第二十八章 白い夢
朝。
目を覚ましたユウトは、しばらく天井を見上げていた。
夢だった。
そう思う。
だが。
妙に現実感が残っている。
白い世界。
真っ白な少女。
そして。
あの言葉。
「来て」
ユウトはゆっくり身体を起こした。
窓の外から朝日が差し込んでいる。
黒霞街道近くの小さな宿。
昨日泊まった部屋だった。
「……何なんだよ」
思わず呟く。
夢のはずだ。
だが。
ただの夢とは思えなかった。
あの赤目の男。
鬼神面。
『神の使いも随分回り道をしたものだ』
あの言葉も頭から離れない。
神の使い。
誰のことだ。
自分なのか。
それとも――。
「起きておったか」
不意に声がした。
ルゥだった。
朝食の匂いと一緒に部屋へ入ってくる。
「朝じゃぞ」
「おう」
「なんじゃ浮かない顔をして」
ユウトは少し迷った。
だが。
隠す理由もない。
「夢見た」
「夢?」
「またあの白い少女」
ルゥの表情が少し変わる。
「ほう」
「今度は喋った」
「なんと?」
ユウトは答える。
「来て」
短い沈黙が落ちた。
ルゥは腕を組む。
「それだけか?」
「それだけ」
「場所は?」
「分からん」
「方向は?」
「分からん」
「役に立たぬ夢じゃな」
「俺もそう思う」
二人は顔を見合わせた。
その時。
勢いよく扉が開く。
「朝ごはんー!」
ニャオミーだった。
続いてコハク。
たぬぷぅ。
完全にいつもの面子である。
たぬぷぅはすでに何か食べていた。
「何食ってるんだ」
「ぱん」
「どこで手に入れた」
「もらった」
「誰に」
「しらない」
「危機感を持て」
たぬぷぅは気にせず食べ続ける。
コハクが椅子へ腰掛けた。
「で?」
「何の話?」
ユウトは夢の内容を説明した。
白い少女。
来て。
赤目男。
神の使い。
全部だ。
話を聞き終えると、
コハクが静かに言った。
「偶然とは思えないわね」
ニャオミーも頷く。
「私もそう思う」
「だよな」
「うん」
そして少し真面目な顔になる。
「だって」
「夢に出てくる女の子って普通もっと可愛い話になるもん」
「何の基準だよ」
「少女漫画基準」
「参考にならねぇ」
ルゥが呆れた顔をした。
だが。
次の言葉は真面目だった。
「我も偶然ではないと思う」
部屋が静かになる。
ルゥは窓の外を見る。
遠く。
黒霞街道の続く方角を。
「昨日の男も」
「白い少女も」
「同じ何かを知っておる」
ユウトも頷いた。
そんな気がしていた。
理由は分からない。
でも。
あの少女は確かに自分を呼んでいた。
「行くか」
ユウトが立ち上がる。
ニャオミーが首を傾げた。
「どこに?」
「分からん」
「分からないの!?」
「でも呼ばれてる」
「雑!」
コハクが小さく笑う。
「でも、そういうところよね」
ルゥも立ち上がった。
「なら決まりじゃな」
たぬぷぅも手を上げる。
「いく」
「お前はおやつがあればどこでも行くだろ」
「うん」
否定しなかった。
ユウトは苦笑する。
だが胸の奥は不思議と軽かった。
白い少女。
神の使い。
そして。
鬼神面の男。
まだ何も分からない。
けれど。
確実に何かが動き始めている。
その先に、
自分がこの世界へ呼ばれた理由がある気がした。




