第三十三章 奪われた光
眩い光が地下遺跡を包み込む。
ユウトは思わず目を閉じた。
風が吹き荒れる。
地面が揺れる。
崩落はさらに激しくなっていた。
やがて。
光が収まる。
そこにあったのは。
蒼い結晶だった。
拳ほどの大きさ。
透き通るような輝き。
まるで星の欠片のようだった。
ゆっくりと脈打っている。
生きているように。
「なにこれ……」
ニャオミーが呟く。
誰も近づけない。
神聖な気配。
同時に。
どこか懐かしい気配。
そして。
邪鬼の身体が崩れ始めた。
黒い霧となって消えていく。
まるで結晶だけが本体だったかのように。
その瞬間。
頭の中に声が響いた。
『触れて』
白い少女だった。
ユウトは目を見開く。
『その子を助けて』
「助ける?」
思わず呟く。
赤目男の視線が向く。
だが。
ユウトは構わず結晶へ近づいた。
不思議と怖くなかった。
むしろ。
触れなければいけない気がした。
手を伸ばす。
そして。
結晶へ触れた。
瞬間。
蒼い光が溢れた。
地下遺跡を埋め尽くすほどの光。
暖かい。
優しい。
まるで春の日差しだった。
結晶から黒い靄が浮かび上がる。
穢れだった。
長い年月をかけて積もった穢れ。
ユウトの手が輝く。
癒しの力。
黒い靄が消えていく。
ゆっくり。
少しずつ。
浄化されていく。
ルゥが目を見開いた。
「まさか……」
コハクも息を呑む。
「浄化してる……」
ニャオミーは意味が分からない顔だった。
「何その技?!」
「知らん」
ユウトも知らなかった。
だが。
身体が勝手に動いていた。
まるで最初から知っていたように。
やがて。
最後の穢れが消える。
結晶の輝きが変わった。
蒼から金へ。
柔らかな光を放つ。
その瞬間。
赤目男が初めて驚いた顔をした。
ほんの一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
「……なるほど」
低い声が漏れる。
そして。
静かに歩き出した。
ユウトへ向かって。
嫌な予感が走る。
ルゥが叫んだ。
「ユウト!」
赤目男の手が伸びる。
速い。
反応できない。
気付いた時には。
結晶は赤目男の手の中にあった。
「返せ!」
ユウトが飛び出す。
だが。
赤目男は振り返らない。
ただ静かに結晶を見つめている。
鬼神面の奥。
赤い瞳だけが揺れた。
「まだ足りぬ」
小さな声だった。
ユウトは叫ぶ。
「何なんだよお前!」
「それが何か知ってるのか!」
赤目男は答えない。
しばらく沈黙した後。
静かに言った。
「知らぬ方が幸せだ」
その言葉だけだった。
足元の術式が輝く。
無数の札が浮かぶ。
「待て!」
ユウトが手を伸ばす。
しかし。
届かない。
赤目男は最後に一度だけ振り返った。
鬼神面。
赤い瞳。
そして。
どこか疲れたような表情。
「次も現れる」
「神宝はまだ残っている」
神宝。
またその名前だ。
だが。
何を指しているのかは分からない。
神宝。
白い少女。
赤目男。
全部が繋がっている気がするのに。
肝心なところだけが見えない。
問い返そうとした瞬間。
札が光を放つ。
風が吹く。
視界が白く染まる。
そして。
赤目男の姿は消えていた。
沈黙。
地下遺跡には静寂だけが残る。
誰もしばらく言葉を発しなかった。
ユウトは立ち尽くしていた。
胸の奥がざわつく。
落ち着かない。
気持ちが悪い。
あの結晶は何だった。
神宝とは何だ。
赤目男は何を知っている。
白い少女は何を集めろと言っている。
分からない。
何も分からない。
なのに。
みんな自分より先へ進んでいる気がした。
赤目男も。
白い少女も。
何かを知っている。
知らないのは自分だけだ。
拳を握る。
悔しいというより。
置いていかれるような焦りだった。
その時だった。
頭の中で。
再びあの声が響く。
『一つ』
白い少女。
『まだ足りない』
ユウトは顔を上げた。
「だから何がだよ」
思わず声が漏れる。
返事はない。
少女はいつも肝心なことを言わない。
だが。
確かなことが一つだけあった。
自分はまだ何も知らない。
そして。
知らなければならない。
白い少女のことも。
神宝のことも。
赤目男のことも。
黒く崩れた祭壇の奥で、
冷たい風が静かに吹いていた。




