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第三十一章 穢れの番人

咆哮が響いた。


 


地下遺跡全体が震える。


 


天井から砂が降る。


 


耳が痛くなるほどの音だった。


 


「な、なにあれ!?」


 


ニャオミーが叫ぶ。


 


祭壇の奥。


 


闇の中から巨大な影が姿を現す。


 


最初に見えたのは腕だった。


 


黒い。


 


異様なほど黒い。


 


まるで墨を塗り固めたような巨大な腕。


 


続いて肩。


 


胴体。


 


そして頭。


 


人型だった。


 


だが人ではない。


 


三メートルはある。


 


いや。


 


もっと大きい。


 


顔には目が一つしかなかった。


 


額の中央。


 


赤黒い瞳がぎょろりと動く。


 


その全身から黒い霧が溢れていた。


 


コハクが顔をしかめる。


 


「穢れ……!」


 


ぞわりと尻尾が逆立つ。


 


ルゥも眉をひそめた。



 


赤目男は静かに口を開く。


 


「長い年月をかけて生まれた邪鬼だ」


 


邪鬼。


 

その言葉だけで十分だった。


 


目の前の化け物が危険な存在だということは、


誰の目にも明らかだった。





邪鬼がゆっくりと顔を上げる。


 


そして。


 


ユウトたちを見た。


 


次の瞬間。


 


地面が爆ぜた。


 


「来るぞ!」


 


ルゥが叫ぶ。


 


邪鬼の巨腕が振り下ろされる。


 


轟音。


 


石畳が砕けた。


 


全員が飛び退く。


 


「速っ!?」


 


ユウトが叫ぶ。


 


見た目と速度が一致しない。


 


巨体なのに速い。


 


速すぎる。


 


邪鬼が再び腕を振るう。


 


今度はコハクを狙った。


 


だが。


 


コハクは軽やかに跳ぶ。


 


金色の髪が宙を舞う。


 


「甘いわ」


 


九本の尾が広がった。


 


風が巻き起こる。


 


巨大な風刃が邪鬼へ叩き込まれた。


 


轟音。


 


だが。


 


傷が浅い。


 


「硬い!?」


 


コハクが目を見開く。


 


その隙に。


 


ニャオミーが突撃する。


 


槍が閃く。


 


猫又王国仕込みの一撃。


 


邪鬼の脇腹を切り裂いた。


 


黒い霧が噴き出す。


 


だが。


 


傷口が動いた。


 


みるみる再生していく。


 


「嘘でしょ!?」


 


ニャオミーが飛び退く。


 


ルゥが前へ出る。


 


「下がれ!」


 


龍の炎が放たれる。


 


紅蓮の火柱。


 


地下遺跡を照らしながら邪鬼を飲み込んだ。


 


熱風が吹き荒れる。


 


だが。


 


炎の中から。


 


巨大な影が歩いてくる。


 


無傷だった。


 


沈黙。


 


全員の顔色が変わる。


 


強い。


 


今まで戦った妖魔とは比べ物にならない。


 


その時だった。


 


邪鬼が咆哮する。


 


黒い霧が爆発した。


 


「っ!?」


 


ユウトは思わず目を閉じる。


 


嫌な感覚だった。


 


胸の奥がざわつく。


 


頭が重い。


 


立っているだけで気分が悪くなる。


 


コハクが膝をついた。


 


「これ……穢れ……!」


 


ニャオミーも顔色が悪い。


 


ルゥだけが何とか耐えている。


 


そして。


 


ユウトだけは平気だった。


 


邪鬼の瞳が動く。


 


真っ直ぐ。


 


ユウトを見る。


 


赤目男もそれに気付いた。


 


赤い瞳が細められる。


 


「なるほど」


 


小さく呟く。


 


ユウトは聞き返した。


 


「何がだ」


 


だが。


 


赤目男は答えない。


 


代わりに。


 


静かに鬼神面へ手を伸ばした。


 


首元に掛けられた白い面。


 


長い白毛が揺れる。


 


まるで生き物のように。


 


その瞬間。


 


ルゥの表情が変わった。


 


「待て」


 


珍しく強い声だった。


 


「それを使う気か」


 


赤目男は答えない。


 


ただ。


 


静かに鬼神面を持ち上げる。


 


そして。


 


ゆっくりと顔へ装着した。


 


空気が変わる。


 


温度が下がる。


 


全員が息を呑んだ。


 


鬼神面の奥で。


 


赤い瞳だけが妖しく光る。


 


邪鬼が咆哮する。


 


赤目男は静かに前へ出た。


 


そして。


 


低く呟く。


 


「下がっていろ」

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