」


 


即答だった。


 


「普通の人間はそんなもん首突っ込まへん」


 


「放っといて帰る」


 


それはそうかもしれない。


 


元の世界の自分なら、


そうしていた気もする。


 


酒呑童子は肩をすくめた。


 


「よっぽど暇なんやなぁ」


 


図星だった。


 


ユウトは苦笑する。


 


「かもな」


 


元の世界で、


熱中できるものなんてなかった。


 


だから気付けば、


ここまで来ていた。


 


酒呑童子は少しだけ目を細めた。


 


そして。


 


ようやく言う。


 


「まぁ」


 


「事情は分かった」


 


ユウト達が顔を上げる。


 


「鬼神面のことも教えたる」


 


ニャオミーがぱっと明るくなる。


 


だが。


 


次の瞬間。


 


酒呑童子はニヤリと笑った。


 


左頬の鬼紋がわずかに歪む。


 


「ただし条件や」


 


嫌な予感しかしなかった。


 


「今わしが一番飲みたい酒がある」


 


「三日以内に持ってこい」


 


「話はそれからや」


 


ユウト達は顔を見合わせる。


 


やっぱり面倒くさい。


 


全員がそう思った。


 


ただ一人。


 


酒呑童子だけが、


心底楽しそうに笑っていた。

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