第十七章 癒しの手
村人たちから話を聞いた翌朝。
ユウトたちは子供たちの足取りを追い、
村の裏山へ入っていた。
森は静かだった。
鳥の声も少ない。
どこか空気が重い。
「嫌な感じじゃの」
ルゥが眉をひそめる。
「瘴気が残っておる」
コハクも頷いた。
「昨日より濃いわ」
その時だった。
「……あれ!」
ニャオミーが声を上げる。
森の奥。
倒れた木の陰に、
小さな人影が見えた。
⸻
駆け寄る。
そこにいたのは子供だった。
十歳くらいの男の子。
服は泥だらけ。
意識もない。
「お兄ちゃん!」
村からついて来ていた少女が泣きながら駆け寄る。
間違いない。
探していた子供だった。
「生きてる!」
ユウトが胸を撫で下ろす。
だが。
コハクの表情は険しいままだった。
「……待って」
その声に全員が振り向く。
男の子の腕。
黒い痣のようなものが広がっていた。
まるで墨が血管を這っているみたいに。
「これは……」
ルゥが眉をひそめる。
「瘴気じゃ」
空気が重くなる。
⸻
コハクが膝をつく。
淡い光が手から溢れる。
回復術だった。
だが。
何も起きない。
黒い痣は消えなかった。
「駄目……」
コハクが唇を噛む。
「普通の治療じゃ抜けない」
ルゥも首を振った。
「かなり深く侵食されておる」
少女の顔が青ざめる。
「お兄ちゃん……」
震える声だった。
⸻
ユウトは男の子を見る。
苦しそうだった。
額には汗が滲んでいる。
放っておけば危ない。
そんな気がした。
「……俺がやる」
ユウトが言った。
コハクが振り向く。
「え?」
「多分できる」
根拠はなかった。
でも。
分かった。
前にも見た。
ルゥの穢れを祓った時と同じ感覚だった。
⸻
ユウトはそっと手を伸ばす。
男の子の額へ触れる。
その瞬間。
頭の奥で声が響いた。
【瘴気を確認】
【浄化を開始します】
「……っ!」
白い光が溢れた。
優しい光だった。
温かい。
春の日差しみたいな光。
⸻
すると。
黒い痣がじわじわと消え始める。
「なっ……」
コハクが目を見開いた。
ルゥも驚いている。
黒い瘴気は煙のように抜け、
空中で消えていく。
やがて。
最後の一欠片まで消え去った。
⸻
男の子の瞼がぴくりと動く。
「……あれ?」
目が開いた。
意識が戻ったのだ。
「お兄ちゃん!」
少女が飛びつく。
男の子はきょとんとしていた。
「なんで泣いてるの?」
「ばかぁぁぁ!」
少女は大泣きだった。
⸻
その光景を見て、
ユウトはほっと息を吐く。
よかった。
本当にそれだけだった。
だが。
周囲は違った。
⸻
コハクが信じられないものを見る目をしていた。
「そんな治療……聞いたことない」
ルゥも腕を組む。
「瘴気そのものを消したのう」
ニャオミーも呆然としていた。
「普通の回復術じゃないよね……?」
「え?」
ユウトは首を傾げる。
「そうなのか?」
「そうなのかじゃないわよ!」
コハクが珍しく声を上げた。
⸻
ユウトは困った顔をする。
出来たからやった。
それだけだった。
でも。
仲間たちの表情を見る限り、
どうやら普通ではないらしい。
⸻
その時だった。
ルゥが森の奥を見つめる。
赤紫の瞳が細くなる。
「……妙じゃな」
「どうした?」
「瘴気が流れておる」
風が吹く。
森のさらに奥から。
黒く淀んだ気配が漂ってきていた。
まるで。
何かが呼んでいるみたいに。




