第三十五章 神様
目を覚ましたユウトは、
しばらく天井を見上げていた。
夢だった。
だが。
ただの夢とは思えなかった。
白い世界。
真っ白な少女。
そして。
最後に聞こえた言葉。
「神様」
ユウトはゆっくりと身体を起こす。
朝日が差し込んでいた。
昨夜野営した川辺。
静かな朝だった。
「神様、か……」
思わず呟く。
神宝。
白い少女。
赤目男。
全部が繋がっている気がする。
だが。
肝心なところが分からない。
「難しい顔をしておるな」
後ろから声がした。
ルゥだった。
いつの間にか起きている。
「おはよう」
「うむ」
ルゥは隣へ腰を下ろした。
「また夢か?」
ユウトは頷く。
そして昨夜の夢を話した。
少女が現れたこと。
初めてちゃんと喋ったこと。
最後に
「神様」
と言ったこと。
話を聞き終えると、
ルゥは腕を組んだ。
珍しく難しい顔をしている。
「どう思う?」
ユウトが聞く。
ルゥはしばらく考えた。
そして。
「分からぬ」
「分からんのかい」
「分からぬものは分からぬ」
即答だった。
ユウトは少し安心する。
ルゥでも分からないなら、
自分が分からないのも仕方ない。
その時だった。
「おはよー……」
ニャオミーが起きてきた。
続いてコハク。
たぬぷぅ。
たぬぷぅは既に妖蜜みたらし団子を食べている。
「朝から食うな」
「おいしい」
「知ってる」
今日も平和だった。
朝食を食べながら、
ユウトは夢の話をする。
神宝。
神様。
白い少女。
赤目男。
みんな真面目に聞いていた。
やがて。
コハクがぽつりと言う。
「ねえ」
全員が視線を向ける。
コハクは少し考えるように言った。
「お婆様なら何か知ってるかも」
「お婆ちゃん?」
ユウトが首を傾げる。
「うん」
「私のお婆様」
「未来視だけじゃなくて、過去を見る力も持ってるの」
「過去を見る?」
「人とか物に触れてね」
「昔何があったか見えるの」
ニャオミーが目を丸くする。
「すごくない?」
「すごいわよ」
コハクは苦笑する。
「だから昔から隠し事できなかったし」
「怖っ」
「失礼ね」
少しだけ笑いが起きる。
だが。
ルゥは真面目な顔になった。
「過去視か」
「確かに狐は占いや予知に長けておる」
「我より詳しい話を知っておるかもしれぬな」
コハクは頷いた。
「神宝の話は聞いたことないけど」
「聞いてみる価値はあると思う」
ルゥは当然のように立ち上がった。
「では九尾の里へ戻るか」
「待て」
ユウトが手を上げる。
「九尾の里ってどこだ?」
ルゥとコハクが固まった。
数秒。
沈黙。
そして。
「最初の町じゃが?」
「えっ!?」
ユウトが目を丸くする。
「あれ九尾の里だったの!?」
「今さら!?」
今度はニャオミーが驚いた。
「いやだって!」
「普通の町だったじゃん!」
「天狗もいたし!」
「狸もいたし!」
「全然九尾感なかったぞ!」
コハクが苦笑する。
「まあ、それはそうね」
「昔はもっと九尾が多かったらしいけど」
「今は私とお婆様くらいしか残ってないし」
ユウトは驚いた。
「そんなに少ないのか」
「うん」
コハクは少し寂しそうに笑う。
「だから今は普通の妖怪達もたくさん住んでる」
「猫又王国みたいに種族ごとの国じゃないの」
ルゥも頷いた。
「とはいえ」
「九尾の里であることは変わらぬ」
「今でもあの街の守護は九尾じゃ」
コハクが肩をすくめる。
「だからたまにあるのよね」
「街の人が急に土下座してくるの」
「九尾様だー!って」
「大変そうだな」
「大変なのよ」
ユウトは少し想像する。
確かに。
街の人達はコハクを見ると妙に敬意を払っていた気がする。
あれはそういう理由だったのか。
沈黙が落ちる。
ユウトは空を見上げた。
分からないことだらけだ。
神宝。
白い少女。
神様。
赤目男。
全部が繋がっている気がする。
なら。
まずは動くしかない。
ユウトは立ち上がった。
「よし」
「九尾の里に行こう」
コハクが少し驚く。
そして。
嬉しそうに笑った。
「うん」
「案内するわ」
ルゥも立ち上がる。
ニャオミーも槍を担ぐ。
たぬぷぅは団子を持った。
「いく」
「お前は食いながら移動するな」
「むり」
即答だった。
こうして一行は再び歩き出す。
向かう先は九尾の里。
そこに、
神宝の謎へ繋がる新たな手掛かりが待っていることを、
まだ誰も知らなかった。




