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第三十二章 鬼神招来

鬼神面きじんめんが顔を覆う。


 


その瞬間だった。


 


空気が変わる。


 


地下遺跡の温度が一気に下がる。


 


肌が粟立つ。


 


邪鬼ですら動きを止めた。


 


まるで何かを警戒するように。


 


赤目男は静かに鬼神面へ指を添える。


 


低い声が響いた。


 


鬼神招来きじんしょうらい――」


 


足元に赤い光が走る。


 


次の瞬間。


 


巨大な術式が展開された。


 


幾重にも重なる円。


 


複雑に絡み合う呪紋。


 


まるで神楽の舞台のような神聖さと、


呪いの儀式のような不気味さが同居していた。


 


さらに。


 


無数の札が空中へ現れる。


 


十枚。


 


二十枚。


 


三十枚。


 


数えきれない。


 


札は赤目男の周囲をゆっくりと回り始めた。


 


まるで星を従える惑星のように。


 


開式かいしき


 


札が一斉に輝く。


 


ユウトは息を呑んだ。


 


「なんだよ……あれ」


 


ルゥの表情も険しい。


 


「赤目一族の秘術じゃ」


 


邪鬼が咆哮する。


 


巨大な腕が振り下ろされた。


 


轟音。


 


だが。


 


赤目男は動かない。


 


赤い瞳だけが静かに邪鬼を見ていた。


 


縛式ばくしき


 


命令と同時に。


 


札が一斉に飛ぶ。


 


空中で形を変えた。


 


黒い鎖。


 


何十本もの鎖が邪鬼へ絡みつく。


 


巨体が止まる。


 


邪鬼が暴れる。


 


だが。


 


鎖は千切れない。


 


むしろ締め上げるように食い込んでいく。


 


黒い霧が吹き出した。


 


「すごい……」


 


ニャオミーが呟く。


 


だが。


 


次の瞬間。


 


邪鬼が咆哮した。


 


鎖が弾け飛ぶ。


 


柱が砕ける。


 


地面が割れる。


 


そのまま突進。


 


一直線に赤目男へ襲いかかった。


 


しかし。


 


赤目男は冷静だった。


 


穿式せんしき


 


数枚の札が槍へ変わる。


 


赤い光を纏った槍が空を裂いた。


 


轟ッ――!!


 


邪鬼の肩を貫く。


 


黒い霧が噴き出す。


 


それでも止まらない。


 


邪鬼はさらに迫る。


 


赤目男は小さく息を吐いた。


 


そして。


 


指先を向ける。


 


斬式ざんしき


 


札が刃へ変わる。


 


無数の斬撃が空間を走った。


 


一瞬だった。


 


邪鬼の身体へ無数の傷が刻まれる。


 


だが。


 


再生する。


 


すぐに塞がる。


 


ルゥが眉をひそめた。


 


「不味いな」


 


赤目男も理解していた。


 


普通の攻撃では倒せない。


 


邪鬼の身体の奥。


 


穢れの中心。


 


そこに何かがある。


 


その時だった。


 


邪鬼の胸が光る。


 


黒い霧の中で。


 


蒼い結晶が脈打っていた。


 


赤目男の瞳が細まる。


 


「見つけたか」


 


初めて感情が混じる。


 


同時に。


 


ユウトの胸も熱くなる。


 


頭の奥で声が響いた。


 


『一つ』


 


ユウトが目を見開く。


 


白い少女だった。


 


『見つけた』


 


「お前……!」


 


その瞬間。


 


邪鬼が絶叫する。


 


遺跡全体が揺れた。


 


天井が崩れ始める。


 


落石。


 


土煙。


 


崩壊。


 


そして。


 


混乱の中で。


 


赤目男だけが祭壇の最奥へ向かっていた。


 


まるで最初から、


そこだけを目指していたかのように。


 


ユウトは反射的に走る。


 


嫌な予感がしていた。


 


祭壇の奥。


 


蒼い光。


 


脈打つ結晶。


 


赤目男が手を伸ばす。


 


ユウトも叫ぶ。


 


「待て!!」


 

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