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第三十章 赤い瞳の導き手

冷たい風が吹いていた。


地下へ続く石階段。


奥は見えない。


光も届かない。


まるで巨大な獣の口だった。


 


「帰ろう」


 


ニャオミーが即答する。


 


「まだ入ってないぞ」


 


「入る前だから言ってるの」


 


「説得力あるな」


 


「でしょ」


 


だが。


誰も帰ろうとはしなかった。


 


結局。


ユウトを先頭に階段を下り始める。


 


石段は長かった。


 


十段。


 


二十段。


 


三十段。


 


まだ続く。


 


「深いな」


 


コハクが呟く。


 


「神社より遺跡の方が本体じゃな」


 


ルゥも周囲を見回していた。


 


壁には古い文字が刻まれている。


 


だが。


読めない。


 


誰も見たことのない文字だった。


 


やがて。


 


階段が終わる。


 


その先で。


 


全員が足を止めた。


 


「おお……」


 


ユウトが思わず声を漏らす。


 


巨大だった。


 


広大な地下空間。


 


天井は見えない。


 


無数の石柱。


 


壁一面に刻まれた壁画。


 


そして中央には。


 


まるで祭壇のような巨大な石造建築がそびえていた。


 


「何だここ……」


 


誰も答えられない。


 


コハクが壁へ近づく。


 


「絵?」


 


壁画だった。


 


そこには人々が描かれている。


 


妖怪。


 


獣人。


 


龍。


 


そして。


 


その全員が空へ向かって手を伸ばしていた。


 


「神様か?」


 


ユウトが見上げる。


 


壁画の上部。


 


そこには光に包まれた存在が描かれていた。


 


顔は分からない。


 


だが。


 


どこか白い少女を思わせた。


 


その時だった。


 


「そこから先へ進むな」


 


声が響く。


 


全員が振り返る。


 


瞬間。


 


空気が変わった。


 


そこにいた。


 


黒い和服。


 


肩より少し下まで伸びた黒髪。


 


そして。


 


首元へ掛けられた鬼神面。


 


白い毛が首から肩へ流れるように広がり、


正面から見ると、


まるで白い異形の顔がもう一つ生えているようにも見える。


 


赤い瞳だけが静かにこちらを見ていた。


 


ニャオミーが息を呑む。


 


コハクの尻尾が逆立つ。


 


ユウトは思わず顔をしかめた。


 


「またお前か」


 


男は答えない。


 


代わりに祭壇を見る。


 


そして。


 


小さく呟いた。


 


「間に合ったか」


 


その言葉にルゥが反応する。


 


「何にじゃ」


 


赤目男は視線を向ける。


 


しばらく沈黙。


 


やがて。


 


低い声で言った。


 


「お前達は何も知らない」


 


「だから聞いておる」


 


ルゥが返す。


 


男は少しだけ目を細めた。


 


そして。


 


祭壇の奥を見つめる。


 


「ここには神宝しんぽうが眠っている」


 


静寂。



 

「神宝じゃと……?」


ルゥが珍しく顔色を変えた。


 

「知ってるのか?」


「……いや」


「ただ、聞いたことはある」




コハクも、ニャオミーも、たぬぷぅも。


みんな初めて聞いたという表情だ。


 


男は続ける。


 


「触れるな」


 


「近づくな」


 


「そして今すぐ戻れ」


 


ニャオミーが眉をひそめた。


 


「理由は?」


 


男は答えない。


 


ただ。


 


祭壇の奥を見つめている。


 


まるで。


 


何かを警戒しているように。


 


その時だった。


 


ゴォン――


 


地響きが鳴った。


 


空間全体が震える。


 


天井から砂が落ちる。


 


ユウト達は思わず身構えた。


 


そして。


 


祭壇の奥。


 


闇の中で。


 


何かが動いた。


 


巨大な影。


 


ゆっくり。


 


ゆっくりと起き上がる。


 


赤目男が小さく息を吐いた。


 


「遅かったか」


 


その赤い瞳が細められる。


 


闇の奥で。


 


二つの巨大な光が開いた。


 


目だった。


 


何かが目を覚ましたのだ。


 


そして次の瞬間。


 


地鳴りのような咆哮が地下遺跡を揺らした。

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