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第三十七章 過去を視る九尾


夕食の後。


 


一行は居間へ移動していた。


 


お婆ちゃんがお茶を淹れる。


 


湯気がゆっくり立ち上る。


 


先ほど出た言葉。


 


神宝。


 


その話の続きを聞くためだった。


 


ユウトは改めて尋ねる。


 


「神宝って知ってるんですか?」


 


お婆ちゃんは少し考える。


 


そして肩をすくめた。


 


「知ってると言えば知ってる」


 


「知らないと言えば知らないねぇ」


 


「どっちですか」


 


「どっちだろうねぇ」


 


全然分からなかった。


 


ユウトが頭を抱える。


 


「この家、会話がふわふわしてる」


 


コハクが眉をひそめる。


 


「私はこんなんじゃないわよ」


 


ルゥが即答する。


 


「似ておる」


 


「似てない」


 


即座に返ってきた。


 


お婆ちゃんは楽しそうに笑う。


 


「失礼な子達だねぇ」


 


全然怒っていなかった。


 


やはり血筋らしい。


 


お婆ちゃんは湯呑みを置く。


 


そして少し真面目な顔になった。


 


「神宝ってのはね」


 


「私も昔話で聞いた程度さ」


 


ルゥが頷く。


 


「我と同じじゃな」


 


「そうさね」


 


「神がどうとか」


 


「神宝がどうとか」


 


「子供の頃に聞かされるおとぎ話だったよ」


 


ユウトは眉をひそめた。


 


「じゃあ分からない?」


 


「分からないねぇ」


 


あっさりだった。


 


だが。


 


お婆ちゃんは続ける。


 


「ただ」


 


「もし神宝の欠片があるなら」


 


「話は別だよ」


 


全員が顔を上げた。


 


「欠片?」


 


「うん」


 


お婆ちゃんは頷く。


 


「私の力はね」


 


「過去を見る力なんだよ」


 


ユウトも知ってはいた。


 


だが。


 


実際どこまで見えるのかは知らない。


 


お婆ちゃんは机の上の湯呑みに触れる。


 


「例えばこれ」


 


「誰が作ったか」


 


「どこで作られたか」


 


「どんな人が使っていたか」


 


「そういうのが見える」


 


ユウトが目を丸くする。


 


「すごくない?」


 


「すごいわよ」


 


コハクが頷く。


 


「昔、お婆様の隠してたお菓子を食べたら」


 


「一発でバレたし」


 


「それはお前が悪い」


 


全員一致だった。


 


お婆ちゃんは笑う。


 


そして。


 


少しだけ真面目になる。


 


「神宝の欠片が手元にあれば」


 


「そこに刻まれた過去を見られるかもしれない」


 


部屋が静かになる。


 


ユウトは思い出していた。


 


地下遺跡。


 


光る結晶。


 


神宝かもしれない欠片。


 


そして。


 


赤目男。


 


「あいつに持っていかれたんだよな……」


 


ユウトが悔しそうに呟く。


 


お婆ちゃんも頷いた。


 


「そうみたいだねぇ」


 


「じゃあ終わりじゃん」


 


ニャオミーが言う。


 


「欠片がないんだから」


 


確かにそうだった。


 


だが。


 


お婆ちゃんは首を振る。


 


「そうでもないよ」


 


全員が顔を上げる。


 


お婆ちゃんは静かに言った。


 


「鬼神面」


 


その言葉にルゥの表情が変わった。


 


「……鬼神面じゃと?」


 


「そうさ」


 


「神宝は知らない」


 


「でも鬼神面なら知ってるやつがいる」


 


ルゥが露骨に嫌そうな顔をした。


 


ものすごく嫌そうな顔だった。


 


ユウトは初めて見るレベルだった。


 


「誰?」


 


お婆ちゃんは笑う。


 


そして。


 


答えた。


 


酒呑童子しゅてんどうじ


 


数秒。


 


沈黙。


 


次の瞬間。


 


ルゥが立ち上がった。


 


「帰るぞ」


 


「早い早い早い!」


 


ユウトが慌てて止める。


 


「まだ何も聞いてない!」


 


「聞く必要はない!」


 


「なんで!?」


 


ルゥは本気だった。


 


コハクが首を傾げる。


 


「知り合いなの?」


 


「知り合いではない」


 


「顔見知りじゃ」


 


「知り合いじゃん」


 


ルゥは顔をしかめた。


 


まるで苦いものを飲み込んだような顔だった。


 


お婆ちゃんは楽しそうに笑う。


 


「相変わらず仲良しだねぇ」


 


「違う!」


 


即答だった。


 


だが。


 


その反応だけで、


酒呑童子という存在がただ者ではないことは十分伝わってきた。


 


お婆ちゃんは湯呑みを持ち上げる。


 


そして静かに言った。


 


「場所なら教えてあげるよ」


 


「ただし」


 


少しだけ笑う。


 


「くれぐれも気を付けるんだよ」


 


「かなり面倒くさい性格だからねぇ」


 


ルゥが頭を抱えた。


 


その姿を見て、


ユウトは逆に少し興味が湧いていた。


 


一体どんな奴なんだろう。


 


そう思いながら。

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