第二十章 猫耳娘の正体
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気が付くと。
ユウトは鉄格子の向こう側にいた。
石造りの壁。
鉄格子。
小さな窓。
どう見ても牢屋だった。
数秒考える。
もう一度見回す。
やっぱり牢屋だった。
「なんで!?」
思わず叫んだ。
「なんで牢屋なんだよ!!」
その時。
コツコツと足音が聞こえてきた。
「起きたか」
鉄格子の向こうに現れたのはルゥだった。
その隣にはコハク。
たぬぷぅ。
そしてニャオミー。
「おお!助けに来てくれたのか!」
ユウトは立ち上がる。
だが。
三人の姿を見て固まった。
ルゥは豪華な部屋着。
コハクは上品な着物姿。
たぬぷぅは大量のお菓子を抱えている。
「……何その格好」
「客人じゃからな」
ルゥが当然のように答える。
「客人?」
「うむ」
「部屋も豪華じゃった」
「お風呂も広かったわ」
コハクも頷く。
たぬぷぅが元気よく手を上げた。
「おかし!」
「見れば分かる」
「いっぱい!」
「それも見れば分かる」
ユウトは鉄格子を掴んだ。
「なんで俺だけ牢屋なんだよ!!」
「我らも聞いたぞ」
ルゥが首を傾げる。
「なぜユウトだけ牢獄なのじゃ?」
「俺が一番聞きたいよ!」
完全に被害者だった。
ニャオミーが申し訳なさそうに耳を伏せる。
「ご、ごめん……」
「それ昨日から何回目?」
「ごめん……」
「また増えた」
コハクが苦笑する。
「そろそろ説明してあげなさい」
ニャオミーは観念したように息を吐いた。
「……うん」
そう言うと。
後ろの扉が開いた。
侍女たちが入ってくる。
そして。
ニャオミーの前に豪華な衣装を差し出した。
「姫様」
「お着替えを」
ニャオミーが露骨に嫌そうな顔をする。
「着るの?」
「陛下のご命令です」
「うぅ……」
数十分後。
再び現れたニャオミーを見て。
全員が固まった。
淡いピンク色のドレス。
宝石の髪飾り。
気品のある立ち姿。
どう見てもお姫様だった。
「おお……」
ユウトが思わず声を漏らす。
「似合うじゃん」
ニャオミーは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「やめてよ……」
その時だった。
コハクが目を丸くする。
「あれ?」
「ん?」
「ニャオミー」
「しっぽ」
全員の視線が集まる。
ドレスの後ろ。
そこには二本のしっぽが揺れていた。
沈黙。
ユウトが瞬きをする。
「二本?」
ルゥも目を細める。
「ほう」
コハクが驚いた声を上げた。
「猫又だったの!?」
「あ」
ニャオミーが固まる。
完全に忘れていた顔だった。
「今さら!?」
ユウトが叫ぶ。
「耳ある時点で獣人かと思ってた!」
「普通そう思うじゃん!」
「いや二本は珍しいだろ!」
ニャオミーは観念したように肩を落とした。
「そう」
「私は猫又」
「この国の王族」
そして少し照れ臭そうに続ける。
「本名は」
「ルミナリア・ムーンフェリス・ピアステイル」
部屋が静まり返る。
ユウトは数秒考えた。
「長っ」
「やっぱり!?」
ニャオミーが叫ぶ。
「私もそう思うもん!」
ルゥが頷く。
「まるで呪文じゃな。」
コハクも頷く。
「途中で迷子になりそうな名前ね」
たぬぷぅが真剣な顔で考える。
「るみ……にゃおみー!」
「それでいいよ!」
本人も諦めた。
ニャオミーは続ける。
「それで」
「私はこの国の第一王女です」
今度はユウトが頷いた。
「やっぱり」
「えっ」
「なんとなくそんな気はしてた」
「してたの!?」
「礼儀正しいし」
「教養あるし」
「妙に世間知らずだし」
「うぐっ」
全部当たっていた。
ルゥが腕を組む。
「つまり」
「姫が家出しておったわけじゃな」
ニャオミーは耳を伏せた。
「そうです……」
「一年半くらい……」
「長ぇな!?」
コハクも引いた。
「思ったより本格的だったわ」
ニャオミーはさらに小さくなる。
そして。
少しだけ真面目な顔になった。
「昨日の人」
「ああ」
「私の婚約者。
クグ・ズウォーネット・オーザ」
ユウトが繰り返す。
「クグ・ズウォーネット・オーザ…」
ユウトが指を折る。
クグ
ズウォーネット
オーザ
……
数秒後。
「略したらクズ男だな」
ニャオミーが吹き出した。
「でしょ!?」
「でしょじゃないだろ」
ルゥも肩を震わせる。
コハクも笑いを堪えていた。
「なるほど」
「クズ男じゃな」
「だから昔からそう呼んでる」
「お前最低だな!?」
ニャオミーは少し笑ったあと。
真面目な顔になる。
「でも」
「クズ男は悪い人じゃないよ」
ユウトたちが見る。
「強いし」
「頭もいいし」
「国の人からも慕われてる」
「オーザ公爵家の嫡男だし」
「公爵家?」
ユウトが首を傾げる。
ニャオミーは頷いた。
「王家の次に力を持つ名門」
「代々、純血の猫又を守ってきた家系なの」
部屋が静かになる。
「この国には今、人間との混血や半妖もたくさんいる」
「それ自体は悪いことじゃないよ」
「みんな普通に暮らしてるし」
「でも王家には代々受け継がれる力があるの」
ルゥが小さく頷く。
「血統継承か」
「うん」
ニャオミーも頷いた。
「だから王家は純血の猫又を残さなきゃいけない」
「それで」
「私とクズ男の結婚が決まった」
ユウトは少し考える。
話としては理解できた。
王族らしい事情だ。
「じゃあ」
「クズ男のこと嫌いなのか?」
ニャオミーは一瞬だけ目を丸くした。
そして首を横に振る。
「嫌いじゃないよ」
「むしろ好きな方」
「好きなのかよ」
「人として!」
ニャオミーが慌てて叫ぶ。
「優しいし」
「真面目だし」
「困ってる人放っておけないし」
「すごく良い人」
少しだけ寂しそうに笑う。
「だから余計に困るんだよね」
コツ。
背後で扉が開く音がした。
だが誰も気づかない。
「私は」
窓の外を見る。
遠くの空を見るように。
「王妃になりたかったわけじゃないの」
「冒険したかったんだ」
その時だった。
背後から静かな声が響く。
「誰がクズ男ですか」
全員が固まる。
振り返る。
そこには完璧な笑顔を浮かべた青年が立っていた。
銀髪。
美貌。
クグ・ズウォーネット・オーザ。
額には青筋が浮いていた。
「略さないでください」
「いたぁぁぁ!?」
ニャオミーが飛び上がる。
そしてさらに奥から重い足音が響く。
兵士たちが一斉に頭を下げた。
「陛下」
猫又王が現れる。
王は娘を見る。
クグを見る。
そして牢の中のユウトを見る。
しばらく沈黙したあと。
堂々と言い放った。
「決めよう」
ユウトの嫌な予感が最高潮に達する。
「クグか」
「お前か」
「話は聞かせてもらった。」
「どちらが娘に相応しいか」
そして。
王は高らかに宣言した。
「勝負だ」
ユウトの絶叫が地下牢に響き渡った。
「だから違うってぇぇぇぇぇ!!」




