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第二十一章 花婿候補決定戦

翌日。


猫又王国は異様な盛り上がりを見せていた。


城下町。


広場。


市場。


至る所で同じ話題が飛び交っている。


「聞いたか?」


「聞いた聞いた」


「姫様が連れてきた男らしいぞ」


「婚約者様と勝負するんだって?」


「面白そうじゃねぇか!」


完全に祭りだった。


 


そして当の本人。


ユウトは頭を抱えていた。


「なんでこうなった」


 


城の控室。


豪華な衣装を着せられている。


逃げようとした。


捕まった。


説明した。


聞いてもらえなかった。


三回繰り返した。


結果は変わらなかった。


 


「ごめんね……」


ニャオミーが申し訳なさそうに言う。


 


「何回目だそれ」


 


「ごめん……」


 


「増えた」


 


ニャオミーの耳がしゅんと垂れた。


 


ルゥは椅子に座りながら果物を食べている。


 


「面白そうじゃな」


 


「他人事だと思って!」


 


「他人事じゃし」


 


ひどかった。


 


コハクも肩をすくめる。


 


「まあ大丈夫でしょ」


 


「何が!?」


 


「死なない程度には」


 


「基準がおかしい!」


 


たぬぷぅはお菓子を食べていた。


 


「がんばれ」


 


「気持ちがこもってない」


 


「おかしおいしい」


 


「もういいよ!」


 


その頃。


別室。


 


クグ・ズウォーネット・オーザは静かに剣を眺めていた。


 


窓から差し込む光。


銀色の髪。


整った横顔。


 


絵になる。


とにかく絵になる。


 


近くの侍女たちが小声で話していた。


 


「素敵……」


 


「やっぱりクグ様よね……」


 


「かっこいい……」


 


完全に人気者だった。


 


だが。


 


クグは真面目な顔で考えていた。


 


「ルミナリア……」


 


ぽつりと呟く。


 


「突然婚約者を連れてくるなんて」


 


真顔。


 


「反則では?」


 


侍女たちが困った顔をする。


 


「クグ様……」


 


「大丈夫ですよ」


 


「私、負けるつもりはありません」


 


本人だけ本気だった。


 


そして。


 


運命の時が来る。


 


巨大な闘技場。


 


観客席は満員だった。


 


見渡す限り猫耳。


 


猫耳。


 


猫耳。


 


猫耳。


 


「すげぇ……」


 


ユウトが呟く。


 


「猫耳しかいねぇ」


 


「猫又王国じゃからな」


 


ルゥが当然のように言った。


 


観客席の最前列には王。


 


その隣にはニャオミー。


 


そして。


 


闘技場中央。


 


ユウトとクグが向かい合う。


 


王が立ち上がった。


 


「これより!」


 


大歓声。


 


「花婿候補決定戦を行う!」


 


さらに大歓声。


 


ユウトが叫ぶ。


 


「候補じゃねぇぇぇぇぇ!!」


 


歓声でかき消された。


 


ニャオミーが頭を抱える。


 


「帰りたい……」


 


本人が一番帰りたかった。


 


王は満足そうに頷く。


 


「勝者が娘の未来を決める!」


 


大歓声。


 


ユウトは必死だった。


 


「だから誤解なんですって!」


 


「始め!」


 


「聞いてぇぇぇぇぇ!!」


 


開始の合図が鳴った。


 


クグが歩く。


 


一歩。


 


また一歩。


 


焦りはない。


 


余裕すらある。


 


ユウトは木剣を構えた。


 


一応。


 


構えるだけ構えた。


 


クグは立ち止まる。


 


そして。


 


丁寧に礼をした。


 


「失礼します」


 


「え?」


 


次の瞬間だった。


 


バシィィン!!


 


衝撃。


 


視界が回転する。


 


空が見える。


 


観客席が見える。


 


王が見える。


 


ニャオミーが見える。


 


そして。


 


地面。


 


「へ?」


 


終了だった。


 


沈黙。


 


審判が旗を上げる。


 


「勝者!」


 


「クグ・ズウォーネット・オーザ殿!!」


 


大歓声。


 


ユウトは仰向けのまま瞬きをした。


 


数秒考える。


 


「今なにが起きた?」


 


誰も答えてくれなかった。


 


クグは剣を収める。


 


息一つ乱れていない。


 


ルゥが感心したように頷いた。


 


「強いのう」


 


コハクも頷く。


 


「かなり強いわね」


 


ニャオミーは複雑そうな顔をしていた。


 


王も満足そうに笑う。


 


「やはりクグか」


 


ユウトはゆっくり起き上がる。


 


服についた砂を払う。


 


そして。


 


一言だけ言った。


 


「納得いかねぇぇぇぇぇ!!」


 


その日の夕方。


 


ユウトは再び地下牢へ戻された。


 


「なんでだよぉぉぉぉ!!」


 


叫び声が地下牢に響く。


 


誰も助けてくれなかった。


 


ただ一人。


 


牢の前に立つクグだけが、


少し申し訳なさそうな顔をしていた。


 


「すみません」


 


「お前強すぎるだろ!!」


 


こうして。


ユウトの二度目の牢獄生活が始まった。

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