第三十四章 神宝の伝承
地下遺跡を出た頃には、
すっかり日が暮れていた。
近くの川辺で野営をすることになり、
焚き火の火が静かに揺れている。
誰もすぐには喋らなかった。
疲れていた。
邪鬼との戦い。
赤目男との遭遇。
そして。
神宝。
情報が多すぎた。
ぱちり。
薪が弾ける。
その音を聞きながら、
ユウトは焚き火を見つめていた。
頭の中が整理できない。
しばらくして。
ようやく口を開く。
「なあ」
ルゥが視線を向ける。
「神宝って何なんだ?」
焚き火の向こうで、
ルゥが静かに目を細めた。
「……やはり聞くか」
「そりゃ聞くだろ」
ユウトは即答した。
「知らないの俺だけみたいになってたし」
「我も詳しくは知らぬ」
「え」
予想外だった。
ルゥなら何でも知っている気がしていた。
ルゥは少し困ったように笑う。
「じゃが」
「伝承なら聞いたことがある」
焚き火が揺れる。
全員が耳を傾けた。
ルゥは少し昔を思い出すように空を見る。
「龍神や九尾よりも遥か昔の話じゃ」
「遥か昔?」
ユウトが首を傾げる。
ルゥは頷いた。
「龍神も」
「九尾も」
「天狗も鬼も」
「まだ生まれておらぬ頃」
焚き火が静かに揺れる。
「妖の国を作った神がおった」
ニャオミーが目を丸くした。
「国を作った神?」
「うむ」
ルゥは頷く。
「山を作り」
「川を作り」
「森を作り」
「最初の妖たちを生み出した」
「全ての始まりの神じゃ」
まるで絵本だった。
子供に聞かせる昔話のような。
「神は長い間この国を見守った」
「妖たちも神を敬い」
「共に暮らしておったという」
「そして神は」
「自らの力をいくつかの宝へ分け与えた」
「それが神宝じゃ」
ユウトが息を呑む。
ルゥは続けた。
「豊かな森を守る宝」
「清らかな水を守る宝」
「命を巡らせる宝」
「様々あったそうじゃ」
「じゃが」
ここでルゥの声が少し低くなる。
「ある日」
「神は姿を消した」
焚き火が揺れる。
誰も喋らない。
「理由は分からぬ」
「戦ったとも」
「眠ったとも」
「死んだとも言われておる」
「じゃが真実を知る者はおらぬ」
「そして神がおらぬまま長い年月が流れた」
「神宝も失われた」
「それで話は終わりじゃ」
ルゥは肩をすくめた。
「だから我は作り話だと思っておった」
「子供へ聞かせるおとぎ話じゃとな」
しばらく沈黙が落ちる。
その横で。
たぬぷぅだけが妖蜜みたらし団子をもぐもぐ食べていた。
「たぬぷぅ」
「ん?」
「今いい話してるんだけど」
「おいしい」
「知ってる」
全く聞いていなかった。
ニャオミーが苦笑する。
「ぶれないねぇ……」
そして。
少し真面目な顔になる。
「じゃあ今日のあの結晶が……」
「神宝?」
ルゥは首を振った。
「分からぬ」
「じゃが」
その視線が遺跡の方角へ向く。
「もし本当に神宝なら」
「作り話ではなかったことになる」
焚き火がぱちりと音を立てた。
ユウトは火を見つめる。
神宝。
神の力を宿した宝。
だが。
それだけでは説明がつかない。
「じゃあ何で赤目男は集めてるんだ?」
「それも分からぬ」
「白い少女は?」
「知らぬ」
「何なら分かるんだよ」
「たぬぷぅが団子を食べ過ぎじゃ」
「それは分かる」
たぬぷぅが三本目の妖蜜みたらし団子を咥えたまま首を傾げた。
「?」
誰も答えない。
少しだけ空気が和らぐ。
だが。
結局。
肝心なことは何一つ分からなかった。
神宝。
赤目男。
白い少女。
全部が繋がっている。
そんな気はする。
けれど。
肝心な真ん中だけが見えない。
その夜。
皆が眠った後も。
ユウトだけはしばらく空を見上げていた。
星が綺麗だった。
静かな夜だった。
そして。
いつの間にか眠りへ落ちる。
気付くと。
また白い世界だった。
どこまでも続く光。
音もない。
風もない。
ただ白だけが広がっている。
その中心に。
少女が立っていた。
真っ白な髪。
真っ白な衣。
以前より少し近い。
少女はユウトを見る。
そして。
静かに口を開いた。
「一つ」
ユウトが目を見開く。
少女が喋った。
「まだ足りない」
またその言葉。
ユウトは思わず叫ぶ。
「だから何がだよ!」
少女は少しだけ首を傾げた。
まるで不思議そうに。
そして。
当たり前のことを言うように告げた。
「神様」
世界が白く染まる。
ユウトはそこで目を覚ました。




